第六話
エドマンド様から手紙が来たのはつい先程のこと。私はお父様の帰りを待っていた。お父様の帰りを待っていたはずなのに……。
来たのは、新たな手紙だった。私は手紙の差出人を見る。そこには、『ジェフ・レイバン・ナサナエル』と書かれてあった。
「ジェフ様から手紙……一体何かしら?」
早速手紙を読んでみることにした。
『アリーヤ・シラン・マノグレーネ様。お久しぶりです。実は、アリーヤに言いたい事があります。本来なら直接足を運ばなければいけないのですが、風邪を引いてしまい、このような形でとらせて貰うことにしました。誠に申し訳ありません。正直に申し上げますと、私はアリーヤ様の事が好きです。其処で、アリーヤ様に求婚したいと思い……………』
「えぇ!? 求婚!?」
手紙の途中までしか読んで無いが、思わず目を丸くしながら、叫んでしまった。
「アリーヤ様、どうかしたのですか!?」
そう言いながら、走ってくるセリーヌは流石私の側仕え。
「セリーヌ、実は……」
セリーヌに全て説明した。ジェフ様に求婚されたことも、全て。
話を聞き終わったセリーヌは顔を曇らせて、何やら考え込んでいた。
……私、このあとどうすれば良いのかしら。
トントン、ガチャ!
ドアがノックされたかと思うと、すぐにドアが開いた。
そんなことをする無礼なやつは誰だ?
「あ、お父様!」
お父様が疲れた様子でこちらに向かって歩いてくる。
「お父様、お帰りなさいませ。」
私が挨拶をすると、お父様はただ頷いただけだった。
……そうとうお疲れのようね。
「アリー……急いで王城に行くぞ。早く馬車に乗れ。」
「……畏まりましたわ。」
何があったのかは知らない。けれど、普段温厚なお父様がこんなに切羽詰まって言うということはかなり大変な状況なのだろう。
私はセリーヌとともに馬車に乗り込む。続いて、お父様が乗り込んで来た。
「……お父様、何があったのですか? 良ければ説明してくれると嬉しいです。」
「……エドマンド王太子殿下から求婚が来たのは知っているな?」
お父様の問い掛けに私は頷く。
「実は、その事で王城に行ったのだが……はぁ。」
……おぉ! お父様が溜め息を突いたよ!? よっぽど大変だったってこと?
お父様が溜め息を突いたことで内心慌ててしまう私。一体何があったのだろうか。
「取り敢えず、説明は後で良いか? 王城に着いたら分かることだ。」
……おおぅ! お父様、ついに説明丸投げしちゃったよ。よっぽど大変だったのね。
そうこうしているうちに、王城へ着いた。いよいよ、何がおこるか分かるのね。
私達は王座の間に行った。頭を下げる私。
「頭を上げよ。」
王が私に告げる。緊張しながら顔を上げると、王は優しそうな表情をしていた。
「……私の娘のアリーヤだ。」
お父様がムスッとしたままの表情で言う。
「そんなにムスッとするな。」
王はカッカッと笑いながら言う。
「今回、そなた達に来てもらったわけは、息子のことについてだ。息子、エドマンドがそなたの娘、アリーヤに求婚をした。そこでアリーヤ、そなたには息子と正式に婚約して貰いたい。」
……はぇ!? 嘘、嘘……ほ、ほんと!?
「……それは、断ることは可能ですか。」
お父様は私と同じ、アメジスト色の瞳をギラギラにさせて言った。お父様、ちょっと顔が怖いよ?
「無理に決まっているだろう。」
ニコニコ笑いながら有無を言わせない王。暫く、お父様と王の攻防戦が繰り出されていた。
結果、私は正式に、エドマンド様と婚約することになった。
……ジェフ様には断りの手紙を書かないとね。
私は内心、溜め息を突いてしまうのだった。
◇◇◇◇◇
屋敷に戻った私は、疲れが溜まりベッドに横になっていた。引きこもりの私が何故、いちいち外に出なければならないのだろう。
だが、それよりも気になることがある。
ここは、私が前世の時にプレイしていた乙女ゲームの世界。そして、私は悪役令嬢。つまり、少なからず断罪ルートというものがある。
その断罪ルートは幾つかあって、一番酷かったのがエドマンド王太子殿下ルートだったはず。
一度、エドマンド様と私は婚約する。だがしかし、エドマンド様に惚れたヒロイン、ヴィクトリア様がエドマンド様を誘惑する。それに胸キュンしたエドマンド様は板挟み状態になり、どうしようかと考える。
そこに、ヴィクトリア様が私に嫌がらせをされているとエドマンド様に泣き付く。
婚約破棄だけならまだ良かった。だが、私の罪はさらに重かった。何故か私は、ヴィクトリア様の弟君を殺したことにされているのだ。よって、私は斬首刑。
……斬首刑。嫌よ、私は! どうしよう……。なんとか斬首刑だけは回避したい。
どうすれば良いか考える私。だがしかし、良い案は浮かばなかった。
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