第12話 こんにちは!

 さてと……ご飯も食べてお腹も落ち着いたので、腹ごなしにひと眠り、じゃなくて、ひとダイブしてくるかな。

 結局、僕達みたいなメンテナンスエンジニアは、普通の会社員さんのように9時~18時みたいな決められた勤務時間が無いんだよね。本当は3交代シフトで8時間単位のローテーションなんだけど、ログインし続けるのはこれで結構精神的な負担が大きいんだよ。

 仮想空間にログインしての作業だから肉体的にはストレスないと思う人が多いけど、仮想空間にダイブしてても実は体の筋肉を無意識に操作してるので、意外に肉体的な消耗度合いも大きいんだよ。だから、ログアウトした直後はものすごーくお腹がすくんだ。


 それで直ぐに例の定食屋で大盛ごはんを食べちゃうから、体重が標準体型からちょっとだけ逸脱しちゃうんだよなあ。

 そんな、こんなで、会社の就業規則上は、4時間のコアタイムさえ守ってくれれば、それ以外は不定期にログインして結果として1か月のログイン時間が決められた就業時間を満たしていればオッケーになるという、昔のフレックスタイム制を採用しているんだそうだ。

 逆に、月末になってきてログイン時間が少ない時や、今回のようなトラブル発生時にはそれこそ24時間ログインしっぱなしの時もあるんだよね。


 あ! これは内緒の話だよ。労働基準局に垂れ込まないでね。そんな事したら一発でブラック会社の認定が出ちゃうから。

 昔はなかなか公表されなかったらしいけど、今じゃあ一発でブラック企業一覧に名前が載っちゃって、SNSで晒し者にされるので、何処の会社も気にしてるしね。


 さて、それじゃあ少し潜って来るかな、

「ログインー! 楽しきかな『銃の世界』へ」


 ***


「よ、にいちゃん! いらっしゃーい。今日も機嫌が良さそうだね。なんか良い事でもあったのかい?」


 今の僕の立ち位置は、『銃の世界』という仮想ゲームの中にあるバーのマスターだ。一応、昔のウェスタン的な雰囲気を持つゲーム世界で、このバーのある領域はレスト・タウンと言って原則銃の発砲は出来ないことになってる。

 ここで、休息したり装備品を整えたら、タウンから外に出て荒野で相手を見つけて倒し合うルールになってるんだよね。

 ただ、世の中には原則なんか『への河童』っていう人が必ずいて、安全地帯であるこのタウン内でも銃をぶっ放して決闘だーとか叫ぶ人もいるにはいるけどね。


「こんにちわ、マスター」

「やあ、いらっしゃい、久しぶりですね。サキさんも機嫌が良さそうで何よりですね、何かいい事でもあったのですか?」

 ご飯を食べて休憩もそこそこにログインしたのは、実はこの時間帯にはいつも彼女がバーに訪ねて来るからなんだよね、てへ。

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