第3話 親友の入院
―――
俺は途中で花を買って病院へ入った。廉の病室は502号室だ。ドアの前で一呼吸ついて中に入る。
「蒼太!何やっとるん!?学校は……?」
「サボった。」
「サボったって……」
「まぁ、ええやないか。こうして見舞いに来たってんねんから、礼くらいしろや。」
「でも…俺なんかの為に……」
「せやから!言うたやろ。お前は俺の大切な人やねんて。」
俺の言葉に廉が涙ぐみながら頷いた。
「まったく…泣き虫やなぁ、廉は。」
「うっさいわ!」
「ところで、大丈夫なんか?息が苦しいとか……」
「うん、大丈夫。……ゴホッ、ゴホッ……」
「ほら、無理すんなって。」
両手を上げて深呼吸しようとした廉が咳き込む。俺は慌てて背中を擦った。
「ごめんな……」
「謝る事なんてないって。それより、早よ治してまた二人でサッカーしようや。」
「……せやな。」
その時、コンコンとノックの音。俺は廉の代わりに返事をした。
「はい。」
「失礼するよ。あれ?蒼太君。来てたのか。学校は?」
「サボりました。」
「ははは。仲良しで何よりだね。廉君、具合はどうだい?」
「大丈夫で……」
「嘘つけ。さっき咳き込んでたやないかい。」
「うっ……」
『大丈夫です。』そう言おうとした廉を遮って本当の事をバラすと、廉の主治医の細川先生はまた声を上げて笑った。
「でも発作っていう訳じゃないようだし、顔色もいいね。じゃあまた夜に様子見に来るよ。」
「あ、あの!」
「ん?何かな、蒼太君。」
「ちょっといいですか?お話があるんですけど。」
出ていこうとする細川先生を呼び止める。先生は一瞬ビックリした顔をした後、にっこり笑って言った。
「いいよ。それじゃあ僕の部屋にでも行こうか。」
―――
先生の部屋に入って完全に二人になると、先生は笑みを消してこっちを見た。
「話って?廉君の事だよね、当然。」
「えぇ。先生、本当の事を言って下さいね。あいつの病気って治るんですよね?」
「それは……」
一瞬息を飲んだ細川先生に嫌な胸騒ぎを覚えながらも、俺は真っ直ぐ前を見つめて言った。
「廉に聞きました。先生は凄腕だって。そんな貴方ならあいつの事、治してやれるんですよね?治るから入院してるんですよね?」
「…………」
「先生!」
俺の叫びが部屋の隅々に当たって谺する。先生はしばらく目を閉じていたけど、不意に目を見開いて机の引き出しから何かを取り出した。
「これ。廉君の胸のレントゲン。」
「え!?いいんですか?俺、家族でもないのに……」
「家族のような関係だろう、君達は。……いや、家族以上の繋がりを持っている。そんな君だから、僕は今これを見せている。本当はダメなんだけどね。」
悪戯っぽい顔で笑う先生を茫然と見つめた。
「見てもわからないと思うけど、君には嘘や誤魔化しは利かないと思うから。」
「先生……」
俺は震える手で廉のレントゲンを持った。もちろん見たって何もわからない。でも俺はこれを見る価値のある人間なんだと思うと、涙が出そうになった。
「廉君はあと三ヶ月。もって半年だ。」
「……え?」
突然放たれた言葉。次の瞬間にはレントゲンが床に落ちた音が静かな空間に響いた。
俺はそのまま家に帰った。廉に会う勇気がなかったから……
廉の前で平気な顔をしていられるほど、俺は強くなかったんだ。
『早よ治してまた二人でサッカーしようや。』
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