第6話 Gamazonバイトのおじさん

「へい! おまちー、ごはんとみそ汁はお代わり自由だよ。欲しくなったら声かけてね」

 と言いながら、定食屋のおっちゃんは今マイブームになってるじんテンドーの最新ゲームに没頭するためにヘッドセットをかぶりながら店の奥に引っ込んでった。


 ずいぶん昔にライトノベルやアニメで話題になった、完全仮想空間でのオンラインゲーム。実用化される日が本当に来るとは思わなかったよね。

 だって、人間の脳に直接電極を刺すわけにいかないし、某ライトノベルのように高出力のスキャンで人間のイメージを読み出したりする機械が現実になるとはとても思わなかったんだ。


 でも、ブレーク・スルーって本当にあるんだよね。


 携帯電話の充電に使われるような、微弱な電波の制御技術から発展して人間の脳から発生する微弱な電波を逆演算することで、人間の感覚器官にフックをかけて制御する事が出来るようになった。本当にここ数年の話なんだけどね。


 その技術を持っているのが、実は僕の勤めてる会社なんだよね。


 この話は大っぴらには出来ないので、おいおい話したいけど、その前に僕は食欲に忠実になりたいんだよね。手のひらを合わせて、いただきまーす。!


「お、にいちゃん! 今日も良い食べっぷりだね」


 隣の席から、少し白髪の混じったおじさんに声をかけられた。

 このおじさん、なぜか僕のごはん時に会うんだよね。


 安くてボリュームのあるAランチに、無料の白ワインをチビリチビリとやりながら僕の食べる姿をじろじろ見るんだよ。ヤバイ嗜好のおじさんなのかなあ。


「まったく、最近は色んなものが自動化されたからっていっても、結局最後は人間の仕事なんだぜ。なあ、にいちゃん」

 おじさんは僕が食べているのにお構いなく話を続ける。


「にいちゃんもGamazonでポチットして買い物する口かい? にいちゃんがポチっとした製品は、別に自動で配送されるわけじゃあないんだぜ」

 おじさん、喉が渇いているのか白ワインをグビリと飲む。


「巨大な配送センター、あそこじゃあフルフィルメント・センターなんて呼んでいるけど、そこで人間が端末に表示されてる場所まで歩いて行ってピックアップしてるんだぜ。その後の段ボールに梱包するのだって、バイトのお姉ちゃんが緩衝材を入れながら梱包してるんだ」

 おじさん、ご丁寧にも商品をピックアップしてダンボールに入れる動作を僕に見せてくれる。


「最後にその段ボールを出荷先別に分かれてるトラックに載せるんだ。だけど、結局段ボールの種類がむちゃくちゃ多いから自動で振り分ける事が出来なくて、全部俺たちバイトが一つ一つえっさこいさと入れてるんだぞ。バイトリーダのお姉ちゃんが元気が良くてなあ、そのペースに乗せられちゃうと、若い奴らは良いんだけど俺たちみたいなロートルなバイトは息が切れちまうんだ」

 おじさんは、両手を広げながら『お手上げだぜ』ポーズをとる。


「でもまあ、前いたバイト先は怖い兄ちゃんがいつも怒鳴ってて気も抜けなかったけど、今の元気な姉ちゃんのバイトリーダなら、もうひと頑張りするかとか思っちゃうぜ。世間の大部分は、パソコンやスマホの前で、欲しいと思った製品をポチっとするだけで、次の日には届いてる便利なシステムなんだろうけど、その陰では俺たちロートルのバイトがひーひー言いながら重い荷物を分けてるんだぜ」

 おじさんは、僕が聞いているかなんか無視してさらに話し続ける。


「時々異様に重いやつとかあると、誰だこんな物注文するのはーとか言いながら、梱包や荷分けしてるのを忘れないでくれや、なあ兄ちゃん」

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