第2話 謎の美少女現る!?
「で、どうだった?」
文芸部の部室を開けると、ソファーでくつろいでいた
東郷誠一郎は俺のクラスメートであり、俺の友人であり、悪友でもある。俺が朝比奈さんに告白することを事前に知っているぐらいの仲と言えば、関係性はわかってもらえると思う。
あと、傷心の俺に対してニヤケ面で出迎えてきたことも明記しておこう。
文芸部の部室は部員数に比べ広い。教室の半分くらいの大きさの長方形の部屋だ。入ってすぐに来客用のソファーと机があり、その後ろには読書や書き物をするために長机とパイプ椅子が。両脇の壁際には文芸部らしく本棚がびっちりと詰まっている。そして、長机を過ぎるとまた一つの机と椅子がセットされており、そこにPCがある。あと、玄関扉のところに掃除用のロッカーも完備してたり。弱小文化部にしては中々の設備だ。
「振られた」
誠一郎の顔を見ずに端的に結果だけを返事をして誠一郎を通り過ぎる。そして、鞄を長机の上に置いて一息つく。
あー疲れた。告白しただけでも精神的に疲労するんだな。そのまま、パイプ椅子に座ると、誠一郎が俺の横に座り、肩をバシバシと叩いてくる。
「よっしゃ! ナイス! 俺は信じてたぞ!」
「ひでぇ」
友人が振られたのに、歓喜の声をあげる誠一郎。誠の字が泣いているぞ。
「もし、告白が成功してたら俺は義之のこと刺してたね」
「怖っ」
「俺からの祝福だ」
「嫌な祝福だな」
この男は祝福と殺意を間違って覚えているのではないか。
「いやだって、人の告白横取りしておいて成功するとか……鬼畜の所業以外何ものでもないだろ? 多分、裁判官も情状酌量の余地があるって言ってくれるぞ」
「そう言われたら謝るしかない。すまん」
「あっっはっは! しかし、義之もうっかりというか馬鹿だな」
朗らかに笑う誠一郎。これで手打ちということらしい。
なんだかんだ言って誠一郎は人間ができている。
なぜ、俺が謝り。誠一郎が受け入れるのか。
それは……。
「ラブレターの代筆なんて初めてだったんだ。少しのミスくらい許せよ」
「少しくらいのミスって……名前を書き間違えるなんてあるのか? それも自分の名前」
プギャーとこちらを指差して笑う誠一郎を刺しても許されると思う。誰だ、コイツが人間できていると言った奴は。
「うるさい! 人にラブレターの代筆押しつけたのが悪いんだろ!」
コイツは俺が文芸部というだけで俺に恋文の代筆を任せてきた。文芸部といっても、漫画やラノベなどの娯楽コンテンツがメインという名ばかりのクラブだ。
それなのに、字が綺麗だからとか文字に慣れているからと理由をつけて、ラブレターを書けと半ば強引に押しつけてきたのだ。
文章を書くのも四苦八苦である。それも学年のアイドル的存在であっても、俺は特に恋愛感情をもっているわけではない。朝比奈さんのどの部分に惚れたとか考えるのも一苦労である。褒める部分はそりゃ多数あるかもしれないが、恋を絡めた途端に難しくなる。美人って褒めても、外見だけで好きになったのかとか思われるかもしれないし。優しいと言ってもありふれている感じで、イマイチ言葉に説得力がない。
誠一郎に朝比奈さんの魅力を聞いても、美人、スタイルがいい! あと胸! と言うだけである。ぶっ殺してやろうかと思った。振られてしまえと思った。俺が無事振られましたけどね!
しかし、代筆を受けた限りは精一杯やらねばいけない。
徹夜で文章を考え、恋文を完成させた。後は名前を入れるだけと肩の荷が下り、眠気と達成感でつい書き慣れた自分の名前を書いてしまった。つまり、ケアレスミスである。誰が俺を責められよう。
「朝比奈さんから俺に返事来たのはマジで驚いた」
その日は朝一番に来た。朝比奈さんの机にコソッと恋文を入れ、ミッションコンプリートと部室に行き、仮眠を取っていた。
授業の予冷が鳴り、慌てて教室に戻って自分の机に手を入れると見に覚えのない紙の感触が。
なんだと思って、引っ張り出すとそこには一通の手紙が。
『放課後、四階奥の空き教室で』
目を見開き、慌てて朝比奈さんの方を向くと彼女と目があった。朝比奈さんは俺と目が合うとサッと視線を逸らす。
手紙の差出し人がわかった。
俺の脳内には驚愕と戸惑いで一杯だった。
なんで、俺が朝比奈さんに呼び出されるのか。ラブレターの本当の主の誠一郎ならわかるが、代筆をしただけの俺がなんで。もしかして、代筆がバレたのか。
そして、電撃が流れたのかのような衝撃が脳内に走った。
論理のパズルが瞬間的に組みあがり、答えを弾きだす。
あ、もしかして名前書き間違えたんじゃね。
思い返すと、誠一郎の名前を書いた記憶がない。書き慣れた自分を名前を記した気がする。疑惑がますます膨れ上がり、やっちまったという思いが心の内を占める。
どうすればいい。ここからどう巻き返せばいい。
授業中、ずっと考えていたのだが、無理だと結論がでた。
もし、朝比奈さんに名前を書き間違えたんですあれは誠一郎のラブレターなんですと打ち明けたらどうだろう。誠一郎の告白は成功するか否か。
……うん、きっと失敗する。百年の恋も冷めるとまではいかないが、気持ちが冷めてしまう可能性が高い。
決断する。
もういいや、俺が告白して振られよう!
これで万事解決である。誠一郎に事情を話し、謝った。誠一郎は困惑と驚愕、そして一握りの苦渋が入った渋い顔をしていたが、理解してくれた。
成功云々関係なく告白の結果をすぐに教えてくれるなら、俺の馬鹿なミスを許そうと言ったのだった。
まぁそれならということで今に至るわけだ。
「しかし、朝比奈さんどんな感じで振ったの?」
「ん……結構、真摯な態度で振ってくれた。彼女くらいの人気者なら告白も慣れてそうなのに、丁寧にお断りされた」
「あーその言葉だけで義之が告白した意味があったな。「は?」とか「貴方に告白されたら傷つくんですけど?」とか言われたら立ち直れない」
むしろ、そんなこと言う人いるんですか。
俺もそんなこと言われたら立ち直れそうにない。
「よし、勇気が湧いてきた」
「あ、でも朝比奈さん「誰とも付き合うつもりはない」って言ってた」
「勇気がしぼんできた……」
ごめん。
でも、言わないの駄目かなと思ってさ。
「ま、体のいい断り文句かもしれないが……」
「それでもなんかしらの理由があるんだろ? 他の告白も断ってるしさぁ」
朝比奈さんに告白する人は多い。その中にはイケメンも多く、なぜ誰とも付き合わないのかと男子だけではなく女子の中でも囁かれている。ゲームとかだったら、小さい頃別れた幼なじみが忘れられないという設定があるところだ。
「しかし、そこがポイントかもしれないぞ」
「え? どういうこと?」
「誰とも付き合わない理由があるってことは、そこさえ解消できたら付き合えるかもしれないってことだ。つまり、そこに攻略する鍵がある!」
「おぉ! 勇気が湧いてきた!!」
単純である。
そのキーとなる部分が一番難しいというのに。もし、本当に幼なじみが忘れられないだったらどうするのだろうか。
「ま、当面の間は仲良くなって恋人を作らない理由を聞き出すことを推奨するわ」
「ぐへへへ……初めてのデートで許されるのってどこまでだろう」
やばい。もう。朝比奈と付き合う妄想にふけっている。
「ということで、帰れ。帰ってテスト勉強しろ。朝比奈さんは成績優秀なんだから、釣り合わないぞ!」
「お!? そ、そうだな。義之、お前は?」
「俺はもうちょっと部室にいる。眠いし、ちょっと仮眠とりたい」
ラブレターの代筆で寝不足なんだ。
家のベッドで寝たら、そのまま寝ちゃいそうだからソファーで軽く仮眠をとりたい。
「そうか。んじゃ帰るわ。風邪引くないよ」
「おう」
俺は席を立ち、そのままソファーに腰をおろし、背もたれにぐぐっと体を倒す。
そのまま首を限界まで反らし、こわばった筋を伸ばす。
まず天井が見え、後方に掃除用のロッカーと扉が見えた。頭を反らしているので普段見ている扉とは違った見え方がする。何かわからないけど面白い。
そのままぼーっと首が痛くなるまで見続けようとしていたら、
「話は聞かせてもらいました」
「ぶっ――」
突然、掃除用ロッカーの扉が開き、中から美少女が出てきた。
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