第19話 みんなの出番

 定期メンテナンスも無事に終わって、ログアウトさせられていたプレイヤーさんも三々五々戻って来て、無事にいつものゲーム世界に戻ったようだね。気が付くともう現実世界では日が出て来る時間になってしまったよ。

 僕も疲れたので、朝の定時確認までおやすみなさいかな。ログアウトして、お風呂に入ったら、大好きなお布団に『ゴー』だ。


 * * *


「今日も、朝から良い天気ですっう。今日のレポート先は、新橋駅からおじさん達の一日をお送りいたしますっう」

 TVからは何時ものお姉さんの声が聞こえてきた。


 うーん、良く寝た。僕は朝のニュース番組が目覚まし代わりなんだよね。実際には24時間テレビをつけたままなんだけど、朝のニュースの女子アナウンサーさんの声が目覚まし代わりになっちゃった。


 あの独特のしゃべり方って、各テレビ局のアナウンサー毎にクセがあるんだと思うんだよね。きっとテレビ局の先輩のしゃべり方を後輩がまねして、次の後輩がそのまねをしてっていう感じに、しゃべり方が伝わっているんだと思うんだよね。

 もう、アナウンサーさんのしゃべり方で、何処のテレビ局か分かっちゃうぐらいにお世話になってるもんね。


 あと、ついでに言うと、僕達のような24時間働いている人達にとっては、いつも同じ時間帯に同じようなニュースや天気予報をやってくれると、そこで1日のリセットが出来るんだよね。

 そうでもしないと、『24時間』という切れ目が無くなって、朝と晩の区別がつかずに結局体を壊しちゃう事になるんだ。


 ぐー、ぐー、ぐー

あ、僕の正確な体内時計が、朝ご飯の時間を指している。とりあえず、お布団から出て顔を洗って歯を磨いたら、いつもの定食屋さんに行こうかな。

 いつもの定食屋さんて、モーニングセットのイタリアンがあるんだよね。トマトジュースが飲み放題ってすごいと思わない? 後、みそ汁もついてるし。なんか和洋折衷で混沌としてるのって好きだなあ。まあ、本当の理由はごはんの大盛が無料ってことなんだけどね。


 がらがらがら


「おはようございまーす。おっちゃん! モーニングセット1つね」

「いらっしゃいませ。お、ジローちゃんじゃないか! いつもと同じで、ご飯大盛で良いかな? いつもの席が空いてるよ」


 僕はいつもの席について、テレビを見ながら、連絡用のスマホも立ち上げる。僕は今朝の明け方まで働いて、俗に言う夜勤明けっていうやつだから、今から16時間は働く必要は無い、基本的にね。だけど、ついつい連絡の確認をしちゃう。これはもう、完全に習慣になっているんだよね。


 ―― いつもの席から、僕はぼーっと店の中を見る ――


 あ、5Gアンテナの工事のおじさん達も朝からどんぶりご飯食べてる。相変わらず小さい方のおいちゃんはすごい勢いで食べてるし、大きい方のおいちゃんは、ゆっくりゆっくり噛みしめてるし。


 お、トラ猫宅配のおにいちゃんも、せわしなくモーニングセットのスパゲッティナポリタンを口に放り込んでる。口の回りが真っ赤だよ。


 へー、今日はGamazonバイトのおじちゃん来てないなあ。まだバイト終わってないのかな?


 そうやって毎日の常連さんチェックをしていると、突然机の上のスマホが、ブーン、ブーン、ブーンと唸りだした。食事をするために、さっき連絡用スマホをマナーモードにしていたんだ。


 スマホ画面には赤い大きな文字で『緊急連絡! 夜勤明け職員も含めて全職員に対して通達。以下の仮想世界でトラブル発生。全職員は至急対応されたし』って表示されていた。


 なんと、トラブっている仮想世界の一覧表の中に僕が今朝までログインしていた『銃の世界』も入っていた。

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