最終話 My friend forever
―――
結局山は越えたものの、あれから廉は昏睡状態に陥った。
俺は毎日病院に通い、廉に付き添い続けた。時々大西や加奈子も来てくれるけど、ついに一度も目を覚ます事なく二ヶ月が経った。
そして――
―――
ピーーという音が辺りに響き渡る。俺は呆然と突っ立って、先生が廉の心臓を心臓マッサージしているところをただ眺めていた。
「……れ、ん…?」
ようやく出た声は掠れていて自分の声じゃないみたいだった。
「廉!おい!廉!!……何しとんねん。しっかりせぇ!お前に話したい事、お前としたい事いっぱいあるんや。レギュラー外されてもうたけどいつか復帰して二人でサッカーするんやから寝とる場合やないで!あと…あと……」
「蒼太君……」
隣にいた大西が俺の肩に手を置いてくる。それにも構わずにベッドにすがりついた。
「そうや!一人すごろくな、あれやってみたけど案外面白いもんやな。でもやっぱり大勢でやった方が盛り上がるって。今度俺と大西と加奈子とお前の四人でやろうや。な?」
微笑みかけるも青ざめたその顔はピクリとも動かなかった。
「うそ…うそや!廉!廉!!戻ってこい!しっかりしろ!」
何度体を揺さぶってももう反応が返ってくる事はない。わかっていても止められへんかった。
「俺が……俺が代わりに死んでもええ。俺が代わりになるから、せやから戻ってきてくれっ……!」
『ばーか。お前が死んだら俺が悲しむわ。』
「……え?」
ベッドにすがったまま泣き崩れたその時、何処かから声が聞こえた。しかもこの声って……
「廉……?廉なのか?」
慌てて廉の方を見ても相変わらず微動だにしていない姿がそこにあるだけだった。俺は首を傾げた。
『これは俺の魂や。たぶんお前にしか聞こえへん。』
「そ、そうなんや……」
念のため隣の大西を見ると怪訝な顔でこっちを見ているだけで、廉の声が聞こえているようには見えない。俺は一度深呼吸をすると目を瞑った。
『ええか。よーく聞けよ。俺は死んでもずっとお前の側におる。何があってもお前と一緒や。せやからお前は安心して生きていけばええ。』
「廉……」
『俺の分まで頑張って生きてくれ。また二人でいられる日がくる時まで。』
「……あぁ。頑張る。頑張るよ。レギュラーも絶対勝ち取って、お前の分までサッカー頑張る。やから、見ていてくれ。」
『うん。……ほな、さいなら。』
「さいなら……」
ゆっくりと目を開ける。すると目の前がパァッと明るくなって、その光がベッドの上の廉の体に吸い込まれていった。
あぁ……これでホンマに廉とお別れなんや……
でも俺は約束した。廉と交わした最後で最大の約束。それを守る為に俺はこれからを……
「ありがとう、廉。俺、生きるよ。」
涙の残った顔で笑うと、横たわった廉の表情が一瞬柔らかくなったような気がした……
―――
俺は大西とすっかり暗くなった道を歩いていた。空には無数の星達が輝いている。
「あの中に廉がおるんかな。」
「きっといるよ。あの一番大きいのがそうじゃない?」
「そうかもな。」
その時、その大きな星が綺麗な曲線を描いて落ちてきた。
「やっぱり廉や。」
「え?」
「だって今流れる時、廉の声が聞こえたから。」
「何て言ってた?」
「それは……」
『生まれ変わったら、また二人でサッカーしようや。』――
完
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