第2話
謹慎を解かれた私は結局、引きこもっていた。エドマンド様を初め、色々な令息達が心配してお見舞いに来てくれたが、私は微笑んではぐらかした。
トントン
ドアがノックされた。また、令息達だろうか。そう思いながらも私は返事をする。
「はい、どうぞ。」
ドアが開く音がして、私は振り返った。そこにいたのは、令息達では無くてお父様だった。
私は思わず立ち上がろうとした。
「いや、立たなくていい。」
お父様は私を手で制す。不思議に思いながらも私は、お言葉に甘えることにした。
……でもお父様、何故ここに来たのかしら。
答えは考えるまでもなかった。お父様がすぐにこう言ったからだ。
「アリー……大丈夫か? 何故引きこもっているのだ?」
……もしかして、私の部屋に来た理由はそれ?……余計なお世話よ。
「えぇ、私は大丈夫です。引きこもっている理由……ですか? それはヴィクトリア様への償いです。私、今まで彼女に散々酷いことをしてきました。ヴィクトリア様は許してくれましたが……私なりの償いです。」
私がそう言うと、お父様は信じられないものを見たという顔をした。
「アリー……本当に大丈夫か?」
お父様が静かに問う。
……いいのよ。私は貴族の生活とか内政とかに興味など無いのだから。
だけど、私も立派な公爵令嬢。ニッコリと笑って返事をする。
「えぇ、大丈夫です。心配して下さってありがとう存じます。」
私はそう言うと、少し眠たそうに目を擦る。すると、お父様は無言で部屋を出ていった。
……少しやり過ぎたかしら?
コンコン
また、ドアがノックされた。今度は誰だろう。不思議に思いながらも返事をする。
「はい、どうぞ。」
ガチャリ、と音がして入って来たのはハロルド様だった。
「まぁ、ハロルド様。わざわざ来て下さってありがとう存じます。」
私はにこやかに挨拶をする。すると、ハロルド様は太陽のような微笑みを浮かべて挨拶を返してくれた。
「アリーヤ様、大丈夫ですか? お加減はもう宜しいのですか?」
ハロルド様は黒曜石のような瞳で私を真っ直ぐ見つめる。どうやら、彼は私が体調不良で学園を休んでいると思っているらしい。
「えぇ、大丈夫です。心配して下さってありがとう存じます。」
「そうですか。それでは、このあと、お茶でもいかがです?」
……何をいっているの、この公爵令息は。引きこもりの私が行くわけ無いでしょう?
「申し訳ありませんが、私このあとやることがあるので……。誘って下さってありがとう存じます。」
微笑みながらやんわりと断る私。
「え、でも……とても美味しいお菓子もあるんですよ?」
ハロルド様はそう言って私を無理矢理引っ張って行こうとする。私は流石に慌てる。
「え、いや……離して下さい! セリーヌ! セリーヌ!」
思わずセリーヌに助けを求めてしまう私。すると、セリーヌはすぐに駆け付けてくれた。流石私の側仕え。
「ハロルド様、アリーヤ様はお疲れのようです。またいらして下さい。」
セリーヌは有無を言わせない感じでハロルド様を送る。
……流石ね。
◇◇◇◇◇
「アリーヤ様、そろそろ着替えましょう。」
セリーヌが微笑んで言う。私は生返事をする。全てセリーヌに任せて、されるがままだ。
今日の洋服は黒を基調とした服だ。
……ってこれ、学園の制服じゃない。
「ねぇ、セリーヌ。これ、学園の制服じゃない?」
「はい。そうですけど?」
セリーヌは当然であるという感じに言った。
屋敷の外から馬車が止まる音がした。なんだろうと思っているとセリーヌが部屋から出ていった。私は一人になる。
「アリーヤ様、お客様です。入って宜しいでしょうか?」
セリーヌがドアをノックして言う。
「えぇ、どうぞ。」
誰だろう、と首を傾げて待っているとセリーヌとともに入って来たのは、エドマンド様だった。
「えぇ、え、エドマンド様!? どうしてここに!?」
思わず、驚きとエドマンド様の名前が混ざってしまった。だけど、仕方ないと思う。本来、王族はよっぽどの限り、貴族の屋敷には来ないから。
「どうしてって……迎えに来たからだろう? そなたと一緒に学園に行きたいから。」
「えっと、ありがとう存じます? けれど、私……。」
私は尚も食い下がる。それを見たエドマンド様は軽く溜め息を突いた。
「ほら、つべこべ言うな。学園に行くぞ。」
エドマンド様はそう言って私を強引にエスコートする。
「えぇ!? エドマンド様、ちょっと、ま、待って……。」
そうこうしているうちに馬車に乗せられてしまった。
……私、引きこもりたいだけなのよ!? え、待って、誰か助けて!
こうして、私は学園に行くはめになった。今日も引きこもりたかった私は、学園に着く頃には少し不機嫌になっていた。
エドマンド様にエスコートされて学園内に入る私。それを見た生徒達はざわめきだす。
そりゃあそうだろう。今まで、ヴィクトリア様に散々酷いことをしてきた私がエドマンド様にエスコートされているのだから。さらに付け足せば、私はエドマンド様に謹慎を言い渡された。
その私が学園に来ているのだから。
沢山の生徒達の視線を集めている私は、思わずエドマンド様の腕を強く握ってしまう。
「……アリーヤ? どうかしたのか?」
エドマンド様が聞いて来る。エドマンド様の綺麗な青い目が心配だというのを物語っている。
私はエドマンド様を安心させるために、にこりと笑って言った。
「ご心配掛けて申し訳ありません。久しぶりに来たので、少し緊張しただけです。」
私がそう言うと、エドマンド様は心底安心したという表情をした。
……それにしても、これからもこうやって注目を集めるのかしら? それだけは勘弁。引きこもりの私には辛いわ。
私は内心そんなことを考えながら、エドマンド様にエスコートされて教室まで送って貰った。
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