第24話 やっと着くかな
エレベーターはスルスルと目的階まで登って行く。
取り敢えずここまでは何とか来れたけど、此処からが最大の難関だよなあ、と思う。だってさ、さっき留守電にメッセージ入れたのに未だに返事が来てないんだよ。これは少しヤバイよね。
宅配の兄ちゃんの情報ではプレイヤーの家族がまだ自宅に居るらしいのに連絡来ないのはどうして何だろう? もしも誰も居なかったらドアを蹴破るか? それとも本当に最後の手段を使うかだよな。
ここでもう一度確認するけど、プレイヤーさんをログアウトさせるにはいくつかの方法があるんだよ。
一番安全な方法は自分の意思で仮装端末を使ってログアウトする方法。これは自分がログアウトすると言う明確な意思とシステム側のログアウト処理が同期しているので極めてスムーズに且つ安全な方法なんだ。肉体的にも精神的にも何のストレスも感じない。
次に安全な方法は、仮想空間を疑似体験するヘッドセットに付いている予備端末を使う方法だ。但しこれを使うにはプレイヤーさんのいる場所まで物理的に近づかなければダメだ。何しろ端末に自分のヘッドセットを接続してプレイヤーさんと同じ空間を共有する必要があるからね。
まあ二人三脚みたいな感じでプレイヤーさんと同期を取りながら、ログアウトの処理は予備端末からログインしたメンテナンス用の仮装端末を使う方法だ。但しこの方法はプレイヤーさんの全記憶を共有するのと同じなのでプレイヤーさんは嫌がると思う。だって自分の感情や過去の記憶を全て見られてしまうからね。
でも、コレならば自分の仮装端末からログアウトするのとほぼ同じぐらいのストレスらしいので、プレイヤーさんの理解が得られればおススメかな。
ここからは結構ハードルが上がる。
次はいよいよヘッドセットの横に付いている緊急ログアウトボタンを使う方法だ。この方法は肉体的にかなりのストレスが加わる事が分かっている。脳神経に外部から電磁パルスを使ってプレイヤーさんの脳内空間に仮装イメージを作っている訳だから、脳はその状態を通常と思っている。その状態から電磁パルスを止めると言う事は、走行中の車が急停車するようなものだからね。
そこで、メンタルトレーナーがプレイヤーさんの仮想空間にログインしてプレイヤーさんの健康(精神)状態を見ながら、ヘッドセットの電磁パルスの出力を少しづつ落としていくんだよね。車だってゆっくりスピード落とせば大丈夫でしょう? だから、こちらもプレイヤーさんのヘッドセットの予備端子に直接僕のヘッドセットを接続する必要があるんだよ。
但しこれはプレイヤーさんの記憶を共有する必要が無いから停止スピードに時間をかける事が出来る場合はおススメかな?
まあ、そういうこともあって直接プレイヤーさんのいる場所に行く必要があるんだよね。
後は、本当にヤバイ場合の最終手段として「強制ログアウト」と言う方法がある。これは、強制切断(ディスコネクト)と言ってシステム権限で強制的にプレイヤーさんをログアウトさせる方法だ。
これは結構危険な方法で通常は絶対にしてはならないと規定されているんだ。何しろ仮想世界で動いている人格を強制的に引き剥がして実空間に戻す事だからね。
昔、まだシステムが不安定でベータテストの頃にそのような事故が起きてしまい、その強制ログアウトを実施したことがあるんだそうだ。そのプレイヤーさんは結局半年近く心も肉体も不安定な状態になってしまい、数ヶ月の間精神病棟で治療する事になってしまったんだそうだ。ブルブル。
これは僕たちの業界では有名な話だけど世間には絶対に公表できない事なんだ、だから今喋った話はエレベーターから出たら忘れてね。これがバレたら更に始末書が増えちゃうからね。
チーン! あ、15階に着いたね!
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