第5話 鍛錬したくない…

翌日、目を覚ますと体が動かない。そして目の前の布団が何故か山のように膨らんでいる。


はっ!?これはあれか?よくある日常系漫画で朝起きたら妹が俺のベッドの中に入っていた!?的な奴か!?……な訳無いか……そもそもそんな展開するほどのフラグを立てた覚えはないし、するやつもいないしな。


第一、布団の中の俺の肌に伝わる感触が人間みたいな柔らかい感触ではなく、固く、冷たい物の感触だからだ。体を揺らすとジャラジャラと音がなることから鎖だということが推測できる。


だが一体なぜ!?誰が!?何のために!?俺が頭を悩ませていると




バァァァァァァァン!!!!!!!!




「ネクロ!!!!起きてる!?」


「…リリス姉様……この鎖は貴方ですか」


「ええ、そうよ!!」




なぜそこでドヤ顔するんだ…




「では取ってくれませんか?動きづらい…いや、起きづらいので」


「ダメよ!!ネクロいっつも鍛錬サボってるじゃない!!今日は参加してもらうわよ!!」


「ええ〜それは…」


「グダグダ言ってないでついてきなさい!!」




するとリリス姉は俺の首根っこを掴み、引きずりながら部屋を出る。


ついってってねぇ。連行の間違いだこれ


第一、鍛錬ってあれだろ?ただ親父にボコボコにされるだけの時間だろ?


はっきり言ってやりたくねぇ!!ずっと家でゴロゴロしたい!!昨日の魔法の現実逃避すら満足に出来てないってのに!!


それに今何時だよ。体の感じ方から大体午前11時くらいだろうけど…




しばらく引きずられたあと、俺とリリス姉は中庭に出た。そこにはもう親父の姿があり、いつもの堅苦しい貴族っぽい服ではなく動きやすさを重視したデザインの服を着ていた




「やっと来たか」


「はい!!お父様!!ネクロも連れてきました!!」


「…おはようございます。お父様…」


「うん、おはよう。ネクロは鍛錬は初めてだったかな?」


「…はい」


「ならこれ持って」


「え?」




親父がいきなり渡してきたのは木でできた剣だった。ただ剣と言っても子供用に作られたおもちゃみたいな件だが。




「……あの、これで一体何を?」


「う〜ん…とりあえず素振り1000回かな」


「え!?」




え?なんでこんないきなり!?もっとあるでしょ?はじめてなんだよ!?もっとちゃんと教えるだろ!


俺まだ五歳だよ!?






「じゃあリリスはこの間出した課題の確認からしようか」


「はい!!」






あ〜あ…もうあっちは勝手に始めてしまっているし…


…剣か。


普通に考えて転生してきた只の一般人がいきなりちゃんとした素振りができるわけない。


それこそ最近の異世界転生系のラノベの主人公はついこの前まで平和に暮らしてた高校生だろ!!ってのが多いな。


正直どんだけ剣の才能あったんだよ…


まあ、剣道かなんかをやっている場合は別だが。


ちなみに俺は後者に値する。ただ、習っていたのは剣術ではなく戦闘術だが…


とりあえず偶には素振りするのも悪くはない…か


そう思い、中庭の端で素振りを始めようとするが…


そういえば、素振りの仕方ってこれで合ってたんだっけ?


確か……前世で一応通っていた道場の師範のじっちゃんが通い始めた頃頃言ってったっけ






____________________________________








〜前世でネクロが心筋梗塞で死ぬ約10年前 とある道場にて〜




まだ毛も生えていないようなガキと荘厳な顔立ちをした老人が睨み合っていた。


ガキは老人を睨みながらあることを要求した




『おい、ジジィ!!ささっと剣の振り方教えろよ!!』


『せっかちなガキじゃのう。』


『何!?』


『それに、お前さんはついこないだ内に入門したばかりじゃろうて。素振りなどまだ早いわ』


『ふっふざけんなよ!!お前が、この世の中で生きるための術を教えてくれるって言うから俺はわざわざこんな小汚い道場に入門したんだぞ!!教えてくれねえなら帰る!!』




ガキが次の言葉を口に口にしようとした瞬間、老人…いや、道場全体の雰囲気が変わった




『………消せ』


『あ?』


『取り消せといったんじゃああああああああ!!!!!!!!!』




老人はまるで龍のように腹から声というなの方向を放った




『な、な、なにを言ってんだよ。じ、事実だろうが……』


『この道場はな…この道場はな……創始者である舛井民次郎様がなぁ、戦国時代最盛期、全国を密かに旅しなが


ら稼いだ金で建てられた立派で由緒正しい道場なんじゃ!!!ソそれに加え、今まで我が流派に属してきたものが技を洗練するための神聖な場所でもある!!そんなこともわからないような糞ガキに教えることなど何もない!!出てゆけ!!』


『うっ…』


『第一、世の中で生きるための術なんて自分の身をもって知らないと意味ないじゃろ』


『………』


『ほれほれ、さっさと出てゆかんか』


『………でした』


『ん?なんじゃ?言いたいことがあるならはっきり言わんか』


『すいませんでした!!!!』


『お前さん、何か勘違いしてるんじゃないか?』


『え?』


『先ず儂に謝ること自体が間違っている。悪口を言われたのは儂ではない。この道場じゃ。』




ガキはハッとそのことに気づくと道場の看板に向かって深く礼をした




『す…』


『あとついでに言っとくとすいませんは謝罪の言葉じゃないぞ』


『っ!!……ごめんなさい…』


『はあ〜』




老人は深くため息をつき、ガキの側まで近づく。そしてガキの頭に手を置き、撫でながらこういった


『お前さんが苦しんでるのはよう分かるし、そのことについてお前さんを攻めようとする気もない。ただ、人生において他人を敬う心を忘れてはこの先、生きてはいけんぞ。』


『…はい』


『はあ〜しょうがないの〜』


『………』


『ほれ、顔を上げてそこにある竹刀を取ってこんか』


『え?』


『しょうがないから今回は特別に教えてやるわい』


『ありがとうございます!!』


『その代わり、文句言ったり、鍛錬を怠ったら次は無いと思んじゃぞ』


『はい!!』




ガキはすぐに竹刀を取って戻ってきた




『じゃあ先ずは右手は鍔のすぐ下、左手は柄頭を握り、柄頭をへその前あたりに置くんじゃ。


そのまままっすぐ振り上げて左手は額の少し上あたりにし、右手及び切っ先が左手より下がらないように頭上に刀を構え、右足で踏み込むと同時に鋭く息を吐いて振り下ろし、最初の構えで止めろ。


なお、常に足はかかとを紙一枚分浮かすようにしておくように。


べっちゃり地に付けて踏み込むと動きが鈍重になってしまうし、アキレス腱が切れることもあるからのう。


あとは基本的に刀は左手のみで保持し、右手は添えているだけにせい。


更に振り下ろす瞬間、止める瞬間、切り返す瞬間などだけ、右手でも強く握り、刀全体の力と速度を上げるように。』


『はい!!』






こうしてがきはガキはこの道場で武道を習い始めるのであった








____________________________________








…‥‥‥だったはず。


このガキというのは無論俺のことで当時は生活環境が荒れていたせいで軽い人間不信に陥っていた。


それをほぐしてくれたんだよな…ジジィやア・イ・ツ・、他にも色々な奴らが………


なんだか少し懐かしいな…………


そんなことを思い出しながらただ剣を振るう






「32……33…‥34…‥35…‥」






俺の声に合わせ、ブンッ…‥ブンッ…‥ブンッという剣を振り回す音が響く。


これをあと965回か……ダルいな〜


というか眠くなってきた…


あ〜やばい。本格的に…眠……い…………z


「ネクロ」


「z……ハッ!!お父様違いますからね?寝ながら素振りしてたわけではありませんからね?本当ですよ?」


「うん?寝てた?寝てたのか?」


「いえ、聞き間違いでしょう」


「ならいいが…」


「なんの御用でしょうか」


「実はな、お前が素振りしていたのをリリスに剣術を教えながら遠目から見ていたのだがな……」




いつもより真剣な顔で見てくる親父に対し少しだけ警戒してしまう




「……何かおかしいところでも?」


「いやその逆だ」


「え?」


「この三十年、色んな奴の素振りを見てきたがネクロのように筋がいいのは久しぶりに見たな。初めてでここまで出来るのは珍しい。」




そりゃあ前世で10年間やってたからな。師範レベルはともかく、流石にずぶの素人よりはいいだろ。




「もしかしたら騎士としても……?」




ん?この顔は良くないことを考えている顔では…?




「ネクロ」


「はい?」


「騎士学院と魔法学院どっちに行きたい?」




わ〜お。ド直球で聞いてきたよこの人!?つーかどっちも嫌だよ!!家でゴロゴロしてたいよ!!


親父……そんなキラキラした目で見ないでくれ……




「じ、自分は…」


「うんうん。ねくろは?」




口をあわあわさせるだけで言葉が出てこない




「そ、そうですね……自分は……」


「旦那様」


「ん?」




俺があわあわしている間に執事さんが親父を呼びに来た。


名前知らないけど執事さんグッジョブ!!




「どうした?」


「はっ、実はですね…お耳に入れておきたいことが…」




執事がここでは話せないので向こうで、ということを目で促す




「わかった。ネクロたちはもう鍛錬終わっていいよ」




よっしゃあああああ!!!!!!その言葉を待ってましたあああああ!!!!!寝よう!!二度寝じゃあああ!!!!!




「わかりました!!」


「………わかりました」


「なんかネクロいつもより元気じゃない?」


「そ、そんなことはご、ございませんよ」




やべえ。ついつい浮かれちまった。


にしても俺と比べ、リリス姉は随分テンション下がったな。




「そうかい。なら二人共また後でね」




そう言って親父は館の中に入っていった




よし!!寝るか!!と、思っていたのだがリリス姉がとんでもないことを言い出した




「…ネクロ」


「はい?」


「わ、」


「わ?」


「わた、」


「綿?」


「私と勝負しなさい!!!!!」




………………へ?ショウブ?






勝負とは勝ち負けを争うことである(w○ki参照)




何故、俺とリリス姉が?




「なんとか言いなさいよ!!」


「あの、何故です?」


「うるさいわね!!」


「いいから早くしなさいよ!!」


「それは少し横暴では?僕は理由もなしに争いたくはないんですが………」


「うっさいわね!!いいからこれは姉命令よ!!」


「ええ………」




というか、いくら男女とは言え三歳上の女子を相手にできる男子はいないだろ…


この姉の謎発言にネクロが頭を悩ませていると、とある人物の声が聞こえてきた




「お昼よ〜」




バスケットを持ったおふくろが昼食を知らせに中にはに出てきた。後ろにセリア姉、ケイル兄も出てきた。


今日は外で昼食をとるのかな?


まぁ、なんにしても助かった。リリス姉と勝負して手加減間違えて殺してしまったら寝覚めが悪いどころの話じゃあないし………




「チッ」




え!?舌打ちした!?リリス姉、どんだけ俺と勝負してたんだよ!!あれか!?どっかのバトルジャンキーなのか!?




「リ、リリス姉様?お母様も来られたようですし、一旦休憩しましょう」


「そんなこと分かっているわよ!!」




お〜怖っ!!頼むから睨まないでくれ……


だが、おふくろ達が来るにつれて般若のようだった顔が見る見る内に年相応の少女の顔に戻っていく。


こ、この子…恐ろしい子!!




「どお〜?鍛錬の調子は〜?」


「はい!!ばっちりです!!」




調子いいな、おい!!




「そお〜、良かったわ〜、ネクロは〜?」


「まぁ…それなりに…」


「そお〜、二人共頑張ってね〜」


「はい!!」


「…はい…」




正直やっぱり寝てたいんだけど……




「みんな〜お昼にしましょ〜」


「「「「はーい」」」」




おふくろが持ってきたバスケットに入っていたのはあの人気チェーン店SU◯WAYで出てくるようなサンドイッチだった。




「好きなの〜選んで〜」




俺が取ったのはパンの間に燻製肉、トマト、レタス、玉ねぎに似た野菜が入っているものだった。


試しに一口食べてみると…………




「う、うまい…」




な、何だこれは…燻製肉が重厚な旨味を出していながらもそれを野菜たちがしっかり包み込み、決してくどくなりすぎないようにしている……


食感もパンのふんわり感やレタスのシャキシャキした歯ごたえ……まるで外国のいいホテルでサンドイッチを頼んだときみたいじゃないか………日本のとはまるで違う…


あ、そういえばここ異世界だった。


俺以外の兄弟達も美味しそうにサンドイッチを頬張っている。




俺達が昼食を楽しんでいると一人のメイドが屋敷から出てきた。そのままおふくろに近づいていき、そっと耳打ちした


「…………」


「そお〜、大変ね〜……」




一体何があると言うのだろう?




「分かったわ。直ぐに馬車を手配して」


「は、かしこまりました」




おふくろはいつものおっとりした口調ではなくキリッとした口調でメイドに命令した。


え!?誰この人!?俺の知ってるおふくろじゃない!!いつもはもっと天然っぽいのに今は完全に仕事できる人の顔だよ!?




「え?お、お母様…?」


「な〜に〜?」




うお、元に戻った!!




「い、一体何があったんですか?」


「う〜ん?……」


「……?」


「秘密よ」




おふくろは妖しい笑みを浮かべ、からかうようにはなしを逸らかす。


ハッ!!!!


そこで先程までのリリス姉を思い出す。


この親にしてこの子ありか!!!!!


親共々恐ろしい子!!!!




「え〜と〜それでね〜」


「はい?」


「明日からユリウスと一緒にしばらく遠出しないといけなくなったから〜あなた達は〜お留守番しててね〜」


「「「え!?」」」




このことに驚いたのは俺だけではなかった




「え!?お、お母様!?私、あと三日で王都に戻るのですけど!?」


「そ、そうですよ!!僕も戻らないといけないんですよ!?」




そうか。セリア姉や、ケイル兄は10歳過ぎてるから、王都の魔術学院に入ったんだっけ。


魔術学院では、基本的に学生寮ぐらしなので、ここみたいな辺境地に帰ってこれるのは長期休暇ぐらいしかないってことか。




「ごめんね〜。急に用事が入ちゃって〜今度別の形で甘やかしてあげるからね〜」


「奥様。そろそろ……」


「わかっています。先に行ってて頂戴」


「かしこまりました」




うわ!!また出た!!仕事人の顔だよ……




「じゃあ〜みんな〜行ってくるからね〜」


「「「「いってらっしゃい(ませ)(!!)」」」」




おふくろは馬車に乗り、窓から身を乗り出して手を振りながら出ていった


いや、危ないからちゃんと中に入れよ。事故ったらどうするんだよ。






___________________






おふくろが出ていき子供達と使用人だけになった中庭……




「ネ〜ク〜ロ〜?」




あ、やばい。そういや勝負してとかなんとか言ってましたな〜………


逃げるか……でもどうやって?


あっちは獲物を前にした獣の目でこっちを見てくるし……




「どうしたの?」


「セリア姉様!!ちょっと聞いてよ!!ネクロが私と模擬戦してくれない!!」


セリア姉、グッジョブ!!


このすきに……




「それはダメですね。紳士たるもの、少女レディの誘いは受けなくてはいけません」


「そうでしょ!!ケイル兄様!!ネクロにも言って……やっ……て…………よ…?あ…れ…?いない?」






_______________








リリス姉達が目を離したすきに、俺は近くの森に入ってなんとか逃げ出せた。


すぐ後ろから「ネ゛〜〜〜〜〜〜ク゛〜〜〜〜〜〜ロ゛〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」っと聞こえてきたがきっと気のせいだろう。俺の知り合いに青いネズミのフードを被って、だみ声で話す黄色い猫はいなかったはずだ。




この後、なにすっかな〜


ん〜〜〜、とりあえず森のなかで安全に寝れるような所を作りたいな〜


あの屋敷、ベッドなんかはいいんだけど家族や使用人の目があるからゆっくりとは寝れないんだけどな〜


まぁそれでも一日に最低十時間は寝てるけど


とすると、勿論こんな異世界にホームセンターがあるわけないし、領民に貰うのは色々と不味いから木材を入手するのは今の所一つしかない。いや、ホームセンターはあるのかもしれないけど……


何より今は目の前にこんなに木が生えてるからね………


さて、さて、さ〜て?どう加工しよっかな〜






しばらく考えた後……




「よし、あの手で行くか」




ネクロは珍しく(少し意識はまだねているが)やる気になっていた

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