第十一話

 わたくしは真っ直ぐなストレートの金髪の髪の毛を指ですくいながらとかします。全ての下準備は整いました。これで、エドマンド様をわたくしのものに出来る。








 ◇◇◇◇◇








 ……ハァー、今日も学園に行かなくちゃならないのね。憂鬱だわ。




「アリーヤ様、馬車の準備が出来ました。」




 セリーヌが微笑みながら言う。やっぱりセリーヌは可愛いわね。ええと、ゴホン。私はセリーヌの先導で馬車に乗り込む。


 ……………が。




「何故、エドマンド様がいるのですか?」




 そう。馬車の中にはエドマンド様がいたのだ。私は内心慌てながら、公爵令嬢らしく微笑んで言う。




「何故って……私がそなたのフィアンセだからだろう?」




「怒っていたんじゃないんですか?」




 私がそう言うと、エドマンド様は何を言ってんだ? という顔をした。でも、その表情は私がしたい位だわ。なんて、突っ込みはさて置き。


 私達は馬車に揺られること三十分。ついに学園に着いてしまった。


 ……あぁ、嫌だよぉ。何故か私が学園に行くと、絶対トラブルが起きるのよね。…………私、何かしたかしら?








「あっアリーヤ様! もうお体は大丈夫なのですか?」




 学園の中に入ると、ヴィクトリア様が声を掛けて来た。関わりたくないな、と思いながらも私は微笑みを貼り付けて言う。




「えぇ、大丈夫です。心配して頂いてありがとう存じます。」




 すると、ヴィクトリア様は何故かムッとしたような表情をした。


 ……私、何かやらかしたかしら?


 小首を傾げると、ヴィクトリア様は顔に出ていたのに気付いたのか慌てて微笑みを作り始めた。




「あっエドマンド様、先生がエドマンド様のことを呼んでおりましたわ。」




 ヴィクトリア様は今、思い出したと言うようにエドマンド様の方を向いて言った。


 だがしかし、本当に先生はエドマンド様のことを呼んでいたのだろうか。ゲームの中ではこのあと、イベントが発生するはずだ。


 ……え? 何のイベントか説明しろって? 分かりましたわ。




 ヴィクトリア様はエドマンド様に先生が呼んでいると嘘を言ってエドマンド様を連れ出す。そして、誰もいないところでエドマンド様を誘惑する。




 ここまでが、このイベントの内容ね。


 二人の姿があっという間に見えなくなった。少し後ろ髪が引かれるが私は図書館に行くことにした。








 ◇◇◇◇








 図書館に来た。来たは良いが…………何故エドマンド様とヴィクトリア様が居るのかしら。例のイベントが発生するのは中庭だったはずなのに。




「……………エドマンド様、わたくしエドマンド様のことが好きです。」




 ……まさかの告白。誘惑どころじゃないわね。




「はぁ。だから言っただろ。私が愛しているのはアリーヤであってそなたでは無い。それと、そなたにエドマンド様と呼ばれる謂れはない。」




 ………………え? エドマンド様、今なんて言った?


 ヴィクトリア様に誘惑されていないの? エドマンド様の顔をチラリと見れば、少し嫌そうな顔をしていた。


 もしかして、私の前世の記憶が戻り、私の行動が変わったせいでイベント内容も微妙に変わったのかしら。




「其処で何をしているの?」




「わぁっ!!」




 後ろを向くと、ハルが居た。いつの間に後ろに居たのだろうか。早鐘を打つ心臓を押さえながら私はハルに返事をする。




「えっと……本を探しに来たのよ。ハルはどうしてここに?」




「うん、僕は…………」




 ハルは一旦其処で口を閉じ、チラリとエドマンド様達の方を見た。


 ……あぁ、成る程ね。




「もしかして、ヴィクトリア様のことが好きなの?」




 瞬間、ハルが吹き出した。


 ……え、えぇ!? 私、何か変なこと言ったかしら!?




「え、私変なこと言った?」




「クスクス。アリーヤ様、そんなわけ無いじゃないですか。僕、あの女あんまり好きじゃない。」




 最初の笑いが嘘のように、ハルは一瞬で真顔になった。それと、あんまり好きじゃないって……。




「え、と……それは何故かしら?」




「なんか男臭い」




 ……男臭いって。それ、ヴィクトリア様にかなり失礼よ?




「ねぇ、良いじゃないですか。」




「くっ……は、離せっ!」




 声のする方を見ると文字通り、エドマンド様が襲われていた。


 ……えと、力で女に負けている男ってどうなのよ。




「いや、違う。ヴィクトリア様が身体強化しているんだ」




 隣でハルが言う。ハルを見ると、目が何か、おかしかった。多分、探索サーチしているのだろう。




「……助けに行った方が良いわよね。」




「うーん、そうだね……あっ!」




 ハルが突然驚いたような声を出す。なんだ、と思ってエドマンド様達の方を見ると………………。




 エドマンド様とヴィクトリア様が口づけしているのが目に入った。いや、正確に言うとヴィクトリア様が無理矢理エドマンド様に口づけしていた。


 私はただ、その様子を見守るしか出来なかった。

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