第29話 探していた人は
え? もしかしてサキさん?
あの……、スナイパーのサキさん?
倒れている彼女を見て、僕の頭の中は突如としてぐるぐる回り始めた。ヤバイ、僕が動揺してどうするんだ。ここは先ずは深呼吸して落ち着かななきゃあー。
「おーい、ジローちゃん。どうしたんだ? いきなり君の心拍数が上がって、脳波もノイズが増えたぞ! 何かヤバい物でも草の間に隠れていたのか?」
おっといけない!
システム管理のマサさんのモニターには強制ログアウトさせるべき対象プレイヤーのサキさんと同じく、共同ログアウトの支援者である僕のパーソナル情報も表示されているんだった。僕のドキドキがマサさんに筒抜けなんだ。
「マサさん、大丈夫です! 問題ありません。草むらに小さな狩猟用のキャラクタが隠れていたので、ちょっとビックリしたんですよ」
危ない、危ない。
マサさんは、僕とサキさんとの関係を知らないはずだもん。これは、あくまでも僕の感情だからね。ドキ、ドキ、ドキ。ここは、思考を感情部分から論理部分にスイッチするんだ。『かち!』
考えてみたら今回トラブルが発生したのは、サキさんもゲームに参加している『銃の世界』だし、スナイパーは他のプレイヤーさんより早めにログインする事が多い。基本的に待ち伏せスタイルになるので、端末を小まめに見ないため、自分の仮想端末が表示されないトラブルに気付くのに時間がかかる。
しかも、『妹』て事はプレイヤーさんは女性だって言う事を表していた。
確かに、プレイヤーさんとゲーム世界のアバターが同じ性である必要は無いから、この場合『妹』イコール、女性型アバターと考えるのは早計かもしれない。だから、トラブルが発生した時は出来る限り個人上場は参考にしないように務めてきた。
だからこそ、今、ここで倒れているのがサキさんである事に気がついて驚いた。
でも、サキさんが知っているのは、酒場のバーにいるマスターであって、それは表向きゲームを通常管理しているAIのアバターであって、時々マスターの中の人になってる僕では無い。
そもそも、安全管理の為に不定期にNPCのキャラクターの中身が人間に入れ替わっていることが有るなんて、公式的には一切報告されていない。仮想ゲームの中はプレイヤーさんとAIが管理したNPCしかいない事になっているから。
ここで僕がサキさんと酒場での会話なんかしたら、今でも不安定なサキさんの心が折れてしまう。そんな事は絶対に有ってはならない。
あくまでも僕はサキさんに初めてあうゲーム会社の人間であって、サキさんの事は知らぬ存ぜぬを通さなければならない。
良し! 何とか感情部分を心の奥にしまって、論理的な思考になったぞ。
* * *
じゃあ、大事なプレイヤーさんを助けに行くぞ。プレイヤーさん、もうすぐログアウト出来るからね。僕と一緒に外の世界に帰りましょう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます