第31話 さあ、帰りましょう
こちらの名前をオーム返しに口走ってくれると言うことは、会話が成り立っていると言うことだ。これは良い兆候なんだ。
パニックになっている人は、言葉のキャッチボールが成立しないからね。こちらの言う事は一切聞かずに、自分の要望だけを繰り返しがなりたてるんだよ。
「早くなんとかしろ。こっちは高い金払って、お前の所のゲームをやっているんだ。俺はお前たちから見たらお客様なんだぞ。お客様は神様なんだろう? とにかく直ぐに元の世界に戻せ」とか、なんだ、かんだ、ガガガ……
みたいな人が多いんだよね。
そう言う人の場合は、少し放っておくんだよね。暴れるような神様は要らないですー、とか言って無視するんだ。
赤ん坊と同じで、しばらくすると叫び疲れて次のモードに入るんだ。泣き落としモードだ。
「オイオイ、怒鳴って悪かったよ。そんなに無視しないでくれよ。お前は俺を助けに来たんだろう? その為に高い給料もらってるんだろう」
モチロン、この程度の泣き落としには反応しない。別に貴方を助ける為に給料もらってる訳じゃないからね。だいたい、助けに来た人に対して「オマエ」は無いでしょう?!
それでも放っておくと、最後は脅しモードだね。
「おい、オマエ。いつまでも俺を助けないなら訴えてやるぞ! オマエも、この会社も訴えて賠償金を取ってやるからな。冗談じゃあ無い、本気だからな。俺の知り合いに弁護士がいるから絶対にお前たちを有罪にしてやる」
とか言い出すんだ。
でも、駄目だね。このゲームをする時に仮想世界を運営するこの会社の会員になります旨の契約書にサインしているからね。
その契約書には、どんな状況でも安全管理を行うために会社の言う事に無条件に従わなければならない、と明記されてるんだ。
もしもそれに従わない場合には、プレイヤーさんは法律的にも金銭的にも私たちの会社を訴えられない。こちらも法律のプロが何人もいるんだから、法的な抜け道なんか無いんだよ。
そこまで時間をかけて、やっと諦めて僕たちの言う事をイヤイヤ聴き始めるんだよね。ホント困っちゃうよね。
ライトノベルとかでは、VRMMOとかARMMOとか夢のような世界での御伽話が書かれてるけど、現実は甘く無いんだよ! だって、どんな世界にもトラブルはあるんだからね……まあ、その時の対処を行うために僕ら縁の下の力持ちというか、黒子がいるのだけれどね。
でも、サキさんはエライよ。自分がしんどいのに、ちゃんと会話しようとしているんだからね。そういう人こそ、僕たちは全力で助けてあげたくなっちゃうんだ。当然だよね?
だって僕たちはAIじゃなくて人間だからね。だからこそ、最低の礼儀としての挨拶ぐらいはして欲しいのさ。
『おはよう』、『こんにちは』、『いただきます』。これらの挨拶ぐらい出来ないようじゃあ、人として終わってるよ。
僕たちは、困っている、トラブルに巻き込まれた『人間』を助けに来てるんだからね。
さてと、随分と長い独り言になっちゃったけど、早くサキさんを連れてリアル世界に帰れる様に準備を始めなきゃあね。サキさんも、大分まいっているようだし。
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