第1話

あの時私は、どんな選択をすれば良かったのですか?








 ◇◇◇◇◇








「……リーヤ様、アリーヤ様。」




 遠くから声が聞こえる。私はうっすらと目を開ける。


 目の前には側仕えがいた。




「あ……おはよう」




「おはようございます、アリーヤ様。」




 私が挨拶をすると、側仕えはニッコリと笑って挨拶を返してくれた。そんな側仕えを見て、私は思わず微笑んでしまう。


 ……そうだわ、昨日の考えを伝えないと。




「ねぇ、少し良いかしら。」




「……? はい、何で御座いましょう。」




 側仕えが返事したのを確認して私は話し出す。




「私、引きこもろうかと思うの。」




「……は? し、失礼いたました。もう一度言ってくれませんか?」




 目をパチパチさせて言う側仕えは可愛かった。




「私、今までヴィクトリア様に酷いことことして来たじゃない? だから、その償いを含めて引きこもるのよ。それに私は謹慎の身だしね。」




 私がそう言うと、側仕えは何故か少し悲しそうな顔をした。


 ……? 私、何か変なこと言ったかしら?


 思わず首を傾げる。




「……アリーヤ様、お茶会を開きましょう!」




 ……は? 貴女は何を言っているの?




「えっと、どうして開くの?」




「お茶会を開いて、ヴィクトリア様に今までの非礼を詫びるのです。」




 ……確かに一理あるわね。




 私はアメジスト色の瞳で側仕えを真っ直ぐ見据える。


 ……そう言えば、側仕えの名前ってなんだっけ?




「そうね。そうしましょう。えっと、貴女、名前何でしたっけ?」




「わたくしの名前はセリーヌです。以後お見知りおきを。」




 そうやってお辞儀をするセリーヌはとても美しかった。水色の髪がパサッと落ちる。そこもまた綺麗だった。




「それでは、早速招待状を書きましょう。」




 セリーヌは優しく微笑んで言う。




「えぇ、そうね。」




 それから私達は暫く、話し合った。いつお茶会をするか、何時にやるかなど、具体的な案を出す。そして一時間程、招待状を書いた。


 今回招待するのは、ヴィクトリア・ウェンディ・レティシア様、エドマンド・フロイド・イグネイシャス王太子殿下など。


 ……え? 全員の名前を言えって? ……分かりました。ちゃんと言います。


 その二人の他、令息が三人来る。


 ハロルド・イヴァン・レーン様、ジェフ・レイバン・ナサナエル様、マーティン・オリヴァー・フィランダー様が来る。


 つまり、私が謹慎を言い渡されたときのメンバーだ。私が書いた招待状はセリーヌが届けてくれた。問題はこの五人が来てくれるかだ。








 ◇◇◇◇◇








 いよいよお茶会当日。


 私は少しドキドキしながら例の五人を待っていた。ジャリッと音がして振り返ると、そこにいたのは―――……。




「ようこそおいで下さいました。エドマンド様、ハロルド様、ヴィクトリア様、ジェフ様、マーティン様。どうぞお掛けになって。」




 私は頬笑みながら席を勧める。皆が座ったのを確認して、私は口を開いた。




「本日はお茶会に来て下さって、ありがとう存じます。まず初めに一つだけ言わせて下さい。……ヴィクトリア様、今までの非礼をお詫び申し上げます。」




 私はそう言うのと同時に頭を下げた。




「……アリーヤ様、頭を上げて下さい。……許します。きっと、アリーヤ様に何かあったのでしょう?」




 ヴィクトリア様は笑って許してくれた。まさか、たった一つのお詫びで許されると思わなかった。




「ヴィクトリア様、ありがとう存じます。」




 こうして、お茶会は良い雰囲気で始まった。一人一人の顔を見ると、皆穏やかな表情をしていた。


 ……お茶会を開いて良かったわ。








 お茶会も終盤に向かった頃、私は席をたつ。




「今日はわざわざ来て下さってありがとう存じます。実は、一つだけ言わせて頂きたいことがあるのです。」




 皆の視線が、私に集中する。私はアッシュブロンドの髪を耳に掛けながら言う。




「私、引きこもりたいと思います。」




「「「「「えぇ!?」」」」」




 皆の声が一斉に響く。


 ……私、何か変なこと言ったかしら? 前にも一度、こんなことがあったような……。




「ま、待て。そなた、何故、引きこもりたいのだ?」




 皆を代表して口を開いたのはエドマンド様だった。私は首を傾げる。




「え? だって、私は謹慎の身ですし……。どうせ学園にも通えないじゃないですか。なので……。」




「分かった! そなたの謹慎を解く! そなたは引きこもらなくて良い!」




 エドマンド様が銀髪の髪の毛を振り乱して言う。私の話を遮ってまで。




「え、でも……。」




「そうですよ! アリーヤ様、一緒に学園に通いましょう!」




 そう言ったのは赤髪が特徴のジェフ様。




「……。分かりました。学園には通います。そう言って頂いてありがとう存じます。……でも、私は引きこもります。」




 皆がホッとしたのも束の間。皆、一斉にに叫んだ。この後、エドマンド様を初め、散々説得されたのは言うまでもない。

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