第23話 工事のおじちゃん達
「よう兄ちゃん、そろそろ出発するぜ! 早く車の後ろに乗りな」
緊急パックをアパートから取ってきたら、すでに5Gアンテナ工事のおじさん達は車のエンジンをかけていた。
直ぐそばと言ったって、歩けばそれなりの距離だ。おじさん達も仕事で来てるので工事用具が沢山あるからマンションまでは車で行く事になるのは、まあ当然んだよね。
「ごめんな兄ちやん、後ろ狭いんだよなぁ。普段はもう少し余裕があるんだけど、今日は午後から新しい現場に送信機も届けなきゃ行けないんで持ってきちまったんだ」
助手席に座っている、ご飯の食べるのが早いおいちゃんが、すまなそうに話しかけてきた。
「この手のワンボックスカーは、荷物さえ積まなけりゃガラガラなんだけどな。工具と機械をタップリ積んで現場に行けるから、俺たち現場の人間にとっては重宝するんだよ」
おいちゃん、せわしなく車のグローブボックスからタバコを探しながら色々と教えてくれるんだ。
「でもよ、重宝な車ってことは、よく盗まれるんだよ。俺の知ってる事務所では朝一番に来たら車がごっそり無くなってるのに気付いて大騒ぎになった事があるんだ。海外では高値で売れるんだろうなあ」
結局見つからず、今度は自分のポケットを探し始めながら、車の話は続くんだ。
「結局、その後は車を盗まれないように駐車場の端に寄せて、その周りをバッテリーを外した軽自動車で囲む作戦に出てるらしいんだそうだ。ホント大変だぜ」
確かによく分からない機械と機材が車の後ろにタップリと載っている。大きめのワゴン車なんだけど、これだけ機械を積んでるとあまり余裕はないよね。
こうゆう時だけ、やはりダイエットしなきゃあダメかなあと思うけど、イヤイヤ、そんな事したらストレス溜まっちゃうからダメダメと懸命に悪魔の誘惑に耐える。
あれ? 普通はダイエットする時に、ダイエットなんか辞めちゃえって言うのが悪魔の誘惑の様な気がするなあ? なんで反対のシチュエーションなんだろう。
とかなんとか、考えている間に車はマンションの専用駐車場に滑り込んで行く。
どうも予め連絡されているようで、駐車場の許可証を車のダッシュボードから取り出してフロントガラスからよく見える所にポイと置く。
更にダメ出しとして『お世話になります、NDTドドモの工事を屋上で行なっております。許可されてこの場所に駐車させて頂きますが、もしも何かありましたらこの携帯電話にご連絡下さい。カモカモ工事(株)担当者、田中イチロウ』のカンバンまで車のフロントガラスの見える場所に置いてるよ。
へー、あのおいちゃん、田中さんて言うんだ。感謝だよ、田中さん!
僕は、おじちゃん達が車から出した荷物を積んだ台車の後から少し離れて、のそのそとついて行った。
あまり近づくと、おじちゃん達の仲間と思われて、後で何か言われておじちゃん達に迷惑かけたく無いし。あくまでおじちゃん達は善意の第三者の立場にしておかなくては。
ドキドキ。
マンションの入り口に来たら、おじちゃん達は借りてる入館キーを使って扉を開ける。おじちゃん達が機材を積んだ台車と共に、開いているマンションの玄関扉を気持ちゆっくりと、さもマンションの住人のフリをして通り抜ける。
ドキドキ、ドキドキ。
ここのマンションは、エレベーター室の前にも暗証キーが必要な扉がある。でも工事のおじちゃん達は屋上に行くのでエレベーターのキーも持っているらしいんだ。おじちゃん達がエレベーター室に通じる扉を開けたら、その隙に僕も扉を通り抜ける。
ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ。
おじちゃん達は、監視カメラに見えないように僕に手を振って屋上行きエレベーターに乗って行った。おじちゃん達ありがとうございます。
僕はおじちゃん達とは別のエレベーターに乗って15階のボタンを押した……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます