第25話 15階の住人

 エレベーターを降りて廊下を見渡す。広い廊下には当然誰も居ない。

 えーと、1515室は何処だー? 部屋番号を確認しながら廊下をウロウロする。こんなの誰かに見られたら一発でアウトだろうなあ。

 って言うか、多分監視カメラにはしっかり録画されてるだろうから、もしもこれで何かやばい事が起こったら僕が第一容疑者だよね。


 今更ながら、何でこんな事やってるんだろう? 会社の命令は関係者と連絡を取って対応しろ、ぐらいの話だもんなあー。


 多分今僕がやっているのは明らかな越権行為なんだろうなあ、と思ってる。でもプレイヤーさんの精神状態が不安定になり始めているという事は、プレイヤーさんの心がかなり追い詰められている状況のはずだから、心が折れる前に出来る限りの事はしてあげたいじゃん。

 結果、それで始末書が増えるなら、まあ良いか? だよね。人によっては、そこまでやる必要はないのに、とか言うけどね。


 人は人、僕は僕さ。始末書増えても別に死ぬわけじゃないしね。とかとか思っていたら、1515室を発見! 取り敢えずは、ダメ元で玄関のインターフォンのボタンを押す。


 ピンポォーン! ピンポォーン! ピンポォーン!


 いつも思うけど、どうして最近のインターフォンって一回押しただけなのに三回も鳴るんだろうねえ、三倍マシマシなんて必要ないよね。大盛りはご飯だけで良いよー!


 ……


 やっぱり駄目かな? と、次の手を考え始めた瞬間。


「はーい? どちら様ですか」

 不思議そうな感情がこもった返事がインターフォンの向こうから聞こえてきた。


 僕は天にも登りたい気持ちを抑えて、インターフォンのカメラから見えないように、ガッツポーズを取った。ウォッシャー!


「突然のインターフォン、誠に申し訳ございません。私は仮想空間でのゲームを運用している会社の者です。今プレイしている仮想世界でトラブルがありまして、プレイヤー様の緊急連絡先に留守電メッセージを入れさせて頂いた者です」

 インターフォン越しに経緯を説明しながら、カメラに向かって社員証と僕の顔が同時に見える様に顔の真横に社員証を並べてみせた。

 しまった、忙しくて最近床屋に行ってないから社員証と髪型が違うかも? とか思ったけど、そこは愛想笑いで誤魔化す。


「ちょっとお待ちください。今行きますね」

 若い男の人の返事が聴こえて、インターフォンはブチッと切れた。


『かちゃかちゃ、ガチャン』

 鍵のハズレる音がした。どうやら僕の事は信頼されたようだ。ホ!


「こんにちは、あなたがさっき留守電にメッセージを入れてくれたゲーム会社の方ですね?」

 玄関の扉を開けた状態で、若いお兄さんが話しかけてくれた。まだ微妙に警戒しているようで、ドアチェーンはかかったままだ。


「一体何が会ったんですか? 確かに今朝から妹がゲームしている筈なんですが、いつまでも部屋から出てこなくて心配になっていた所なんです」

 ゲームをしているのは妹さんなのか。お兄さんは心配そうな顔をしている。


「そこへゲーム会社から仮想世界がトラぶったと電話が来るし。さらにあなたからも連絡が来るし」

 お兄さん、電話の連チャンで途方に暮れていたようだ。気持ち、目が泳いでる。


「最初の会社からの連絡では大した事は無いような感じだったのに、貴方の連絡ではかなりセッパ詰まった様だし?」

 そうか、最初は事務連絡だと思ってて妹さんが起きてから対応しようと思ってたところに、僕のヤバそうな電話で困ってたんだ。


「兄貴でも妹の部屋に入るにはそれなりの理由や覚悟が必要なんですよ? お願いだから、本当に今何が起こっているのか? を簡潔に教えて下さい!」

僕よりはずっと歳が上の、でもまだ若い分類に入るであろうお兄さんは、心底困っているようだ。自分の頭を整理するためにも道筋だった話をしてあげよう。

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