第22話 みんなの出番4

「どうした、どうした?」


 素っ頓狂な声を上げてから、暗い面持ちで連絡を取ってるジローを観て、定食屋の常連達が、心配そうに寄ってきた。


「イヤ、何でもないですー。皆さんにはご心配かけて申し訳ないですね」

 ジローは、彼らに心配をかけないように努めて冷静に返事をした。


 ……と、そこに『ピロン!』の音と共に、件のプレイヤーの住所が送られてきた。ダメもとで、ジローに直接連絡を取ってほしいという事らしい。


 お!? ジローの端末を覗き込むように見ていたトラ猫宅配の兄ちゃんがつぶやいた。


「その住所はそこの20階マンションっすね。あれ、15階のそこ今朝VIP便で若い男の人に宅配してきたっす。何かあったんすか? あ、VIP便て、時間指定の少しお高い宅配オプションなんすけど、結構人気あるんすよね」


 トラ猫配達の兄ちゃんは、ジローに対してさらに色々と話しかけて来る。


「さっき朝飯前にGamazonからの荷物を届けてきたからまだ自宅にいるんじゃないっすかね。連絡しても出ないんすか? それはおかしいっすね」


 やば! 個人情報とかも見る事があるので、通常は覗き見防止フィルターをONにしておくのだけれど、如何せんビックリして無防備状態だったので、フィルターをONにするの忘れてた。ははは(冷や汗)これだけで、始末書もんだよ。


「貴重な情報ありがとうございます」

 ジローはペコリ、と頭を下げた。


「でも、ここで見た情報は内密にお願いしますね。トラ猫さん」

 人差し指を口元に持って来て、トラ猫配達のおにいちゃんを見る。


「あたりきしゃりきの、こんこんちきっすよ。オイラ達宅配の人間は、住所情報の大事さを身をもって知ってますんで、今見た、聞いた話は定食屋を出た瞬間に忘れますって!」

 トラ猫配達のおにいちゃんは、ドヤ顔で同じく口元に指を当てる。


 ジローは、早速メールで受け取った連絡先に電話してみた。


 ぷー、ぷー、ぷー、

 呼び出し音がむなしく鳴る。


 そして留守録に切り替わってしまう。

「おかけになった電話番号は只今お取り扱いできません。連絡事項は、ピーっと鳴ったら30秒以内に吹き込んでください」

 ピー。……


「あ、こちらは仮想ゲーム世界のサービス会社のジローと言う者です。先ほど運用側からも連絡があったと思いますが、そちらに仮想ゲームを行っている方がいらっしゃると思いますが、緊急で外部からログアウトする必要がございます」

 ジローは留守録にメッセージを入れる。


「今から伺いますので、マンションの開錠とご自宅へ上がる事をご了承下さい」


 ぷーぷーぷー。


 とりあえず留守電に入れてはみたが、ジローは肩を落としながら考える。


 連絡しては見たものの、そもそも連絡が取れないんだからいけないよなぁ。最近のマンションは、入り口も認証キーが無いと入れないから15階にもたどり着けない。どうしよう。


「おいおい、どうした若い兄ちゃん。どうしても、あそこのマンションに入んなきゃあ行けないのか? そこの住人と連絡取れないとまずいんだろう」


 後ろから、5Gアンテナ工事の2人組のお兄さん達が声をかけてきた。


「詳しい事は言えなくて申し訳ないんですが、人命にかかわる事で、どうしてもあのマンションに入る必要があるんです。何方か、マンションの住人をご存じなんですか?」


「いやー、そんな訳では無いんだが、昨日から俺たちあそこの20楷マンションの屋上でアンテナ工事をしてるんだよ。だから、実はマンションの入り口と屋上に通じる認証キーを借りているんだよね。今から工事のためにマンションに入るけど、たまたま兄ちゃんが俺たちの後ろから入ってしまっても、俺たちは何も知らなかったって事で良いんじゃないか? 人命にかかわるってな話しなら、まあ、見て見ぬふりだよ、なあ、相棒!」

「そうだな、そうだな。もぐもぐ」


「ありがとう、5Gのおじさん達」

 どうせ始末書書くんなら、1枚も2枚も変わらないや。矢でも鉄砲でも持ってこいー! とにかくマンションに入ったら、ドアをけ破ってもプレイヤーさんを助けなきゃあ。

 おじさん達、自宅から、強制外部ログアウトした時に必要になるヘルスパックを持ってくるから、直ぐにマンションに行きましょう。


「よっしゃ、ゴー、ゴー、だな」

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