第二十六話 エドマンド視点

 恋は苦くて苦しい。人を好きになることがこんなにも大変だということを初めて知った。誰かを好きになる事がこんなにも幸せで辛いものだと思わなかった。


 好きだった。本当に本当に大好きだった。




 でもこの恋はもうお終い。








 ◇◇◇◇◇








「行っちゃいましたね」




「あぁ……」




 ヴィクトリアが私の隣に来て言う。ヴィクトリアの瞳は既にいなくなったハルとアリーヤがいた場所を捉えている。ヴィクトリアの表情は少し寂しそうだった。ヴィクトリアはもしかして………




「もしかしてハルの事が好きなのか?」




「……は?」




 え、ち、違うのか? 私が驚いたような顔をするとヴィクトリアは少し呆れたような顔をした。訳が分からなくなってくる。




「……いや、でも……うん、なんでもない。すまない」




 ヴィクトリアが更に訝しんだような顔をする。いや、だって何を言おうとしたか忘れたんだ。すまない。




「……ねぇ、エドマンド様。わたくしじゃダメですか?」




「え?」




「エドマンド様の隣に立つのはわたくしじゃダメですか?」




 ……つまり、私のフィアンセとして将来は結婚したいということか? 混乱してきた。いや、もしかして私を慰める為に冗談を言ってるのか?




「……あ、前に私を押し倒したもんな。その冗談の続きか?」




「冗談なんかじゃない! ……ずっと好きでした。確かにあの時はエドマンド様を攻略しようと思ってでした。でも段々好きになって気持ちが抑えられませんでした。エドマンド様、好きです」




 ……最初は冗談だと思った。だが、ヴィクトリアの表情からして、どうやらそうではないと言うことが窺える。本気みたいだ。私はどうしたら良いのだろうか。


 正直、私はまだアリーヤの事が好きだ。別れたくなかった。ずっと傍にいたいと思っていた。なんて、そんなこと言えないけど。


 だから今はまだヴィクトリアのことは考えれれない。付き合ったとしても傷付けるだけだ。だからヴィクトリアにその事を伝えないと。




「ヴィクトリア……すまない。今そなたと付き合ったとしてもそなたを傷付けるだけだ。だから……」




「それでも良いです。わたくしはずっとエドマンド様の隣に立って居られたらそれで良いです」




「ヴィクトリア……」




 瞬間、ヴィクトリアに制服のネクタイを引っ張られたかと思うと、キスされた。チュッ、と軽くリップ音がなる。


 頭が真っ白になった。訳が分からなくなってくる。




「……いきなりこんなことしてしまい、申し訳ありません。でも、エドマンド様を好きな気持ちには一切嘘がありません」






 潤んだ瞳、紅い唇。表情で伝わるほど真剣だった。ヴィクトリアが長いストレートな金髪を無造作にかき上げる。私はその動作に思わずドキッとする。




「今はわたくしのことを好きじゃなくて良い。けれどお願いなので、どうかわたくしをエドマンド様の隣に居させて下さい」




 私のネクタイを掴んだままのヴィクトリアの手は震えていた。




「……正直私はヴィクトリアのことを好きになれる自信はない。だけど私はそなたに支えられたいと思う。これから私の傍にいて私を支えてくれるか?」




「……はい」




 ヴィクトリアをそっと抱き締める。これからはヴィクトリアとお互いに支え合って生きていきたい。




 新しい恋の花が咲き始めるのを、この時私はまだ知らなかった。

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