第九話

「そなた、ハロルドに何をされた?」




 顔を上げると、神剣な表情で聞いてくるエドマンド様がいる。エドマンド様は私のことをそんなに大事にしてくれているのか、そう思うほどに神剣だった。




「えっと、口づけされて舌を入れられました。後、制服のブラウスのボタンを外された位ですわ。」




「位って……。」




「え? 何か言いました?」




 エドマンド様が何か言ったようだが、声が小さかった為、なんと言っているのか聞き取れなかった。私が聞き返すと、エドマンド様はいきなり私のことをさらに、強く抱き締めた。


 私は勢いに負け、エドマンド様の胸に顔を突っ込むような感じになってしまった。


 顔を上げると、エドマンド様が悲しそうな顔で私のことを見てくる。




「エドマンド様……。」




 私がエドマンド様の名前を呼んだ刹那、ゆっくりとエドマンド様の顔が近付いてくる。そして、私はエドマンド様に口づけをされた。


 ……エドマンド様、普段こういうことをする人じゃないのに……私のせいだよね。エドマンド様、心配かけてごめんなさい。


 エドマンド様の唇が離れたかと思うと、また口づけをされた。そして、今度は舌を入れられた。




「ふぇ!?」




 ……え、こう言うときってどうすれば良いの? 流石にフィアンセを嫌って言って拒否するのは駄目だよね?


 どうすれば良いのかとあたふたしているうちにエドマンド様の顔が離れた。少し安心する私。




「……ごめん」




 エドマンド様は少し気まずそうにして顔を背けた。




「……謝らないで下さい。」




 ……何で謝るの?謝らないでよ。エドマンド様のせいじゃないのに。だから、そんな顔をしないで。


 顔を背けたエドマンド様の表情は、悲しそうな、悔しそうな、そして少し悪いことをしたような感じだった。そんな彼の顔を見ていると、私まで悲しくなってくる。


 ……私、このままずっと彼の隣にいて良いのかな。斬首刑とか関係無く、私エドマンド様に相応しくない気がする。


 もう嫌だな、そんなことを最後に思いながら私は意識を手放した。








 ◇◇◇◇◇








「かーりーん!!」




 目を開けると、幼馴染がいた。




「……? 何?」




「お前さぁ、こんなところで寝るなよ。だから風邪引くんだぞ。元々体が弱いのに。」




 幼馴染はぶつくさと文句を言っている。


 ……だって、ここ凄く気持ち良いんだもん。草なのにふかふかで、横になっていると眠くなっちゃう。


 私の名前は本木香凜。本木……香凜?


 あれ、私そんな名前だっけ? 私の名前はアリーヤ、しらん………。








 ◇◇◇◇◇








 うっすらと目を開けると、そこは見たことの無い部屋だった。ベットは天蓋付きで白を基調とした部屋だった。明らかに私の部屋じゃない。


 そう言えば、先程何かの夢を見た気が……凄く凄く、遠い記憶の………………。




 ガチャリ、と音がしてドアが開いた。




「アリーヤ、起きていたのか。」




「エドマンド様……?」




 私が首を傾げると、エドマンド様は微笑みながら近付いて来た。




「ここは王城だ。そなた、気が付いたら意識を失っていたのだ。」




「そう……なんですね。エドマンド様、私エドマンド様に相応しくないと思います。」




 私がエドマンド様を見て言うと、エドマンド様は驚いた顔をした。まぁ、そうだよね。いきなり言ったのだから。




「そなた……何故そう思うのだ。」




「何故って……。」




 私は悪役令嬢で、前世の記憶を持っている。ましてやエドマンド様このまま婚約していれば、斬首刑だということも知っている。だから、斬首刑を免れる為に婚約解消したい……なんて言えない。それに、私には相応しくない。




「…………その話はまた今度にしよう。気分が良くなったら帰っても良いぞ。」




 エドマンド様はそう言うと、踵きびすを返した。ドアがバタン、と閉まる音を聞きながら私はベットに倒れる。


 もう全てが嫌になってくる。


 ……帰ろ。きっと馬車が来ているはずだ。




 私はベットから起き上がり、のそのそと歩き出した。門を出ると、案の定馬車が来ていた。私は行者に合図をして乗り込む。


 うつらうつらになりながら、私は家路に着いた。

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