第15話 システム管理三課のマサさん
ぴお、ぴお、ぴお!
あ、システム管理者からの定期連絡メールが届いたみたいだ。僕は目の前に仮想端末を引き出して、端末の中からメールボックスのタブを開いた。
「よ、ジローちゃん、元気にしてた?」
システム管理三課のマサさんだった。
マサさんは、僕の大学の先輩で僕をこの会社に引きずり込んだ(おっといけない、そんなつもりじゃないよ。いい意味で就職活動を支援してくれたんだよ。みんな誤解しないでね)張本人なんだ。
「ジローちゃんの課(ところ)って、今ログインしている世界とは別に、剣術の世界も見てるはずだよね? 剣術世界の方、特に何か変わった話を聞いてないかい?」
マサさん、突然話をふって来る。
「実はシステム側に結構頻繁にアラームが上がっててさ、心配なんだよね。拳銃と違って剣術世界は結構近接戦が多いじゃない? だからシステムエラーとかで体感の反応が鈍くなるとクレームになる事が多いからさ」
確かに銃なら狙った処に弾が飛ばなかったと言っても、まあプレイヤーの勘違いで済むけどね。(本当は勘違いで済ませちゃいけなくて、僕達メンテナンスチームによるフォローが入らないとダメなんだけどね、ここだけの話)
でも、刀同士の果し合いで相手の刀を紙一重でかわしたはずなのに、システム側のエラーでかわしきれない時は、そのままざっくりと切られる事になっちゃうからね。
刀好きなプレイヤーにとって、相手の初太刀をかわして懐に入り込んで切り込む技は大事な経験値アップの方法だから、結構好きな人が多いんだよね。そこで、紙一重でかわした・かわせなかったってプレイヤーさんにはチョー大事なことなので重大クレームとして上がるんだ。
ちなみに、僕はあちらの世界では『夜泣き蕎麦屋のヘイゾウ』って通り名で、夜の江戸の町をウロウロしている屋台の兄ちゃんという事になっているんだよ、ここだけの話。
実は屋台の蕎麦屋さんて人気があって、色々なプレイヤーさんと話が出来て面白いんだけどね。えへへ。
あ、話がそれちゃったね。
「いやー、マサさんお久しぶりです。なんとか元気でやってますよ! まあ、時々過労で倒れかかったりしますけど」
「いやいや、ジローちゃんの場合は過労じゃなくて空腹で倒れるだろう?」
「どきっ!」
さすが先輩だけある。僕の性格を良く分かってらっしゃる。
「うーん……、特に目立ったクレームは聞こえて来てませんよ。今度潜り込んだ時にプレイヤーさんにそれとなく噂を聞いてみますね。最近感が鈍って、紙一重でかわせないとか、居合で一撃で倒せない事が多くなっているとか、そこらへんのうわさって、直ぐに広まる話ですからね」
「おう、ありがとうな。おれらシステム監視側の人間は、プレイヤーと直接会話出来ないから、噂話とか分からないんだよなー。だからこそ、そこらへんの微妙な感覚はジローちゃん達の隠密同心チームに頼っちゃうんだよな。まあ、宜しく頼むわ!」
ブチ!
プー、プー、プー。
「まったくー。マサさんて、言いたい事だけ言って直ぐに切るんだから」
仮想端末を片付けながら、ついつい愚痴ってしまうんだよね。
マサさんが居るシステム管理課って、文字通り仮想ゲームのシステム側の状態をメンテしているチームだ。
僕たちが直接ゲーム世界の中に入り込んでプレイヤーさんの状態を確認したり、NPCに人格を与えたりしているけど、彼らはゲームプログラムが動いているシステム全体を見ている人たちなんだ。
前にも書いたけど、ゲーム自体は中心処理(カーネル)としては『アリス』というプレイヤーの管理用の統合AIが動いている。これは、ゲーム世界の運用が正しく行われるように支援を行っているんだ。
でも、そのゲームプログラムが動いているのはパソコンのWindowsやLinuxを大きくしたような、GEOS(Game Environment Optimize System service)というプログラムが動いているんだよね。そのシステムを管理してるのが彼らの仕事だ。
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