第十二話
大切な物を小さい箱に隠そうとした。一生懸命に詰め込んで。誰にも見られないように。
でもそうしたのがいけなかったのかな? 全然上手くいかなかったよ。
◇◇◇◇◇
エドマンド様とヴィクトリア様が口づけを交わしている。私にはその情報以外一切頭の中に入らなかった。
だから、ハルが何か言っていたのにも気付かなかった。
「………リーヤ様、アリーヤ様!!」
「あ……ごめん。ハル、どうかした?」
私が笑って見せるとハルは少し不機嫌そうな顔をした。私は思わず首を傾げる。
「そんな悲しそうに笑うなら助けに行けば良いだろ。」
「……私はエドマンド様に相応しくない。ヴィクトリア様みたいな美少女の方がお似合いよ。」
すると、ハルはさらに怒ったような顔をした。何だ? と思っていると、バン! と顔の横で音がした。横を見ると、ハルの手が……。
つまり、私の前世の言葉で言えば、『壁ドン』をされた。
……えぇ!? な、何で!?
「エドマンド様が好きなんだろ!? だったら行けよ!」
「ハル…………ごめん。」
……そっか。ハルが言いたいのはそう言うことだったのね。
私はエドマンド様のところまで走る。そして息をスウッと吸った。
「ヴィクトリア様!! お止め下さいませっ! 彼は私のフィアンセです!」
私の声に驚いたヴィクトリア様がエドマンド様に口づけをするのをやめた。
「……エドマンド様は私のフィアンセです。離して下さいまし。」
「アリーヤ……」
私は思わず目に涙を貯めて言う。すると、ヴィクトリア様は少し小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「フッ、悪役令嬢の貴女よりヒロインである私の方がエドマンド様にお似合いよ。だから…………」
「そうかもしれませんね。でももう既に決まったことなのです。諦めて下さいまし。」
私が儚く笑って見せると、ヴィクトリア様はこちらを睨んできた。そして、こちらに来たかと思うと、いきなり私に掴み掛かろうとした。
「「止めろっ!」」
その時、ヴィクトリア様を止めてくれた人がいた。それは、私の最愛の人、エドマンド様と私の相談に乗ってくれたハルだった。
「エドマンド様、ハル………」
「っなんでぇ!? 何でなのよ! わたくしの方がエドマンド様に相応しいはずなのに!」
「僕はそう言う風に言って人を貶めるやつは嫌い。だから皆アリーヤ様の方に行くんだよ。優しくて可愛いアリーヤ様の方に。」
ヴィクトリア様が叫ぶとハルは無惨にもヴィクトリア様の言ったことを切り捨てた。
「ヴィクトリア……私は確かにそなたのことが好きだった。可憐で健気なそなたを。でもアリーヤは人が変わったように変わった。まるで、人が入れ替わったように。その時、私はアリーヤを好きになった。そこで、私はアリーヤに求婚しようと思った。身分的にもアリーヤが相応しいと思ったから。」
エドマンド様はヴィクトリア様の方を真っ直ぐ見て言う。最後まで聞き終わったヴィクトリア様は目に涙を貯める。そして、小さく何か言っていた。
「……何でだよ。俺の前世が男だからか? 攻略対象なんだから黙って攻略されろよ……」
バッチーン!!
私は思わずヴィクトリア様の頬を平手打ちした。ヴィクトリア様は驚いたような顔でこちらを見る。
「貴女の前世が男だとか関係ありません! 皆貴女の内面を見ているのです!貴女はエドマンド様達を何だと思っているのです!? エドマンド様もハルもジェフ様もハロルド様もマーティン様も皆同じ人間何ですよ!? ここは乙女ゲームの世界なんかじゃない! 私達にとっては現実の世界なんですよ!?」
私は言いたいことを一気に捲し立てた。少し息切れをしながらヴィクトリア様を睨み付ける。
彼はきっと、私と同じ前世は日本人だったのだろう。そして、乙女ゲームのプレイヤーだったんだろう。そうすれば先程の言動にも納得出来る。そう思って咄嗟にあんなことを言ったが、ヴィクトリア様の表情を見ると、どうやら正解みたいだ。
「何故わたくしが乙女ゲームのプレイヤーだって……」
「先程の言動ですわ。」
私はにこりと笑って言う。すると、ヴィクトリア様は文字通りガックリとした。そこで更に私は追い討ちをかける。
「ヴィクトリア様、全て説明して貰いますからね。内容によっては厳重な処分を考えます。」
私が『悪役令嬢』らしく言うと、ヴィクトリア様の顔がサーッと青くなっていった。
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