第10話 プログラムの限界
人工知能(AI)は徹底的に合理的な判断しかしないから、キャラクターとしては非常に無味乾燥で面白くない、だからこっそりメンテナンスの人間が入っている話はしたよね。
仮想現実のゲーム世界にログインしてプレイヤーとして参加しているお客様の安全管理といったルーチンワークは当然AIによる統合管理システム『アリス』によって管理されているんだよ。(なんか、いかにもっていう名前でごめんね。ここのシステム設計者の趣味だよね、この名前)
プレイヤーの安全管理は24時間完璧な運用が必要だし、べつに無味乾燥とかは意味がなくて、最も効率的な運用を行ってほしいから、こういう局面ではAIによる運用が最も適していると思うよ、僕も。
だけど、キャラクターに人間性を持たせる理由以外に、もう一つ僕たちメンテナンスチームが必要な大きな理由があるんだよ、……実は。
それは、ゲームの内容に関する事なんだよ。一応プレイヤーにはそれぞれ属性値(ゲーム的には「経験値」「体力」とか言われるものだよね)があって、その値に沿った機能(「スキルレベル」や「魔法力」とかかな)しか持つことが出来ないし、そのレベルのプレイしか出来ないはずなんだよね。プログラム的には『機能仕様』とかいうやつだね。
プレイヤー(というか、お客様)に今後の運営のためにゲーム世界に関するアンケートをお願いしたりする運営局の部署に、クレームを受け付けるためのヘルプセンターがあるんだよね。あまり知っている人はいないようだけどね。
プレイヤーには色々な人が参加するから、中にはクレームばっかり言ってくるお客さんもいるんだよ。(どこの世界にもいるけど、仮想ゲームの中でクレームなんかしないでほしいんだけどね。)
彼らは『俺よりレベルの低いドラゴンを見つけて倒そうとしたが倒せなかった、責任をとって追加クレジットをよこせ』とか、『絶対にゴーレムを倒したはずなのに、その経験値が追加されてない』とか、色々なクレームが来るんだよ。
たかがゲームなんだから少しぐらい間違ってもいいじゃんか、とか思うけど、なかなかそこらへんの感覚が難しいよね。
まあ、問題はそのクレームがプレイヤーの誤解なら良いんだけど、本当に起こったことだとすると、ゲームプログラムの中に不具合(俗に言う『バグ』だね)が発生した事になっちゃう。
そもそも、AIは自分の中のバグを見つける事は出来ない。
だって、自分自身を動かしているプログラムが正しかどうかの判断をする機能は付いていないんだもん。
うーん、付いてないという表現は語弊があるなぁ。彼? または彼女? 達(AI)は、プログラムされた処理を実行しているだけであって、たまたまその動きがプログラム仕様書と違う動きだっただけなんだよね。
AIにはプログラム仕様書なんかどうでも良いんだよ、彼らはプログラム通りに動いている自覚しかないんだもん。プログラムにバグを入れた人間側が悪いだけなんだ。
だから、僕達メンテナンスチームは、プレイヤーからクレームが来ると、それがクレームなのか、本当はプログラムのバグなのかを検証する必要があるんだ。
一応、ゲームと同じ仮想世界をデバッグ用にもう一つ持っているので、そちらで同じプレイヤーになって、同じシチュエーションでの再現テストを行って、本当にバグが出るかどうかの確認をするのだけれど、99.99%は再現しないんだよね。
そうすると、次はデバッグ用世界ではなくて、本当にプレイヤーがいる本番用世界で同じ試みをするんだ。当然クレームを上げたプレイヤーと同じキャラクターになりきる必要があるので、そのプレイヤーがログインしていない時を狙ってこっそりと行うんだけど、再現する事はほとんどないよね。
総ステップ数で100兆を超えてるゲームシステムのバグを探すのって、それこそ砂漠のなかから一粒の石ころを探すようなものだからね。でも、結局は人間がやるしかないんだよね、こればかりはAIには任せられないし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます