第5話 親友(と俺)の恋
―――
俺は自分の机に俯せになって、廉の事を考えていた。
『蒼ちゃ~ん!』
そう呼んで抱きついてくる廉。
『俺は蒼ちゃんの事、愛してんねんで?』
子どもみたいな顔でこう言う廉。
『蒼太!パス!』
サッカーボールを蹴って走っている廉。
……でも今の廉は……
涙が机に一滴、二滴静かに流れ落ちる。
もうあの元気で明るくて能天気な廉は……この教室にいない。もう、この学校にいない。
「蒼太君。ちょっといいかな。」
「……何?」
頭の上から降ってきた声に急いで涙を拭って顔を上げる。そこには加奈子が立っていた。
「話があるの。」
「……ええよ。」
加奈子は裏庭に俺を連れてきて、振り向きもせず言った。
「蒼太君の事……ずっと前から好きだったの。」
「……は?」
突然の告白に驚く。そんな中俺は不意にある事を思い出した。
確か廉の奴、こいつを好きだって前に言ってたな。だったら……
「俺、好きな人おるから。ごめん。そうや!俺より廉の方がええ奴やし、そっちにしとけば?」
俺の言葉に加奈子は最初は驚いた顔で固まっていたが、急に真っ赤になって怒鳴ってきた。
「バカにしないで!あたしは本気で蒼太君が好きなの!廉君じゃない!」
「……加奈子…」
そして肩を怒らせながら教室とは逆の方へ走って行った。
俺は自分の放った言葉を振り返って、何とも言えない気分を味わっていた……
―――
部活を途中で抜け出して、俺はまた廉の病院へ行った。
いつもより重い気持ちで開けた病室の扉の向こうには、二つの人影があった。
「加奈…子?」
その二つの影の一つはもちろん廉で、もう一つは長崎加奈子だった。二人は俺をじっと見つめている。すると加奈子が急に椅子から立ち上がった。
「あたし、帰るね。」
「あぁ。気ぃつけて帰れや。」
扉から出て行く加奈子の後ろ姿に声をかけた廉は、今度は俺を正面から見据えた。
「加奈ちゃんから聞いた。」
「……ごめん。」
「もう!何であんな事言うたん?」
「いや、だからその……良かれと思って、つい…」
「何が『良かれと思って』や。お陰で俺の淡い気持ちがバレてしもたやないかい。」
「うっ……マジでごめん。」
「もうええわ。それより蒼ちゃんは本当のところどうなん?」
「どうって?」
「加奈ちゃんの事。ホンマはどう思っとるん?」
「どうって……」
廉の嘘や誤魔化しは絶対見逃さんっていう目で見つめられて挙動不審になる俺。しばらく心の中で葛藤を繰り返した後、意を決して言った。
「加奈子の事は何とも思ってへんよ。」
「ホンマか?」
疑いの目で俺を見る廉に笑いかけた。
「実は俺、他に好きな人おんねん。……同じクラスの大西絵理。なんやけど……」
「大西……ってあの?」
「うん。あの……」
「ええぇぇぇぇーー!?」
病院中に聞こえたんちゃうかってくらいの大声を上げる廉。
「どうした!」
「霧島さん?大丈夫ですか!?」
ほら来た。医者と看護師が慌てて入ってくる。
「あ、大丈夫っす。何でもないんです、すみません……」
「そう?ならいいけど。くれぐれも静かにお願いしますね。」
「はーい。」
何やねん。担当でもないのに偉そうに。
俺は細川先生じゃない、初めて見る医者のぶっきらぼうな言い方に腹を立てた。
ってそんな事はどうでもいい!さっきから廉が固まってる。あー!顎外れとるし……
「廉?大丈夫か~?おーい、戻ってこ~い。」
「はっ!……あ、はい。ちょっとばかし驚いただけでして、すいません……」
「全然大丈夫じゃないし……でもまぁええか。とにかく聞いてくれ。俺が大西の事好きになったきっかけは……」
まだ放心状態の廉を他所に、俺は取り敢えず語り出した。俺と彼女の馴れ初めを……
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