第21話 ウサギ! ウサギ! 何見て跳ねる!?

 女性が服装を変えたのなら、感想を言うのが礼儀なのだろう。

 だが、目の前の光景に衝撃が走って、脳がうまく働かない。

 それほどまでに朝比奈さんの着ているものはインパクトがあった。

 思わず、ここ学校だよねと言いたいぐらいに。

 

「に、似合っている……よ?」


「うう~~!!」


 とりあえず褒めておいたが、朝比奈さんは俺の言葉がお世辞に聞こえたのだろう。

 恥ずかしさと不満が入り混じった顔で、両手を握りプルプルと体を震わせている。

 あの、屈まれると胸の谷間がモロに見えるのですが……。胸の先端が見えそうで見えないのがもどかしいっ!! もうちょっと屈んで!


「と、とりあえず中に入るよ」


 部室の玄関付近でアレコレやっていても仕方がない。土曜日で学生が少ないといえ、少なからずいる。見られたらどう言い訳すればいいのかわからないので、バレないためにも早く部室に入りたい。


 朝比奈さんも同意見のようで、俺の言葉に後ろを向いて部屋の中央に入っていった。

 一歩あるくごとに、お尻の先の白い尻尾が俺を誘惑するようにふりふりと右に左に揺れ動く。


「で、どういうことなんですか、これは?」


「//////////っッ(恥ずかしがって答えられない)」


 朝比奈さんの姿を正面からまじまじと観察する。

 ソファーまで来たが、座って話をするのも違う気がして、お互い立ったままで話をする。

 しかし、立っているお陰で、朝比奈さんの姿がはっきりと見ることができる。

 朝比奈さんの着ている服は一般的にバニースーツやバニー服と呼ばれるもの。

 ビスチェのような肩出しの黒いボディースーツに、網タイツ。露出するとはこのことだと体現するように肌色の面積が大きい。腕には白いカフス、首元には蝶ネクタイ付きの襟をつけているが、これらの衣装はアクセサリーとしか役に立っておらず、皮膚を覆い隠すという意味では役目を放棄していた。

 胸部を覆うボディスーツにしても朝比奈さんの胸は完全に守られておらず、下半分だけ布地で覆われているだけだ。大事なところだけを隠せばいいんでしょと言わんばかりに、白い上乳は完全に露出し、谷間がくっきりと見えていた。胸の部分の出っ張ってる布を少し引っ張れば白い果実がこぼれ落ちそうな気がする。


「とりあえず写真を撮ろう」


「やめてぇぇぇぇ」


 完全に顔を紅潮させながら、朝比奈さんは自分を守るように自身の体を抱き寄せる。

 自分の体を隠しているようで、胸の谷間がくっきりと盛り上がり、存在が主張されている。つまり、逆効果だ。普段、制服を着ているので実際のサイズはわからなかったが、予想以上だ。朝比奈さんは着痩せ女王なのかもしれない。

 やばい、鼻血が出そうだ。

 写真はイヤイヤと首を振る朝比奈さん。頭には薄いピンクのリボンがウサギの耳のように結ばれて、頭が揺れるごとにリボンの耳も連動して動く。

 主張される胸と揺れるウサ耳。そして、見えたり隠れたりする朝比奈さんの白い尻尾。

 楽園はここにあったのだ……。


「これは文化遺産だ。写真を撮らなくては」


「駄目! 絶対駄目! コラッ! 待ちなさい!」


 駄目と言われる前に俺はもう写真を一枚撮り終えていた。

 そして、撮った写真を永久保存しようとする俺と消去しようとする朝比奈さん。

 奪い合いになった。俺は逃げ、朝比奈さんは追う。


「はぁはぁはぁ……」


「はぁ、はぁはぁ……」


 いくつかの攻防を経て、俺達は落ち着いた。

 ソファーの間を走り回ったり、机や椅子を盾に法の不遡及、プライバシーの権利や表現の自由、芸術への弾圧等、難しい議論を朝比奈さんと繰り広げた気がするが、それも過去のこと。

 妥協と譲歩を重ね、俺たちは協定を結び、無事解決となった。

 あ、写真は一枚だけ許されました。うん、頑張った。


「で、どうしてそんな格好を……」


「したくてしたんじゃないんだからね!!」


 勘違いしないでねっとツンデレみたいな台詞を朝比奈さんは言い放つ。

 腕にカフス、首には蝶ネクタイ。網タイツに至っては網目が細かく、ボディスーツによく似合っていた。

 この力の入れ様。どう勘違いすればいいんだろうか。まだ上があるのかな。

 マニアックなのは靴を履いていないことだ。網タイツがあれば何もいらない。脚線美を見てと言わんばかりに何も履いていない。スラリと細い足は見事で、足先を丸く描く輪郭は色気すら感じられる。


 これが朝比奈さんの本気か……恐ろしすぎる。

 衣服に疎い俺だが、朝比奈さんが着ているバニースーツは安物とは思えないほどしっかりとした作りだとわかる。黒の光沢って安物じゃテカっているだけで美しくないんだよな。だが、この黒の光沢は漆黒なのに艶がある。烏の濡羽色と言おうか、品のある明るさがある。朝比奈さんの白い肌を妖艶と輝かせている。

 本当に、一日でどうやって用意したんだろう。


「おみそれしました」


「なんで頭下げているの!? 拝まないで!」


「お布施って胸の間に入れるのが正式な作法なの?」


「一体何言ってるの、月見里君!?」


 衣装代もバカにはらないだろう。俺も協力したい。

 俺の財布には諭吉が一枚だけ入っていた。

 普段いるはずの野口がいないのに、当然のように諭吉が財布の中に鎮座して出番を待っていた。

 これは偶然か運命か。悲劇か天命か。

 勿体ない気はするが、朝比奈さんの本気に対して、俺が試されていると言っても過言ではない!


「さらば、諭吉ぃっ!!」


「ちょっっとぉぉぉ!!」


 財布からお札を出そうとしたら、両手で取り押さえられて戻されました。

 ちくしょう!

 どうでもいいが、この会話中数字が凄い勢いで振動していた。

 とりあえず冷静に話し合おうとソファーに向かい合って座ってみるが、どこに目の焦点を合わせればいいのかわからない。

 胸の谷間はくっきりと、普段露出しない肩は輪郭をはっきりと、太ももの肉付きは網タイツを添えて妖艶に。目が上へ下へと動かしても、落ち着かない。どこを見ればいいんだ。


「あのっ、胸を凝視しないでっ! こ、こかっ……下もっ!!」


 俺の視線を遮るように手を胸に下に。

 朝比奈さんは頑張るが、手を動かすごとに胸が形を変えて揺れ動く。

 まるっきり逆効果だ。


「じゃ、じゃあ、どこを見れば!!??」


「顔!! とりあえず顔を見て!!」


「ジーッ」


「見ないで!!」


 どっちや!?

 くっ、殺せと言わんばかりに朝比奈さんはグギギと俺を照れ睨むが、自分でその格好をしたんだよね? 俺は悪くないよね!?


「数字のためなの! 数字を減らすためなの! したくてこんな格好をしてるんじゃないの!」


「ほう、その心は」


「凝視しないで~っ!!」


 無茶なことを。

 目の前でバニースーツを着た美少女を見なくて何を見ろと。

 しかし、男のギラギラした目線で見られたら女性は落ち着かないのもわかる。

 俺も紳士を自称するだけに、自重しよう。


「ゴホン。で、朝比奈さんは数字を減らす方法がわかったの?」


「え、えとね。私の考えで間違ってもいるかもだけど」


 俺の視線の圧力が弱まったことに安堵したのだろう。朝比奈さんは落ち着きを取り戻し話し始める。それでも恥ずかしさは抜けきらないのか、目の焦点が落ち着かずにいったりきたりと様々なところに動いている。俺の股間部分を見る回数多いけど。

 何度見ても、大きくならないよ?


「振動って私が恥ずかしがってるのに連動してると思うの。振動の回数が多いほど、数字の減少値も大きいかなって」


「ふむ。一理あるね」


 今までのことを考えたら、朝比奈さんの考えを否定できない。確定とまではいかないが、その可能性は高いと思う。


「だから、頑張って、本当は嫌だけど、この格好をしたの!! 嫌だけど!」


 嫌という部分を強調して、朝比奈さんは言う。

 だけど、その嫌って言った途端、数字が振動したわけですが。うん、嘘って言ってるわけではなく、数字が振動したってだけだけど、うん。恥ずかしがってるだけだね!


「だからそんな、イカれ……ゴホンゴホン。露出の多い恥ずかしい格好を?」


「イカれてない! こんな恥ずかしい格好して興奮してないです! してないよ!! そんな……じゃない!」


 せっかくボカしたのに、力を込めて否定された。

 頭を振って否定すると、リボンが大きく揺れ動いて面白い。


「背水の陣ってわけだね」


「そうなの! 数字も高いし! もう耐えられないの!!」

 

 朝比奈さんの数字は7。観測史上最高値の値だ。

 どのくらいエロい気分になっているのかは本人にしかわからないが、キツイというのは本当だろう。だからこそ、バニースーツという常人には出来ない格好をしているんだ。

 いや、似合っているからその手を下ろして! 褒めているの! 考えてることを読まないで!


「つまり、朝比奈さんを恥ずかしがらせればいいと」


「うん。極端に言えば……って月見里君なんで携帯を構えるの!?」


「写真を撮ろうかと」


「さっきの停戦協定は!? 新しく写真を撮るのはなしって話だったよね!?」


 あれは過去のことだ。

 歴史を振り返ってみても、停戦協定は破られてきた過去がある。止む終えない事情や合理的な判断、変化する情勢に対応するため。

 様々な理由で協定は破られてきた。今回もそうだ。


「朝比奈さんを恥ずかしがらせるために心を鬼にして、写真を撮る!」


「駄目! 絶対駄目! 恥ずかしいから! 恥ずかしいから絶対撮っちゃ駄目!!」


「朝比奈さん、考えてみてくれ! 撮られるのは一時の恥。撮られないのは一生の恥!」


「逆! 逆だよ! データに残るのが嫌なの!! 一生の恥になるの!」


「俺しか見ないから!! 不味いデータは後で消すから!」


「ううっ!!」


 揺れ動いた!!

 頭の中の悪魔と天使が今だと、三国志の軍師のように采配を振るのがイメージできた。

 今この瞬間、俺達の気持ちは一体化した。

 突撃じゃぁぁぁあああ!


「俺は朝比奈さんの可愛い姿を撮りたいんだ!」


「うっ! 可愛い……? そんな……嘘? エ、エッチな格好をしているから……撮りたいん……でしょ?」


「嘘じゃない! 綺麗だ! 可愛い! ぶっちゃけ、恥ずかしがらせるために写真を取りたいんじゃないんだ! ただ、撮りたい! その一心で言ってるんだ!」


「はうぅぅぅっ!!」


「撮らないなんて冒涜! そんなに可愛いんだよ? 綺麗なんだよ!? 誰にも見せたくない! 俺だけで独占したいと思ってる!!」


「っ~ッ~!! ほ、褒めないで~っ!! 男の子に、月見里君に、褒められ慣れてないの! 恥ずかしいの! 変になっちゃう!!」


「朝比奈さん! 朝比奈さん!」


「//////////」


「お願いだ! 朝比奈さん、君のためにもなるんだっ!」


 ……………………。

 ………………。

 …………。

 あの手この手を使い朝比奈さんを口説き落とす。

 勿論、土下座もした。自分でも若干引くほど熱くなっていたが。美少女を、いや朝比奈さんを撮りたいという概念が俺を通して出ただけのような気がする。

 何を言ってるかわからないし、朝比奈さんは彼女でもないのにキモいとか言われそうだが。でも、逆に聞くけど、バニーガール姿の朝比奈さんを写真で撮りたいと思わないの!? 撮れる状況で、押せばいけそうな雰囲気で、撮りたいと思わないの!?

 もし、撮りたいと思わないやつは聖者か何かだろう。

 俺は聖者じゃなくていい! ただの思春期の男子だ!

 

「ぜ、絶対だよ! 絶対約束を守ってね!」


 懸命な説得もあり、条件付きで写真を撮ることを許された。

 後で朝比奈さんが画像を検閲、残してもいいなと思えるものを数点残すという条件。それもデータは朝比奈さんが管理することに。

 この条件は俺の勝利か敗北かわからないが、写真を撮れることの方が大事だ。手元に残せなくても写真を撮る意味はある!


「じゃあ、ポーズを取ろう!」


「ポーズ!?」


 ハイチーズと記念撮影するかのように朝比奈を撮るなんて情けない。

 ここにもし本職のカメラマンがいたら激怒されるだろう。

 もし、激怒しなかったらそれは職務怠慢だ!

 さぁ、グラビアアイドルみたいに魅力的な姿を撮りましょう。


「とりあえず朝比奈さんが可愛いと思うポーズをして!」


「ええっ!?」


 無茶振りとわかっていながら指示を出してみる。

 わからないとテンパる朝比奈さん。

 駄目だ、面白い。


「ウサギの気持ちになるんだ!」


 右往左往する朝比奈さんに助けを出してみる。

 自分でも意味がわからない助言だが、俺の言葉に朝比奈さんが頷いて、


「こ、こう?」


 頭上に手を掲げウサギの耳を模るように手を曲げる。

 リボンの耳もあるので、耳が四つだ。いや、本物の耳も含めて六つか。

 これでいいのと心配そうに俺を伺う姿が少しユーモラス。


「プッ!」


「笑わないで~!!」


「いや、いける! うん、可愛いよ! ほんと、ほんと!」


 信じられないとムーっと睨むが、手はそのままだ。

 写真を撮ろうと構えるが、ちょっと違う気がする。


「もっと肘を上げて! そう! 脇を見せるように! コラッ、下げない! 綺麗な脇なんだから見せつけないと! なんで、下げるの!? 上げて、上げて! カフスの位置も気をつけて、そう! それ! 可愛い!」


「うっ~!!」


「次はソファーに寝そべろう! え、嫌? なら机の上でいいよ? 足は机に乗せずにブラブラとさせて俺がその上から写真撮るから! え? ソファーでいい? ソファーがいい? チッ」


 エッチとか変態とか言われたが、これも朝比奈さんのため。喜んで汚名をかぶろう。


「特に意味はないけど、飛び跳ねようか? 躍動感がある写真を撮りたい。えっ? 胸が? 胸がなんですかー? 言葉で言ってくれないと、わかりーまーせーんー。

 反論がないなら、飛ぼうって……飛び跳ね方、小さっ! もっと……え゛、写真の音がしない? 気のせいじゃ……動画撮っているんじゃないかって、まさか、そんな……カンガエテモ……って携帯を奪おうとするの禁止! ああっ! 返して、ボクの携帯返してぇぇぇぇ!」


 鬼畜とかド変態とか言われたが、これも朝比奈さんのため。喜んで耐え忍ぼう。

 俺は朝比奈さんのために頑張ったのだった。

 可愛いとか綺麗とか褒めるたびに数字が振動したから、朝比奈さんも悦んだと思う。うん、そういうことにしておこう。


「……バカ」


「ごめん」


「変態! エッチ!」


「男はみんな変態なんだ」


「逆ギレ! バカ、バカ!」


「ごめんなさい」


 反省しています。

 最後、朝比奈さんと抱き合いながら文句を聞く。抱きしめるのはいらないかとも思ったが、どちらともなくやりますかという雰囲気になって、朝比奈さんを抱きしめた。互いの顔が見えない。だからこそ、言いたいことがいえる。


「本当に恥ずかしかったんだから!」


「ごめん」


「したくてこんな格好したんじゃないんだからねっ!」


「わかってます。うん、わかってる」


「棒読み!」


「ごめん、嘘つくの苦手なんだ」


「爽やかな感じで言わないで! 嘘つき! バカッ!」


 ポスっと俺の胸に朝比奈さんの頭が沈む。心地よい重さが胸にのしかかる。

 バニーガール姿ということもあり、抱き合ってはいるが密着性は薄い。肌が気になって強く抱きしめられないチキンだからだ。朝比奈さんも恥ずかしいのか、密着している部分は頭や首付近だけだった。

 それでもいつもと違う服装のお陰でドキドキするのだが。


「次は絶対しないんだからねっ!」


「そんなご無体な」


「ムッ~~本当に怒ってるの」


「ごめんなさい」


「今回だけっ! 本当に今回だけなんだからねっ!」


「勿体ない。みんなに見せたら絶賛されると思うよ」


「嫌っ! そんなの絶対に嫌! 見せるのは月見里君だけ!」


「俺だけいいんだ」


「うん。もう見せちゃったからいいもん。月見里君だけだもん、こんな姿見せれるの」


「じゃあ、また着てほ……」


「しない! しないったらしないの! こんな格好するの痴女だけだもん!」


 バニーガールを現在進行系で着ている朝比奈さんは痴女なんだろうか。

 そして、気がついているのかいないのか。

 朝比奈さんの口調は幼いものとなり、俺の服を掴む両手に力が籠もる。それは子どもが親にギュッとしがみついているのに似ていた。密着しているのは相変わらず頭と首元だが、グイグイと押し込むように俺の胸元にめりこんでいく。


「ね……朝比奈さん?」


「…………なに?」


「ごめんね」


「………………」


「いや、ありがとう、か」


「…………うん」


 めり込む力は止まり、肌が触れる範囲は増えていく。

 だけど、それに反比例するように力は抜けていく。

 セミの音を聞きながら、俺と朝比奈さんは無心になって抱き合った。

 そんな初夏の日のこと。





 写真撮影も終え、バニースーツは役目を終えた。

 あとは制服に着替えるだけ。

 数字を振動させるのが目的なら、部室という密閉空間で俺が後ろを向いて朝比奈さんが着替えるのはどうだろうか。

 見ることができないがゆえに、想像力が働くと言おうか。

 衣擦れの音に背徳感が生まれると言いましょうか。……いや、俺が興奮するだけだな、それ。

 女性の立場でも、信頼しているけど、もし振り向かれたらというドキドキ感が味わえるのではないだろうか。

 だけど、それを朝比奈さんに言ったら白目で見られそうな気がして言うのを止めた。もし、信頼してないとか言われたら泣きそうになるしね。

 ということで、俺は先に部室を出て廊下に待機。朝比奈さんが着替え終わるまで待つことにする。


「……ん?」


 神経が過敏になっているのだろう。物音や気配を感じると振り向いてしまう。

 だが、何もない。セミが窓にぶつかる音がしたり、部活動している生徒の叫び声だったりと。

 朝比奈さんが扉を隔てた先で全裸になっているかもしれないと思うと人は駄目になるな。いや、全裸かどうか知らないけど! そもそも、バニースーツって下着を履くの? 聞いてみたいけど、聞けないよなぁ。いや、朝比奈さんならもしかしたら……っ!!

  

「お待たせ」


「ひっ! ごめんなさい!」


「えっ? えっ?」

 

 いつの間にか朝比奈さんが廊下に出ていた。

 突然謝る俺に、朝比奈さんは目をパチクリさせる。


「失礼。被害妄想に陥ってた」


「この短い間に何があったの……」


 駄目だ。若干、呆れた目で見られている!?

 わ、話題を変えなくては! 好感度下落を阻止せねば!


「……ゴホン。忘れ物はない?」


 朝比奈さんの鞄は膨らんでいた。先程まで着ていたと思われるバニースーツが入ったからと思われる。持って帰ってしまうのか。二度とバニースーツが見れないから部室に置いておこうよと言いたくなるが、ぐっと我慢する。

 これ以上好感度を下げたくないもんね!


「うん」


「じゃあ帰ろっか」


 朝比奈さんも出たことだしと、部室に鍵をかける。


「……ん?」


「月見里君、どうしたの?」


 朝比奈さんが不思議そうに俺を見つめる。


「……いや、気の所為だったみたい」


 後ろを振り返っても、左右を見回しても誰もいなかった。

 誰かの気配を感じたが、神経が高ぶっていたせいで過敏になっていただけみたいだ。

 そして、俺達は学校を後にした。

 翌日、無事朝比奈さんの数字はマイナスになっていた。

 一件落着である。

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