世界で一番美しい桜の木
古くからその地に根付く、御神木の桜の大樹があった。
幹から空を仰ぎ見れば、雄大でのっしりとした迫力に圧倒され。
広く細やかに広がった枝先に目を凝らせば、植えられて初めての春のような艶やかな花を、毎年決まった時期に咲かせるのだ。
人々はその大樹を、世界で一番綺麗な花を咲かせる木だと讃え、大切に愛で、親しんでいた。
ある晴れた日の朝。山の麓にある大樹の元へ、身なりの悪い少年が訪れた。
ぼろぼろの着物を引き摺るように着た少年は、泥まみれの足で幹を踏みつけると、枝を折ろうと手を伸ばした。しかし少年の身の丈では、どうやっても花のついた枝に届かない。
暫く目当ての枝を狙っていたが、腕に幾つ目かの擦り傷を作った時、突如大幹から飛び降り、降りるついでに両足に全身全霊の憎悪を篭めて根元の土を踏み固めた。そして地面に視線を走らせ、風で落ちた花の一房を見つけると、即座に拾い上げて駆け出した。
坂を下りる手前で、一度だけ木を振り返り「明日また来てやるからな!」とでもいうように睨み付けると、幼子らしい泣きそうな顔で帰っていった。
少年は、二度とやって来なかった。
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