第21話 みんなの出番3

「やばいよなー、これ」

 システム管理課のコンソール画面の前で、緊急連絡を一括送信しながらマサさんはボソリと呟いた。


 ゴクリ……


 彼はカップ受けに置いてあるウーロン茶を一口飲んでから、各ゲーム世界で戸惑っているプレイヤーに対して、担当者が直接伝えるべき内容を書き始めた。


 ……

 現時点で、ゲーム世界に取り残されているプレイヤーは少ないですが、各運用管理者は大至急担当ゲームにログインしてプレイヤーに今の状況を説明して下さい。

 以下は、説明内容です。この内容を各プレイヤーに説明して、プレイヤーを安心させて下さい。


『ログアウト出来なくても、システム管理AIや管理担当者がプレイヤー様の安全を100%保証します。管理チームは全力で回復作業を行っていますが、まだ回復予定時間が明確には出来ません。システムが正常に戻るまでは、安全地帯から決して出ないようにしていて下さい』

 ……


 ピンポン、ピンポン。


「お、ジローちゃんから連絡だな」

 マサはコンソールの通話ボタンを押しながらジローと会話を始める


「ジローちゃん、緊急連絡見てくれた? 今朝まで働いてて申し訳ないけど、君が担当している仮想ゲーム世界でもトラブルが発生しちゃってるんだよ。ゲーム世界に取り残されているプレイヤー様に説明するため至急ログインして欲しいんだけど、その前にお願いがあるんだ」


 マサは、別の端末を開きながらジローに話し続ける。


「H/W管理のマサさんから今回のトラブルの原因を聞いたんだけどね。結局H/Wの問題らしいんだ。5G回線のネットワーク機器からノイズが出てるらしくて、そのノイズが原因でネットワーク交換機のモードが高速に切り替わっているらしい。その影響に引きずられる形で超並列量子コンピュータの一部ノードが緊急用の管理モードに入ったり出たりの処理を繰り返しているんだそうだ。

 コンピュータやネットワーク機器は複数システムで構成されているから、故障したら切り替わる前提なんだけど、今回は故障じゃなくてノイズによる誤動作なので、システムが切り替わった後で元に戻ろうとしちゃうみたいなんだよ。

 唯一の解決方法は、ノイズの原因になっている5G回線専用のネットワーク機器を一度切放してしまう事だそうだ」


 マサはここまで一気に話してから、言い難そうに一瞬間をあける。


「しかし、今日の朝から5G回線を使ってゲーム世界に入っているプレイヤーがいるんだ。そのため今のまま5G回線を切ると、そのプレイヤーに影響を与えてしまう恐れがある。

 昔、ある狂信的な科学者が作ったVRMMOで、プレイ中に死ぬか、強制的にログアウトするとリアル世界の本人が命を失うというゲームがあったよね。

 今のインターフェイスでは、外部から強制的にネットワークを遮断してもそこまで肉体的な影響は出ないけど、精神的なダメージは残るらしいと言われてる」


 マサは、ここでもう一息ついて、ジローの反応を伺う。


「そこで、お願いがあるんだけど、君のアパートの周辺に5G回線で繋がったままになっているプレイヤーがいる。そのプレイヤーの家族に連絡してヘッドセットに付いている緊急用外部ログアウトを実行して欲しいんだ。

 実は、一時間前からプレイヤーさんの緊急連絡先に連絡してるけどダメなんだ。

 システムAIからは、5分ぐらい前からプレイヤーさんの心拍数と脳波に異常が見受けられと緊急メッセージが来ているし……」


 マサは、コンソール周辺で固唾をのんでいる同僚達を見渡してからマイクを通してジローに語り掛ける。


「上司には既に連絡済みで、今会社の上層部では緊急会議中だ。会議の結果が出るのにどう早く考えても後30分はかかるだろう、更にそこから会社の緊急保安チームの出動には30分以上はかかると思う。そこで、今一番近くにいる君に何とか出来ないかという相談なんだ」

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