第13話 スナイパーのサキさん

「マスターもお元気そうで何よりッ! 今日も暑いわよね。思いっきり冷たいレモネードをオーダしても良いかしら?」


「ヘイヘイ! 合点承知。昨日から冷蔵庫でガッツリ冷やしてあるレモネードがあるから、直ぐに出すね。ところで、今日はもう一仕事してきたのかい? この日差しじゃ、まいっちゃうだろう?」


「お気遣い、ありがとうございます。まあ、これはスナイパーの宿命だけど……狙撃の場合は殆ど動けないから仕事前は水分を取るわけにはいかないですものね。日差しが高くなる前に一仕事したくて東のフィールドで待機していたの。とりあえず、動物を3匹ほどターゲット出来たけど、バトル相手のプレイヤーには出会わなかったわ。やっぱり朝早くからプレイする人は少ないのかしら?」

 彼女は背中に背負っていた狙撃銃をカウンターに下ろしながら話しを続ける。


「ここで水分を補給したら、午後の日差しに耐えられるように日焼け防止パウダーの入ったファウンデーションをベースに塗ってから、迷彩対応のお化粧をしないとね。ほんと、日差しが強いのでまいっちゃうわよね」

 バーのカウンターに肘をつけ、自分の仮想端末を取り出して、化粧アイテムを呼び出す。


「仮想空間のアバターに日焼け防止対策なんて、何か変な気がしちゃうけど、日射時間の経験値が蓄積しちゃって、アバターも日焼けしちゃうんだもの。日焼け度合の変数なんか保存しなくても良いのにィー! 何でそこまでリアルを求めようとするのかしらね、ちょっとやりすぎだわよね。マスターもそう思うでしょう?」

「あははは、まあそうかもですね」(うーん。この話ってユーザークレームか? 開発チームへフィードバックするべき話かなぁ)


 もともと、このゲームには『日焼けモード』があって、そのためには日照時間の経験情報をはっきり把握する必要があるんだよね。各プレイヤーがどれだけ日焼けしたかで、昼間ファイトするタイプなのか、夜ファイトするタイプなのか、はたまた郊外の原野を主なバトルフィールドにするのか、町中をバトルフィールドにするのかが、判別できるんだ。


 結局、各プレイヤーが設定する初期パーソナル情報に対して、それ以降のバトル経験値として、HPやMP以外にも外見情報が蓄積されていくのは実はゲームでは大事なんだ。だけど、それをプレイヤーに話してネタバレさせたら僕が秘密保持違反で罰せられちゃうからなー。


 先ほどから僕と会話しているスナイパーのサキさん。彼女はこのゲームでは結構有名なプレイヤーなんだよね。


 主要な装備は、長距離狙撃銃としては標準的なバレット社のM82だ。有効射程距離は2000m以上、12.7ミリx99ミリの葉巻みたいな弾丸を初速800m/s以上のスピードで打ち出す怪物銃だ。初速が音速を越えているから、銃声が聞こえた時点でターゲットのプレイヤーは既に倒されているか、HPが大幅に減っているはずだ。

 12.7ミリ弾は通常の7.62ミリNATO弾と違って、カスらなくてもすぐそばを通過するだけで皮膚が破れるほどの破壊力があり、アバターのHPが一っ気に削られるという代物なんだ。

 欠点としては、重さが10キログラムを越えるので、持ったまま高速に移動出来ないという点だ。まあ狙撃銃を持って走り回れる人はいないと思うけどね。


 通常は、分解して専用のキャリーケースにしまって移動することになるけど、どっちにしても女性が10キログラムを越えるケースを背負って動き回るのは凄いなあと感心してしまうよね。

 バトルフィールドからここまで結構あるから、歩いて来るのは結構大変なはずなのに、それをさらりとやってのけて、普通にしていられるのは凄いよね、ほんと。

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