第二十三話
私は唖然とした。何故なら私達が連れていかれたのは玉間だったから。
王座にはジオルア公国の国王が座っている。私とハルは一度視線を交わした後、紳士淑女らしく頭を下げた。
「面を上げよ」
重々しい声がずしりと頭に乗っかる。私達は恐る恐ると顔を上げた。
そこにいたのは、かなり格好良い雰囲気のの叔父様タイプの人だった。……そんなこといったら怒られるわね、ごめんなさい。
「マノグレーネ公爵令嬢、国王に挨拶をしなさい」
「は、はい。私はアルッシャ公国のマノグレーネ公爵令嬢のアリーヤ・シランマノグレーネです。以後お見知りおきを」
ベルモット様に促されて私は急いで国王に挨拶をした。国王は私をチラリと見てフム、と頷いた。私は何かやったのか、と焦ってしまう。
そうこうしているうちに、国王はハルに視線を移した。
「ハル……いや、ハルージア会いたかったぞ。私の息子よ」
国王が爆弾発言した。
え、でも待って下さい。ハルージアって誰? 国王今、ハルのこと息子って言った?
国王が言ったことを考えていると頭がこんがらがってきた。確かに真実を知りたいとは思っていたけど、まさか予想をこんな斜め上を行くとは思わなかった。
「……確かに僕はジオルア公国出身ですが、僕は平民です。国王の血を引いているわけがない」
「良いや、そなたはれっきとした私の息子だぞ。証拠もある」
「では、その証拠とやらをお見せ下さい」
……ハル、凄いわね。国王相手にここまで言えるなんて。それに私、ハルがジオルア公国出身だなんて知らなかったわ。
「……そなたには生まれた時から持っているネックレスがあるはずだ。それを出しえ貰えぬか?」
ハルが無言で首から下げていたネックレスを取り出す。ハルの表情から少し警戒しているのが分かる。
私はそれを不安そうに見つめることしか出来なかった。
「その装飾は全てジオルア公国の王族付きの者が作ったものだ。それによく見たら王印もあるだろう」
「……確かに、あります」
「それがそなたが王族であると言う証拠だ」
国王が軽快そうに笑う。そんな国王にハルはでも、と反論する。
「これが証拠とは限らない。もしかしたら僕は誰かにこのネックレスを貰ったのかも知れないですか」
「良いや、それが証拠だ。そなたはネックレスを出せと言われている真っ先にそれを出したでは無いか」
反論するハルに矛盾点を突き付け、反論の反論をする国王。悔しそうなハル。私が口を出す幕など無い。
内容がかなりディープなので、難しい話に聞こえるが、要するに纏めるとこう言うことだろう。
実はハルはハルージアと言う名前で、国王の庶子? だと言うところだろう。
「……分かりました、僕は貴方の息子だと言うことを認めます。ですが、仮に貴方の息子だと言うことが分かっても変わることは何もない」
「そなたを私の息子だと言うことを国民に伝える。そなたはこれから、ジオルア公国第2王子として生きていくのだ」
ハルの言葉を無惨にも切り捨てる国王。もしハルがこの国で生きるとしたら、私達はもうこうやって話せることも無いと言うこと?
……そんなの嫌。けれど、ハルにとっては第2王子として生きることの方が幸せかも知れない。
「僕は嫌だ。このままの方が楽しい。大切な人が傍にいて、勉強も出来る今の環境の方が良い」
「大切な人とはマノグレーネ公爵令嬢のことか。それなら第2王子として生きて、結婚すれば良い」
「……確かにそうだけど……アリーヤ様にはエドマンド王太子殿下がいる。僕はアリーヤ様の傍にいるだけで良い」
強い意思を露にして言うハル。口を出せないのが歯痒い。私に出来ることは無いのだろうか。
「……っ国王陛下、発言をお許し下さい」
「発言を許そう」
「ありがとう存じます。ハルはハルージア第2王子として生きたくないと言っています。私もハル自身で、供に学園に通いたいと思っております。そして、ハルと結婚出来ると言うことは私にとっても大変嬉しいですが、私にはエドマンド王太子殿下と言うフィアンセがいます」
思わず一気に捲し立ててしまった。言いたいことが上手く纏まってない。自分の駄目さ加減が分かる。すると、国王が深みのある笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「ほぅ。そなたはアルッシャ公国の王太子と婚約しているのか。それなら断れば良い。そなたはハルージアの事が好きなのだろう」
「……確かに私はハルを一人の男性として愛しております。ですが、私が王太子殿下との婚約を解消するかは別のお話です」
「アリーヤ様……今、僕のこと愛しているって……」
ハルに言われて気付いた。私はハルの事が好きなのだ、と。一人の男性として。私が一生傍にいて欲しいのはハルだと。
「……ですから、私とハルが結婚するどうこうの前に、ハルの話を聞いて下さいませ」
「ううむ……分かった。ハルージア、そなたはどうしたいのだ?」
「僕は……ジオルア公国の第2王子ハルージアとして生きるんでは無くて、平民としてアリーヤ様の傍にいて、生きたい」
「……ハァ、分かった」
ついに国王が認めてくれた。とても残念そうな顔をしているが、そこは敢えて気にしないでおこう。
ベルモット様はこれで良いのかと言うような顔をしているが、私達は華麗にスルーする。
だが、本当に良かった。これからもずっと一緒にいられる。
「アリーヤ様、さっき僕のこと愛しているって言っていたけどそれ本当?」
「……えぇ、私はハルに恋してしまったの」
「ありがとう。……でもエドマンド様の事はどうするの?」
「帰ったらエドマンド様にお話するわ」
私がそう言うと、ハルはそっか、とだけ呟いた。
私とハルはベルモット様にお願いして学園に戻れるようにお願いする。ベルモット様は快く引き受けてくれ、瞬間魔法を唱える準備をしてくれた。
……やっと帰れるのね。短いようで長かった一日だった。
辺り一面、光に包み込まれた―――――――…………。
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