第7話 前世での出来事


のどかな朝。小鳥はさえずり、日は高くのぼり__




ジリジリジリジリジリ____!!




「うるせぇ」




ダンっと乱暴に目覚まし時計を止める。


時計を見ると午前八時であった。普段ならここでカロリーメ◯トなんかをボリボリ食って出かける支度をするのだが今日も眠気が強いので更に二十分近く寝た。


そこから急いで制服に着替え、半分意識が飛んでいるがそれでも頑張って高校に向かう。




教室につき自分のテーブルに顔を突っ伏す。


そのまま引かれるように至福のときへ_____










_____________________






キーンコーンカーンコーン




「ん、……」




気づくと教室の窓から見える外の景色はすっかり変わっていた。


日が落ち、空がオレンジ色に染まりどこからともなくアホー、アホーっとカラスが鳴いている。


………やらかしたな。また一日中寝てしまったか……




「しょうがない…寝るか」


「なんでよ!!??」


「あ、会長。どうも」




現実逃避にもう一回寝ようとしていたらつっこまれた。


この長い黒髪を後ろで一本にまとめ俺につっこんだ女の名前は本城真琴。


因みに本城グループと呼ばれる大企業を持つ親の娘なので必然的に社長令嬢という立場になるのだが………俺からしてみればどこが?といった次第である。理由は自他ともに認める天真爛漫さだ。そこに清楚の二文字はこれっぽっちもなく、幼いときは男子と一緒に遊んでいたほどだ。




俺との関係性はよくある(後日数少ない友人の一人に話したら「よくねーから!!そんな仲良いはずないから!!爆発しろ!!」と言われた)、幼稚園から続く中で良く言えば幼馴染、悪く言えば腐れ縁というわけだ。


因みに真琴は俺の一つ上なので今は高校三年生である。




「ねぇ、一緒に帰らない?」


「いいけど、別に」


「そ、じゃあ行きましょ」




こうして俺達は帰路につく




「ねぇ……そういえばさ…もうすぐ…じゃない?」


「ん?ああ、そういうことか……ああそうだな。もうすぐ十二年だな」






そうか……もう十・二・年・も経つのか……




「私はね?君の前から……いなくなるつもりはないからね?」


「ん?そうか?それにしてはこの前、体育館裏で告白されてたよな?」


「〜っ!?まさか、見てたの!?」


「見かけただけだよ。たった一瞬だけ」


「嘘よ、嘘!!」


「どうして断ったんだ?あの人は確か、イケメンの上品行方正で有名なサッカー部部長の田口さんだろ?しかも生徒会副会長だし……」


「見てんじゃん!!がっつり見てんじゃん!!」


「確か………『前からずっと好きでした。付き合ってください』だっけか?」


「しかも聞いてんじゃん!!どこにいたの!?」


「旧校舎の三階の端の教室」


「視力も聴力も半端ないわね!?」


「まあな。それよりなんであんな良物件振ったんだ?」


「そ、それは………って!!聞いてたんなら知ってるでしょ!!」


「さあ?存じ上げませんが…会長、なんとおっしゃったんです?」


「いいでしょ!!別に!!……それより何度も言ってるでしょ……二人っきりの時は会長って呼ばないでって」


「だけど生徒会長なのは事実じゃん」


「そ、そうだけど…」




真琴は頬をぷくーっと膨らませてこちらをずっと睨む


だが…なんかちょっとハムスターみたいで可愛い




「あ、そういえば……会ちょ…」


ジィーーーー


「…本じょ……」


ジィーーーーーーー


「………………マコ」


「なぁ〜に?」


「……いや、もうなんでもないです…」




こんなことを駄弁っていると俺の家についた。




「明日、君が寝坊しないように起こしに来てあげるから」


「あ、そう。じゃあこれ合鍵」


「え!?あ、合鍵って……」




急にもじもじしだしたな…ちょっと釘刺しとくか。




「言っとくけど静かに入ってきて俺の寝顔にいたずらとかすんなよ?」


「え!?し、しし、しないわよ、そ、そんなこと……」


「まこさーん?目が泳ぎまくってますよ?」


「へ、変なこと言わないでよ!!」


「まあいいや、また明日な。じゃ。」


「オッケー。じゃね〜」




家の扉を開け中に入る___瞬間、扉を背にしてへたり込んでしまう。




あっぶねぇ〜〜〜危うく可愛すぎて手が出そうになった。


幼馴染な分、他の女子よりより気になってしまう。


というか好きなんだよな。


例え他の男に取られても奪い返すぐらいの覚悟はある


せめて自分で責任が取れるまでは絶対に手は出さないからな。


頑張れ、俺の理性。


…今日は早めに寝るか………








________________________




〜翌日〜




「んん……何してんだ?」


朝、目を離すと目の前にマコの顔が迫っていた。




「いや、べべ、別に、何もしてないけど!?」


「そうか」




若干テンパってるな。………かわえええ!!!!


何コレ?神から与えられしご褒美?




「ん?なんか、美味そうな匂いがするんだが」


「ああ、どうせ君は碌なもん食べてないでしょ?だから私が今日特別に作ってあげました〜」


「え?まじで?」


「まじのまじ。本気と書いてまじと読む」




テーブルの上を見るとご飯、味噌汁、焼き魚、卵焼き、漬物が二人分並んでいた。




よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!マコの手料理!!キターーー!!!




「美味そうじゃん」


「でしょ~。さあさあ、お上がりよ!!」


「それはとある定食屋の少年が使う言葉では……」


「気にしない、気にしない〜」


「じゃあ、一口」




焼き魚を箸でほぐし、身を取る。その上に醤油をかけた大根おろしを乗せ口に運ぶ。




「っ!!こ、これは!!」


「………どう?」


「美味い…只々美味い……」


「それだけ?」


「正直、はだけそうになった」


「脱ぐな、脱ぐなww」


「なんだこれは…魚にちゃんと脂が乗っており大根おろしと一緒に噛みしめることにより、その旨味が何倍にもなって口の中を満たす………今まで食べた中で一番の焼き魚だ……」


「でしょ〜?なんか言うことないの〜?」


「?」


「ほらほら〜料理が上手な女の子に言うセリフがあるでしょ〜」


「ああ……なるほど」




俗に聞く、『いいお嫁さんになるね』って言わせたいのか……なら……




「なあ」


「ん?なになに?」


「こんな素敵なお嫁さんの料理を食べられる旦那さんは幸せだな」




どーだ、ちょっとイケボで言ってやったぞ。




「……………」


「?あの………マコさん?」


「……………」


「え、まさか………」




マコの前で手をブンブン振ってみるが反応がない




「気絶してんのかよ!!」






このあと、マコを戻すのに少し時間を食ったがそれでもいつもと同じぐらいの時間に家を出た。




「そういえばさ?」


「何?」


「マコが朝食作ったんだよな?」


「何言ってるの?当たり前じゃない」


「……じゃあマコは何時から俺の家に居たの?」


「…………」


「黙るな、黙るな!!そして目を泳がせるな」


「ヒュ〜、ヒュ〜」


「下手な口笛も吹くな。てゆうか鍵を返してもらおうか」


「……はい」


「じゃあコピーした分も」


「なんでバレ……あ、」


「やっぱ作ってたんだな!?」


「うう〜〜〜」


「睨んでもダメ」






学校につき一日を過ごし下校の時刻になる。


今日はあんまり寝なかった。


この時間だとマコは生徒会か……


一人で帰るかと思って下駄箱を開けた時、それはあった。




『先輩のことが好きです。放課後、旧校舎の屋上で待っています』




今時ラブレターかよ。まぁ…睡魔はまだそんなに強くないし暇つぶしついでに行って断って来るか




「着いたがはいいがどこに居るんだ?まさかドッキリとかじゃないよな?」


「すいませ〜ん」


「ん?君がコレの送り主?」


「ええ、そうです」




う〜〜ん……完全にギャルだな。顔は可愛い顔してるけど髪を金に染めてるし、ネイル、化粧、ピアスまでして……




「あの……もしかしてギャルっぽいから引きました?」


「ん?いや、ギャルが嫌いって言うわけではないんだが……」




まぁ好きでもないけど




「じゃあ、あ、あの、付き合ってください!!」


「うん、ごめん、無理」


「え?」


「う〜ん。誤解を与えないように言うとね?君自身は可愛いと思うよ?でも、俺にはもう心に決めた人がいるから」


「そ、そんな……」




心に決めた人がいるのは事実だが俺はこいつのことをいいとは思ってないし




「えーーとっ?君、名前は?」


「〜っ!!……愛川歩あいかわ あゆみです…」


「なら愛川さん。君には俺なんかよりもっとふさわしい人が居るから、ね?」


「………はい…」


「なら、俺はもう帰るね」






屋上を出て校門前まで来るとそこにはマコがいた




「もぉ〜遅い!!」


「え?わざわざ待ってたの?」


「だって君の下駄箱見たら靴がまだ残ってたんだもん」


「そっか。待たせて悪いな」


「いいよ、別に。というか何かあったの?」


「一年に告られた。『あなが好きです』って」


「んなっ!?それ本当!?」


「嘘言う必要がない」


「返事は!?」


「無論断ったさ」


「そっか……」


「やけに嬉しそうだな?」


「そ、そんなことないもん!」


「ちゃ〜んと『自分にはもう心に決めた人がいるから』ってな」


「んなっ!?ってまじで!?」


「ああ」




実はこのセリフ、こないだマコがサッカー部部長を振ったセリフそのものである。




「そ、それよりさ……」


「ん?どした?」


「今日……家に親いないんだけど………」


「Ooh……まじか」


「それでね?良かったらなんだけど……」


「……ああ…」


「……模擬戦してくれない?」


「ああ……わかっ…へ?模擬戦?」


「ええ……最近本気で戦える相手がいなくて…」


「どこの戦闘狂だよ!?」


「お願い!同じ門下生の君なら私の攻撃も簡単にいなせるでしょ?」




マコは必殺の上目遣いを使って頼んでくる。


畜生かわいいじゃねえか…




「はあ〜……一時間だけだぞ?」


「イェーイ♪」












因みにマコの爺ちゃんが俺の師範でもあるから自ずと道場とマコの家が近くなる。てかほぼ隣だ。


道場に入り道着を貸してもらう。よく空手なんかで使われるようなものと差異はない。




「じゃあ、まずルールの確認だが…」


「家の流派の技や、道具なんかは使用禁止、コレだけで」


「わかった。ただし、俺は…」


「”ダメ”」




ゾクリ。


おいおい…しばらく見ないうちにだいぶ殺気の質が上がってるな…




「寸止めなんて許さないわよ」


「だけど…」


「私は本気でやりたいの」




マコはいつにもなく真剣な顔をしながら言った。


こいつこの状態になったら元に戻すのちょっと大変なんだよな〜…しょうがねえか




「わかった。だがお前の顔だけは狙わない。女の顔を傷つけるような真似だけはしない。これが俺から出す条件だ。」


「…うん、分かってる。でもね……本気で来ないと怪我するのは君の方だよ?」


「どうだかな…」




そう言って俺達は向き合い互いに構えを取る。


足を肩幅に開き、腰を軽く落とす。左手を軽く、右手は強く握りながら相手へと向け右腕を引く。最後に右足を半歩後ろにやる。これが俺の流派を使わない我流での構えだ。




一方マコの方は足を肩幅に開き、腰を軽く落とすところまでは同じだがマコは体を横に九十度右に向け左手を開いたまま腕を伸ばす。更に右手を握り臍のあたりまで引く。






マコとの距離は大体三メートルくらいだ。


少しの間、静寂が訪れる。これが正式な試合とかなら審判や開始の合図の一つでもあるんだがあいにく今はそれがない。


だが俺達にそんなものは必要ない。


互いに何年も己を磨き合ってきたのだ。今更合図なんかしなくともマコは不意打ちとかをするタイプじゃないだ…




「せいやぁ!!」


「ぬぅわ!!いきなり!?」




いきなりマコは正拳突きを繰り出してきた。


俺はそれをギリギリで後ろに下がり回避する


あれ〜?おかしいな~?


ちょっとは空気読んでほしいな〜?




「いきなりって……もう始まってるで…しょ!!」




そう言いながら上段蹴りを放ってきた。


俺はマコの足を左腕で防御し、代わりに俺もマコに中段蹴りを放つ。


だが、マコは左手で俺の右足を止め後ろに跳び、距離を取る。




「仕切り直しだな」


「うん」




軽く息を吐き、呼吸を整える




「んじゃ、今度はこっちから行くぞ?」


「どっからでもかかってきなさい!」






「そういえば、君、学校でなんて呼ばれてるか知ってる?」


「どうせ名前とかじゃないのか?」


「ブッブ〜。正解は〜”眠男”って呼ばれてるよ〜」


「おいおいまじかよ…」


「いっつも寝てるからね」


「安直すぎるだろ」




こんな風に普通に喋っているが忘れないでほしい。


今格闘してる真っ只中ということを。


軽く全国大会行けるレベルの戦いの最中に喋れるって俺は置いといてマコも強くなったな〜




そんなことを考えていると、俺が油断しているとでも思ったのかマコは左上段回し蹴りで直接脳天を狙ってきた。


だが、一般人に対して必殺の一撃でも俺にとってはどうとでも対処可能な攻撃だ。


それにそろそろバイトの時間も迫ってきている。


なので、そろそろ決めようか。


左上段回し蹴りを屈んで避け、右足でマコの軸足を払う。そのまま空いている左足でマコの顎を蹴り上げ_____






「”待て”」




静止の声を聞きピタッと足と顎がぶつかる瞬間で止まる


そしてその声の主は俺の師匠でもあり、マコの爺様でもある本城天也その人であった




「も〜おじいちゃん!!いいところだったのに止めないでよ〜」


「な〜にが、いいところじゃ。人がいない時に好き勝手しよって」


「だって〜」


「だってもクソもないわい。眠男、お主はもう帰れ」


「ああ……ん?ちょっと待て、なんで俺の学校でのあだ名知ってんだ!?」


「なんでってマコが教えてくたんじゃが……」


「おい、マコ……」


「てへ☆彡」


「……時間だから帰ります。このあとバイトあるんで」


「うむ。わかった」


「じゃ〜ねぇ〜」


「マコ…明日覚えとけよ?」




俺はニッコリと…いや違う。


ニッゴリとマコに向けて微笑んだ。




「ヒッ!あ、明日は生徒会活動があるからなぁ~…」




俺は道場を出てそのままバイト先へと向かった






◆◇◆◇




「あ〜怖かった〜」


「口が軽いお主が悪い」


「だって〜」


「そんなことよりマコ、お主また強くなったな。」


「えへへ〜でしょ〜」


「じゃが、眠男はもっと強くなっておる」


「え?」


「なんじゃ、気付いとらんかったのか?」


「あやつ思いっきりてかげんしていたぞ?」


「ええ〜…嘘でしょ…今日結構本気だったのに…」


「もしかしたら儂より強いかもな」


「おじいちゃんより強いって……おじいちゃん四十年やってるんだよね……」


「ああ。それに対しあやつは週三日の二、三時間を十年間であれじゃ」


「ええ・・・」


「まぁ…あやつはそれだけじゃないのじゃが」


「どういうこと?」


「あやつは鍛錬じゃなく、実戦で強くなったのじゃよ」


「あれ?でも、おじいちゃんが大会とかに出るの禁止って決めたよね?」


「そうじゃな」


「え?じゃあどうやって?」


「お主にはまだ早い」


「ええ〜」




「あやつのバイトがどういうものか説明するのは二人がくっついてからでいいじゃろ」


「ん?なんか言った?」


「いや、なんでもないぞ」










このやり取りが行われたのはネクロが死ぬ3週間前のことである。




















______________________










〜引き金〜






私、愛川歩ははっきり言ってモテる。男なんて上目遣いで褒めれば大抵落ちる。なのに落ちなかった男がいた。


そのひとを初めて見たのは中学二年の春だった。


同じ中学の先輩で成績は良く、人畜無害そうでその上イケメン。当然他の女子から人気があった。


だから当たり前に私も気になったしフリーとも聞いていた。


彼をターゲットにしたのはその頃だった。


だからさりげな〜くアプローチしたりしてたのに名前すら知らなかったなんて……悔しい。只々悔しい……


私が悔しさに打ちひしがれていると突然、笑い声が聞こえてきた




「はっはっは〜♪」


「誰!?」


「ごめん、ごめん♪」




見るとそこには金髪を肩まで伸ばしたイケメンがいた。


内の制服を着ているけど一、二年では見たことないから三年生の方かしら……


ていうか私が言えるわけじゃないけどこの学校本当に校則ガバガバね。








「ぼくの名前は…白って呼んで♪」


「白……私になんの用よ!!冷やかしなら帰りなさい!!」


「そんなんじゃないってば〜♪ただねぇ?君がさっきの彼をゲットする方法ならあるんだけどね?」




白と名乗ったその男の言葉に衝撃を受けた。




「できるの…?そんなこと……」


「できるさ♪彼が断った時の言葉を思い出してみて♪」


「『自分にはもう心に決めた人がいるから』って」


「そう♪ならその決めた人を消しちゃえばいいんだよ♪」


「え!?そ、それって…」


「大丈夫♪ぼくの言うことを聞いておけば何も問題なんて起こらないから♪」


「あんたの言葉を聞いて…いれば…?」


「そうそう♪」


「……わかったわ」


「うん♪なら今日はもう遅いし帰ろうか」


「……うん」




少し頭がフワフワするのを感じながら私は帰路につく




「はは♪これで全ての下準備が整った♪」


「ん?何か言った?」


「いや〜?何にも♪」








____こうして歯車は動き出す____




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