第11話 仮想ゲームの世界

 とまあ、そんな訳で、僕たちは殆ど毎日仮想ゲームの世界にログインしている。


「いーな、仕事がゲームかよ!」

 って声が聞こえてきそうだけど、全然そんな事無いんだよ。だって、仕事だからゲームを楽しんじゃあいけないんだよ?

 横でゲームを楽しんでいる勇者のパーティーを見ながら、メンテナンスの鍛冶屋のおじさんのNPCの皮を被って愛想笑いしながら会話するんだよ?


「いらっしゃい! 今日はどの武器を買ってくれるのかい、それとも、メンテナンスに来たのかな。おや、パーティのお姉さん。今日は化粧のノリがいいねえ、何か良いことあったのかい?」

 とか言って、揉み手でプレイヤーに媚をうるんだ。全然楽しくないよ。


相手のパーティーチームのリーダらしいお兄さんは、

「鍛冶屋のトッツアン、何変なこと言ってるんだよ。サブリーダのキャサリンをからかわないでくれよ。彼女が照れてるじゃないか! 昨日の戦闘で100万グルを手に入れたから、新しい強化アイテムを買いに来たんだよ。今度新しいレベルの階層に行こうと思っているのでメンバー全体のスキルアップが図れる強化アイテムで適当なのを見繕ってくれよ」


「へいへい、わかりましたよ。それじゃあ、先週手に入れたこの強化アイテムなんかどうでしょう。一つ一つのアイテムがそれなりの防御力を持っていてHPを高めてくれるんですけどね。こいつの最大の売りは、その強化アイテムを身に着けているメンバーが合体した時に防御力が合計値の10倍化されて、さらにおまけでハイパワーアタック剣というスキルソードが発現するんですよ。そちらのチームのように、いつも同じメンバーでチームワークがしっかりしているパーティには打って付けだと思いますぜ。ただし、価格は150万ゲルなんですけど、ここは奮発してドカンと購入してもらえませんかねー」


「えー、鍛冶屋のとっつあんそれは高い。せめて110ぐらいにならないか?」


「いやいや、こちらも元手がかかっているのでそこまで下げられません。130がやっとです」


「えー、それじゃあこの楯を下取りに出すから120でだめかな?」


「うーん、そうですねえ……そちらのパーティさんには、いつもごひいきにしてもらっているからなあ。そちらの短剣も下取りにして頂ければ、120で手を打ちましょう。儲からないけど、常連の客だからしかたないなあ」


「よっし、買った。それじゃあ、その強化アイテムをパーティメンバー分だけ売ってくれ!」

 とか、とか、こんな会話を仕事でやってるんだよー。彼は会話先の相手がNPCだと思っているけど、こっちはストレス溜まるよね。


 昨日は中世のドラゴン退治ゲームの鍛冶屋キャラだと思ったら、今日は、近未来のピストル打ちまくりワールドゲームの立ち飲み屋のバーテンダーだよ。

 いきなり飲み屋の中で早打ちガンマン同士の決闘が始まっちゃって、店は壊されるは僕は巻き添え食って殺されちゃうし。(まあ全て仮想空間の話なんで一瞬で回復するけどね)

 そんなこんなで、仮想ゲームの世界を裏から支える影の戦士、とか自分で自分に言い聞かせないと、結構大変なんだよ。

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