第7話 トラ猫宅配のにいちゃん

「そーっすよね!」


 口にほおばっていたご飯粒を飛ばしながら、向かい側の席でB定食の鶏肉イタリアンを食べている兄ちゃんが、勢いよく同意してきた。


 あの制服はよく見る宅配のトラ猫ヤマトさんだな。


 僕がGamazonで欲しい物を衝動買いすると、その翌日にはトラ猫の宅配屋さんがやって来て配達してくれるので、あの制服には親しみを感じちゃうんだよね。


 いつも元気よく、「ちわー!」って声かけてくれて、不在票の連絡欄にもガッツリした太字で ―― 『毎日お疲れ様です、今日は不在のようでしたので荷物は持ち帰らせて頂きます。近いうちのご連絡、お待ちしております!!!』 ―― なんて感じで、感嘆符の乱れ打ちだもんなあ。

 連日残業で疲れて帰ってくる僕にとっては、あのパワーはぜひお裾分けして欲しいなあと思っちゃうんだ。


 ごはん飛ばしまくって、激しく同意しているお兄ちゃんの顔は今日初めて見たけど、日焼けした精悍そうな宅配の兄ちゃんには、トラ猫さんの制服って似合うよね。

 僕のような色白には絶対に合わないけどね。


「今日だって朝から働いてやっと昼飯っすよ! 飯をかっ込んだら配送センターに戻って午後便の荷物を積み込まなきゃあいけないし。休んでる暇ないっスよね。『ぜったい朝10時に来てね!』って連絡票に書いてあるから、頑張って朝10時にいったら不在なんですもん。そんで連絡先に電話したらすっかり忘れてたみたいで外に遊びに行ってて、『じゃあ今日の夜9時に来てね、ウフ』ですよ」

 定食屋さんで食べてる人全員に聞こえるぐらい元気な声は続く。


「こっちゃあ、配達する個数と時間を逆算しながら分単位で飛び回って、やっとこさ担当地区の配達をこなしてるのになあー。なんか、やってられないっスよ」

 ご飯が詰まったのか、お茶をがぶ飲みしてる。


「それに、最近は何でも宅配便ですませる人が多いでやんスよね。知ってやすか? クリーニングも宅配で送ったり出来る世の中なんスね。宅配の中にハンガーが入ってて、そのハンガーに洗濯物が掛けてあるから、その荷物は横にできないんスよ。でも、そもそも宅配なんて混載便が前提で集配センターからやって来るのが前提だから、縦も横もないんス。集配時だけ注意しても、実際に拠点に集めて輸送する時なんかいい加減なもんっス。輸送時間に間に合わせるために集約センターの兄ちゃん達はロールと呼ばれる大きな鉄製のカゴに、バンバン突っ込んでくんスもん。クレーム来ると事故扱いになっちゃうし。もーいやんなっちゃうんス」

 へー、そんなことでクレームになっちゃうんだ。確かにクリーニングに出したのに、しわだらけで戻ってきたら怒るかもね。


「大手物流のGamazonもそうっスけど、最近社長が月に行くって騒いでる(あ、最近会社を別のネット通販に売っちゃいましたけどね)ZyoZyoタウンも段ボールの厚さがペラペラなんスよ。だから、その箱の上に2リットルのペットボトル1ダースの箱とかが乗ってるのを見ると、こちとら『ひえー』ってなっちゃうっス。企業がぼろもうけする前に、段ボールをもう少し頑丈にしてくれないと、そのしわ寄せが全部オイラ達にきちゃうっス」

 へー、混載って、重い荷物が上に乗っちゃうこともあるんだ。そしたら、下のダンボールは潰れちゃうよね。潰れたダンボールが宅配で届いたら、そりゃあ怒りたくなるものね。


「最近は人手不足で、配送センターの荷物を仕訳るのにシルバー人材センターのじいちゃん達を入れてるので、30Kgのコメ袋とかペットボトル1ダースの2段重ねの宅配があると、見てらんないっす。重い荷物をヨロヨロしながら、担当地区の車まで運んでくれるの見ると、そんなの自分で買いにイケーとか思っちゃぅス」

 宅配センターでの荷物の運び出しがシルバー人材センターのじいちゃん達だなんて僕も知らなかったよ。


「おっといけねえ、こんな処で油売ってないで、早く飯をかっ込んで戻らないとー」

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