第28話 やっとご対面
「それでは、これから仮想ゲームの世界に行ってきますので、妹さんの手を握っててあげて下さい」
混乱している人を落ち着かせるには、何か目的を与えるのが良いんだよね。特に肉親の場合はこの方法が一番効果があるんだ。
それに強制ログアウトした直後は精神的に不安定になっている事が多いので、家族が側にいると落ち着く場合が多いし。
おっといけない、一番大事な事を伝えておかないとね。
「それと、私がログインしても直ぐには戻れないかも知れませんが、信じて待っていて下さい。絶対に無理やり起こそうとしたり、ヘッドセットの電源を切ったりしてはいけませんよ」
僕がログインしちゃうと歯止めが無くなって色々な事を始める人がいるので、少し牽制しておかないとね。
「ログイン中に電源を切ると、妹さんも私もこのリアルな世界にマトモな状態で戻れる保証はありませんからね」
実際の所、ログインしてもプレイヤーさんが興奮していたら強制ログアウトは出来ない。強制ログアウトするためには僕のシステムと同期して、僕の端末の管理に身を委ねる状態にならないとダメなんだ。
そのためには早くプレイヤーさんに強制ログアウト出来る安定した状態になってもらう必要がある。これは結構大変な作業なんだよね。早くログアウトしたいからと気ばかり焦って興奮したままではダメだからね。
今の現実を素直に受け入れて、じゃあどうすれば良いのか? を冷静になって考える事に意識を向けさせる作業だからね。
「それでは、お兄さん行って参ります!」
スイッチオン!
バシャーン。
ビューン。
どーん。
……
「こちらZAAF1392、システム管理者応答願います。どうぞ!」
「はい、こちらはシステム管理者AAAA3001、感度良好です。どうぞ!」
「はい、こちらはH/W管理者BAAA5100、こちらも感度良好です。どうぞ!」
マサさんとユウさんとは無事に連絡出来ているようだ。これで勇気リンリンだぜ。あの2人が付いていてくれれば鬼に金棒だ。
まあどっちが鬼で、どっちが金棒かはココでは言わない方が良いな。何たって今僕の喋ることは2人には筒抜けだからね。
さてプレイヤーさんをサッサと探さないと。マサさんの話では、肉体的にも精神的にも限界に来ているらしいからね。
早く説得して落ち着かせないと。でも興奮している相手を説得するのは至難の技なんだ。だってこっちのトラブルが原因なわけだしね。これで相手が男性なら二、三発ぶん殴られても文句は言えないんだよな。
結局、トラブルは最前線にいる者が全て引っ被るんだよ。責任は上層部にあるから君たち現場の人間に罪は無いよ、なんて言う神様みたいなプレイヤーさん見たことないもんね。
コンビニに行っても、ファミレスに行っても、荷物の配送だって、何かあったら目の前の担当者にクレームするでしょ、普通はさ。コンビニのATMだって、あの横に付いてる連絡電話はATM会社や銀行の担当者には繋がらないんだよ、知ってた?
トラブル対応専用の別の会社のオペレーションセンターに繋がるんだよ。そこで皆んなストレスを晴らすために、ボロクソ言うけどさ、電話の先はバイトのお姉ちゃんやお兄ちゃんが頑張ってオペレーションマニュアルに従って会話してるんだ。
オペレーションセンターのフロアーには、一応銀行からの出向で来ているおじさんとATM作っているエンジニアもいるけど、絶対に電話には出ないよね。一応オペレータのフォローをするのが彼らの仕事で、電話対応はオペレータのお仕事なのさ……
ゴメンね少し愚痴っちゃった。
ブルンブルン、少しかぶりを振って、気合いを入れてから周りを見渡す。マサさんがプレイヤーさんの位置情報を僕のバイザーに送ってくれているはずなので、バイザーを被る。
あ、居た!
10時の方向、距離10メートル。良し、直ぐに出発だ!
ザザザザ。
草原の草をかき分けて進むと、そこには、いつもバーで会話してた、あのスナイパーのサキさんが、グッタリとして横たわっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます