第二十四話
周りがざわざわし始めた。正直五月蝿い。一体なんなんだ。そう思った私はうっすらと目を開けた。すると周りには沢山の令嬢、令息達がいた。
思わず辺りを見回して見ると、左隣にはハル、右隣にはベルモット様がいた。私は安堵の溜め息を突く。
刹那、廊下からドタバタと走る音がして、ドアが勢いよく開いた。
「「アリーヤ(様)、ハル!!」」
2つの声が重なって教室に響く。声の主を見るとエドマンド様とヴィクトリア様だった。
「アリーヤ様、今度は何があったのです!?」
「えっえっとそのー……」
少し怒ったような感じで私に詰め寄るヴィクトリア様。私は驚いて意図せずにどもってしまう。
「わたくし、アリーヤ様とハルが連れ去られたと聞いて気が気でありませんでしたわ」
「ご、ごめんなさい」
「……ごめんなさい」
素直に謝る私とハル。チラリとハルを見ると少し驚いたような、嬉しそうなとても複雑そうな顔をしていた。
「アリーヤ、ヴィクトリア、ハル、話したいことがある。中庭に行かないか?」
「……分かりました。了承致しましたわ」
「分かった……」
◇◇◇◇◇
中庭に来た私達はどこか座れそうな場所を探す。丁度良い場所を探した私達はテーブルを囲んで座った。
「単刀直入に言う。何があったのだ?」
「……実は隣国に行っていました。僕は隣国の王子だったらしいです」
「隣国の、王子ですか……?」
困惑しているエドマンド様とヴィクトリア様。そりゃそうだよね。私も困惑したもの。
「それではハルの身分は王子という事ですの?」
「そうなるね。でも僕は身分なんていらないよ。断ったし」
顔を顰めながらハルに聞くヴィクトリア様。ハルのセリフを聞いた2人は声にならないほど驚いたようだ。とても信じられないというような顔をしていた。
「じゃあ、ハルはずっとここにいるのか……?」
「勿論」
エドマンド様の問いにニコリと笑って答えるハル。心底ホッとしたような顔をしたエドマンド様もヴィクトリア様。
前から思っていたけど私達は最初に比べるとかなり仲良くなったと思う。
でも、この後は例のことを言う。もしかしたら、今ここに成立している友情が壊れるかもしれない。
言わなきゃ。ちゃんと伝えないといけない。そう思っているのにそれでも言う勇気が出てこない。
「エドマンド様とヴィクトリア様に聞いて欲しいことがあるんだ。特にエドマンド様には聞いて欲しい」
「どうかしたのか?」
「どうしたのです?」
いきなり真剣な表情になったハルの姿を見た二人は身を固くする。
「僕さ、アリーヤ様を好きになっちゃったんだ。……ごめん」
「なっ、ハル……」
「違うの! ハルはずっと最初から私を好きでいてくれたの。悪いのはエドマンド様というフィアンセがいるのにハルを好きになってしまった私……」
ハルに詰め寄ろうとしたエドマンド様に言い寄る私。エドマンド様の顔は見ていて辛くなるほど悲痛な顔をしていた。見ていて本当に泣きそうになる。
「エドマンド様、本当にごめんなさい……私が恋という感情を知らなければ……」
「アリーヤ、もう良いから。自分を責めなくて良い」
「でもっ!」
私は思わず顔を上げて反論しようとする。でも、反論出来なかった。何故なら、エドマンド様が穏やかそうに笑っていたから。
何故そうやって笑っていられるの? 何故私を責めないの? 全て私が悪いのに。
ふと、エドマンド様が私を抱き締めて来た。
「エドマンド様……?」
「アリーヤ、今までありがとう。そなたがいてくれて本当に良かった。短い間だったけどそなたと一緒に過ごせて良かった。本当にありがとう。…………婚約を、解消しよう……」
「……エドマンド様、ごめんなさい。ありがとう。私もエドマンド様と出逢えて良かった。本当にありがとう」
エドマンド様の肩に埋めている私の顔はきっと涙と鼻水でぐじゃぐじゃになっているだろう。
エドマンド様、本当にありがとう。ごめんなさい。少しの間だけど、エドマンド様のフィアンセで良かった。本当に本当にありがとう。
私達は互いの体を引き離し、見つめる。
その時だった。私の体が宙に浮いたのは。
「エドマンド様、本当にごめん。ありがとう。アリーヤ、行こう」
私を抱き上げて言うハルはとても格好良かった。なんて、エドマンド様とお別れしたばっかりなのに私は本当に最低だ。
それより、ハルは一体何処へ向かっているのかしら?
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