絵描きの少女
※Twitterでみかけた絵師様の作品からインスピレーションを得ており、テーマの「盲目の絵描きの少女」他、僅かな類似点があります。
貧しい街の隅で、絵描きをしている少女がおりました。
少女は幼いとき両眼を潰してしまい、それからずっと手探りで生活してきましたが、優しく気立てのよい子でした。
街の人々は目が見えないのに絵描きをする少女を気味悪がったり馬鹿にしたりと遠ざけていましたが、彼女はそんなことは気にも留めず、毎日絵を描き続けていました。
少女はひと月に一度、街を訪れる商人から絵の具を買っていました。
ある日、市場へ行くと隣国の宝飾品が並べられていました。
商人はいつものように店の商品を薦めます。
「希少な金細工の入った首飾りを仕入れたよ!」
少女は商人の話から、首飾りの細やかな彫刻や、中央に嵌め込まれた美しい緑の宝石を想像しました。
おそるおそる値段を聞こうとしたとき、横にいた女性がすばやく商人から買い取り、行ってしまいました。
仕方なく少女は、いつもの絵の具を買って帰りました。
またある日、今度は海の向こうの国の品物が並べられていました。
商人はいつものように店の商品を薦めます。
「最高級の糸で作られた上質な織物だよ!」
少女は商人の話から、鮮やかな糸で織られた模様や、滑らかな生地の感触を確かめました。それもまた、横から男性が買い取って行ってしまいました。
仕方なく少女は、いつもの絵の具を買って帰りました。
またある日、商人は「希少な青い絵の具が手に入ったんだ」と言いました。
遠い国の宝石を砕いて作ったという青い絵の具に、少女は胸をときめかせます。
しかし商人が告げた値段は、家の家財を売り払っても買うことができないほどでした。
仕方なく少女は、いつもの絵の具を買って帰りました。
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あるとき、街に旅人の少年が訪れました。
少年が街で宿屋を探していると、ふと市場で奇妙な少女の話を耳にしました。
絵描きをしているという盲目の少女。
少年は急にその少女の絵を一目見たくなり、近くの住民に話を聞くと、少女の家を尋ねました。
突然の訪問にも関わらず、少女は朗らかに出迎えてくれました。
少年が描いた絵を見せてほしいと頼むと、少女は恥ずかしそうにキャンバスに描かれた「海の絵」を見せました。
その絵は、一面真っ白な絵の具で塗られていたのです。
頬を染めながら少女は少年に感想を求めます。
少年は戸惑いを隠して、あてずっぽうに「砂浜が綺麗だ」と言いました。
少女は心底嬉しそうに笑いました。
次に少女は「砂漠の絵」を見せました。
少年はまたも真っ白な絵の具のキャンバスを見ながら「た、太陽が暑そうだな」と答えました。
少女は舞い上がりそうなほど喜び、少年に夕食をご馳走しました。
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数ヶ月たった頃、少年の兄が夕食の御礼のために少女の家を訪れました。
兄は生まれつき片目が悪く、少女と同じようにいつも布きれで目を覆い隠していました。
青年の突然の訪問にも、少女は朗らかに出迎えてくれました。
青年は弟から不思議な絵について聞いていたため、同じように絵を一目見せてもらえないかと頼みました。少女はまた恥ずかしそうに、今描き上がったばかりの絵を取り出します。
キャンバスを見せられた青年は、心臓が止まりそうなほど驚きました。
その絵は偶然にも、青年の故郷を描いた絵でした。キャンバスには、街並みが夕日によって浮かび上がっている幻想的な風景が描かれていました。
少女は次に、弟にも見せた「海の絵」を持ってきました。
青く凪いだ海と白い砂浜の上をカモメが飛ぶ、爽やかな昼間が描かれてありました。
青年は弟の話に矛盾を感じつつも、少女に大金を払っていくつかの絵を買っていきました。
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ある日、少女が市場から去ったあと。客のひとりが商人に尋ねました。
「あの娘は一体何を買っていったんだ?」
すると商人は少し困ったような、申し訳ないような顔で答えました。
「いやあ、俺もよくわからねえんだが……仕入れてきた国の”土”を買っていくんだ。一体何に使ってるんだかなぁ…」
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