第27話 妹さんは無事ですか?

 お兄さんが扉を開けて入って行った。


 お兄さんが妹さんの様子を見ている間に、僕はマサさんに連絡してプレイヤーさんの最新の状況を確認していた。


「ジローちゃん、そろそろ急いだ方が良いな。さっきから更に状況は悪くなっている。心拍数が平常値からかなり上がっているし、呼吸数もかなりヤバイ状況だ」

 マサさんは、努めて平静なそぶりを見せるようにしているけど、出て来る言葉が全て悲観的なのはなぜ? それだけ状況が悪いという事なんだろうね。


「それにしても、悪い言い方だけどどうやってプレイヤーさんの家庭に侵入出来たんだい? あれだけ連絡しても無反応だったのに……」

 マサさんは定食屋さんでの連携プレイを知らないので、僕がプレイヤーさんの家にいる事が不思議でしかたないようだ。まあ、僕もここまでスムーズに事が運ぶなんて思っていなかったしね。


「あ、さっきユウさんから連絡をもらったよ。彼の準備も完了しているようで、必要な許可は全て降りているとの事だ」


 マサさんと話していたら、ユウさんから割り込み通話が入ってきたので、マサさんにことわってから切り替える。


「ジローちゃんご苦労様。申し訳ないけど故障している機械はまだ復旧する見込みが無いんだ。だから、これから行う強制ログアウトは担当部門の責任者からGOが出ているよ」

 ユウさんは、申し訳なさそうにH/Wの状況を告げて強制ログアウトの作業を続けるように行ってくる。


「こちらも、いつでも良いぜ。プレイヤーさんの全体状況をリアルタイムで見ているからな」

 マサさんは管理コンソールからプレイヤーさんの状況を教えてくれる。


「ユウさん、マサさん、ジローです。準備オッケーですね?」

 僕はスマホの通話状態を三者会議モードに切り替えた。


「大丈夫だよ、既にプレイヤーさんのヘッドセットの電源回線をこちらで把握している。こちらの指令でいつでも電源を切れる状態にしてあるからね」

 ユウさんもH/W側の準備が整っている事を教えてくれた。


 今回は直接プレイヤーさんの拡張用ヘッドセットのコネクタに接続出来るから、僕が仮想世界にダイブしてプレイヤーさんと一緒ログアウトする方法を取ることにした。

 予めシステム管理担当者経由で、今回のトラブルと強制ログアウトの許可申請を出す事を連絡してあるから、親会社の社長決済を含めても数秒で完了するはずだ。


「あのー、ゲーム会社の方。妹は普通に寝間着を着ているので部屋に入って頂いて結構です。悪い夢を見てうなされているようです。直ぐに助けてあげて下さい、お願いします」

 妹さんの部屋からは、お兄さんの声が聞こえてきた。


「失礼します!」

 特殊なヘッドセットを持って入って来た僕を見て、一瞬ギョッとしたお兄さんだが、直ぐに気を取り戻して、好奇心一杯に話しかけて来た。


「それは何ですか? 私もゲームをするので色々なヘッドセットを見て来ましたが、そんな形の機械は見た事有りません」


 オイオイ、そんな事聞いている場合か? 妹さんの一大事なんだぞ! やはり危機感は無いんだろうなあ。


「これは社内で使う専用ヘッドセットです」

 お兄さんの好奇心を満たしてもらうために、軽く説明を始めた。


 通常は仮想世界にログインすると元の世界との連絡は出来ないんです。脳内に余計なストレスがかからないように、脳と外部の刺激を遮断する機構が働くのです。だから、ゲーム中は外の世界とは連絡出来ないのです。

 しかし、私達はゲーム世界と外界とをつなぐ仕事をしている関係上ログインしてても外部刺激を遮断しません。

 そうすると、脳が混乱するのでその混乱を回避する為の機能を追加してます。その分使用する時は使用者には物凄いストレスが加わりますので、訓練を受けた一部の社員しか使用出来ないのです。


 ヘッドセットの横に付いている赤いLEDが緑に変わった。全ての承認が下りて、このヘッドセットを使用して強制ログアウトを行う準備が出来たサインだ。


良し! プレイヤーさん救出の為に、ゲーム世界にダイブするぞ。

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