第12話 親友の後押し


―――


「それではくれぐれも安静にお願いしますね。」

「はい……すいませんでした。」

 釘を刺して病室から出ていく細川先生に頭を下げる。そしてベッドで横になっている廉を見た。


「大丈夫か?」

「うん、だいぶようなった。」

「そっか。」

「ごめんな……全部蒼太のせいになってもうて……」

「ええって。その通りやし。」

 廉の言葉に笑顔で答えて、開いていた窓とカーテンを閉める。外はすっかり夕暮れだ。カーテンの隙間から夕陽が漏れて、ちょうど廉の横顔を照らした。それを見ていた俺の口からため息が出た。


 さっき先生に抜け出した理由を説明する時、全部俺のせいですって思わず言ってしまったんだよな~……

 お陰で俺ばっかり怒られてもうたんやけど。ま、俺のせいなのはホンマの事やからそれはええんやけど。心配なのは廉の体調や。


 もしかして今日ずっと具合悪かったんだろうか?だから昼休みに来れなかった……?


「蒼太。『電話で告白大作戦』は中止にしよ。」

「え……?」

「やっぱり電話じゃ無理やろ。もう一回手紙を渡すか、他の方法考えよ。」

「廉……」

 悲しげな廉の顔にしばらく黙っていたけど、俺は意を決して言った。


「俺、やってみるよ。」

「蒼太……」

「俺やって男や。やる言うたらやる!こ、今晩にでも!」

「……そっか、頑張りや。俺はここで祈っとるわ。『上手くいきますように』って。」

「げっ!廉に祈られたら神様も困るわ~」

「何をぉ!?」

 廉がベッドの上からパンチを繰り出し、俺はそれを片手で受け止める。そして顔を見合わせて笑った。


『体調が良くなかったかも知れないのに協力してくれたんや。俺も頑張んなきゃ!』


 心の中でそう決意した俺だった。




―――


 と思ったのも束の間、俺は自分の部屋で挙動不審状態になっていた……


「う~~緊張するな、どないしよ……て、手が震えて力が出ない……」

 スマホを持とうとするとガタガタ手が震えるし、持てたとしても耳まで持っていくまでが大変だし、大西の携帯番号を呼び出す為に操作しようとするとボタンを間違うし……

 あーー!やっぱり俺はヘタレや~~!!


「やめよっかな……いや、ダメだ!ここで諦めちゃ男がすたる!」

 俺はもう一回トライした。が、しかし…挫折しました……


「はぁ~……これが他の女子とか男友達とかやったらこんなに苦労せぇへんのに……」

 そんな風に落ち込んでいたら、電話が突如鳴り出した。

「?……はい、もしもし。」

『あ、蒼太君?あたし……絵理だけど。』

「えっ!?」

 俺は自分の耳を疑った。絵理って大西絵理?俺の知ってる人で名前が絵理って大西しかいないはずだけど……っていうか何で相手も確認しないで出たんや、俺は……!


『もしもし?蒼太君?』

「え?あ、はい、聞いてますよ?」

『廉君から電話あったんだけどね。蒼太君があたしに大事な話があるって言ってて。電話あるかも知れないけど、もしなかったらあたしの方から電話してくれないかって言われたの。』

「へ、へぇー…そう……」

 廉の奴……余計な事しよって、あいつはホンマにもう!


『で、大事な話って?』

「え、あ…いや、その……あのですね、よ、よく聞いて下さいよ……?」

『うん。』

「俺…お、大西の事す……」

『す?』

「あああっ!電話じゃあれやし、明日直接言います!」


『ガチャン!』

 思わず切っちゃった……だって急に大西が電話してくるから!ってそれよりとんでもない事になってしまった……どないしよ…廉……!!




『えぇ?明日直接言うって言ってもうたってぇ!?』

「んなでかい声出さんでもええやん……」

 さっきの大西との会話を説明したところ、廉が開口一番こう叫んだ。

『何しとんねん、お前は。アホちゃうか。直接なんて言えんのかいな。』

「言える訳ないやん!だからお前に相談しとるのやろ?っていうかお前が変な気回すからテンパってしまったんやないか!どうしてくれんねん!」

『ま、まぁまぁ……ちっとばかし気を使ってあげたんやけど余計なお世話やったか?』

「いや別にそんな事は……」

『しゃーないから明日言うしかないな。ま、せいぜい頑張りや。ほな、さいなら。』

「あ?ちょ、ちょっとまっ……!ちっ!切りやがった。直接なんて出来る訳ないやろ!って俺が言ったんやけど……」


 俺は既に切れて真っ黒くなった画面を睨みながら呟いた……



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