水着の王子様
「ほおぉー……」
私は自分でも分かるぐらいに呆けた声を上げていた。
夏休み。私達は事前に約束したようにアレックスの言う王家の別荘に来ていた。
来たのだが――
「島にあるとは聞いていたけど……なるほど、島まるごと所有地とはさすが王家だ……」
スケールのデカさに、私は少し面を喰らってしまった。
だって島ごとなんて、まるで漫画の世界のお金持ちじゃないか。
……と、そういえば漫画の世界だったね、ここ。
「ふふふ、レイが感動してくれてなによりだよ」
アレックスは楽しそうに言う。
「ほえー……」
一方で、私と同じく驚きで口をポカンと開けているのがいた。
アレクシアだ。
「すごー……」
「アレクシア、語彙が消失してるよ……」
「……はっ!」
あまりに感動してまっていたのか、彼女は私の言葉でやっとこちらの世界に帰ってきたようだった。
「ご、ごめんなさい! なんていうか、アレックス皇子が本物の皇子様なの久々に思い出したって言うか……!」
「……やれやれ、ひどい言われようだね」
あ、若干傷ついている。
こういうところはわりと繊細なんだよねアレックスって……
「ま、まあまあ! いいじゃないそこら辺は! ところでどういうここ島なんですかアレックス皇子?」
そこで軌道修正のためにクレアが言う。
ありがとうクレア。
「ああ、この島は大昔に帝国が領地としていたんだけど、今はその由来もわからないぐらいに誰も訪れなくなった島でね。一応別荘はあって手入れはしているけど、実際にこうして別荘として利用するのは久々なんだ」
「へぇ。面白い島なんですね」
ダグラスが返す。
確かに面白い由来の島だ。私の中の好奇心がくすぐられるのを感じる。
「……どうでもいいから別荘行こうぜ。ちょっとした船旅で疲れた」
気だるそうにノエルが言う。
どうにも彼は船が合わないらしく、海岸からこの島のちょっとした距離の移動で気分を悪くしたようだった。
「そうだね。それじゃあ別荘に行って、お互いの部屋を決めて、そしてご飯を食べた後に海でみんなで遊ぼう」
私はノエルに呼応したように言う。
そのときに彼を見たが、再びぷいと顔をそむけられたのだった。
「レイ様……お美しいです!」
クレアの興奮した賛辞が私に飛ぶ。
私達は港から少し小高い山道を登り、森の中にあるアレックスの別荘へと着くと、そこでさっそく海で楽しもうということになった。
そしてそのために、別荘に荷物を置いて、島の海岸線にある更衣室で水着に着替えることになった。
そして私達は女子同士で更衣室に入り、お互い着替えることになったのだが……。
「むぅ……そんな綺麗だろうか。私よりもクレアやアレクシアの方が綺麗だと思うが」
私から見たら、水着姿はクレアやアレクシアのほうが様になっている。
クレアは青い縞々の水着で、普段は服で隠れている彼女の豊満なボディを強調している。
アレクシアの水着の色は純白で、清楚な彼女のイメージに似合っているし、一方で紐によって各部を止める彼女にはそぐわない大胆なデザインが逆に魅力を引き出している。
それに比べて私は布面積の大きい黒い水着だ。
胸も下半身も大きく隠しているこの水着は、元の世界におけるスポーツインナーのようだった。
そこに色気などはないように思えるのだが……。
「そんなことないよ! レイの銀髪に白肌とその黒い水着がコントラストでいい感じになってるよ! それにレイ、スタイルいいからその水着なんだかとても似合ってる!」
アレクシアが笑顔で私にそう言ってくれる。
「そ、そうかな……?」
「そうですよ! お美しく、そして凛々しいです!」
クレアが言う。
私は彼女らの言葉に顔が紅潮するのを感じる。
思えば昔の私はスポーツ一直線でこうやって友達と海に遊びに来てお互いの姿を褒め合うなんてことは稀だった。
ある意味、こういうのも青春を取り戻しているって言えるんだろうか……?
「さ、行きましょうレイ様! アレクシア! これで男子達を悩殺しに行きましょう!」
「悩殺って……」
私とアレクシアは苦笑いしながら先頭を切るクレアについていく。
そして私達はそのまま砂浜へと向かい先に待っている男性陣の元へと向かった。
「どうもーみんな! 待たせてごめん!」
砂浜でたむろしている男子達にアレクシアが最初に声をかけた。
「おお、みんな! とてもきれいだね!」
それに答えてくれたのはアレックスだ。
彼らはみなそれぞれ髪色と同じ――アレックスは黄色、ダグラスは茶色、ノエルは白――なサーフパンツタイプの水着を着ている。
……しかし今更ながら、ファンタジーの世界なのに水着の種類が豊富である。
さすが漫画の世界だ。
「お嬢様……お美しい……」
ダグラスはまっさきに私に声をかけてくれた。
その褒め言葉に、私は再び顔を赤くする。
「いや、ダグラスも似合っているよ……」
私は彼を見ながら言う。彼の引き締まった体をこうしてまじまじと見るのは初めてだ。
ダグラスだけじゃなく、アレックスもノエルも体が整っており、男性的な魅力に溢れている。
「…………」
私がノエルの方向を見ると、またも彼は私から顔を反らした。
……なんだろう。なんだか少し気に入らない。
別にいいじゃないか。こういう場くらい。
「それじゃあさっそくみんなで遊びましょう! 何をしますか? レイ様!」
「えっ?」
そんな私にクレアが言う。突然振られた私は若干動揺しながらも男性陣を見る。
「こういうときは、男に甲斐性を見せてもらいたいな」
笑顔で彼らに振った。
「ふーむ、そうだね……」
そうするとアレックスが考え込み、そして、
「じゃあ、ビーチバレーとか……あ、でもこれは二対ニだからだめか」
「いや、三対三ですればいいじゃないですか」
そう返したのはダグラスだ。
確かに、ガチガチのルールでやる必要はない。それはいい案だと思った私だった。
だが、
「いや、俺は少しここでゆっくりしている。お前達は楽しんでくれ」
ノエルがつれない態度で言った。
「ええーノエルーノリが悪いよー。ノエルなのにー。それに奇数になっちゃうじゃんー」
クレアが口を膨らませて言う。
そこで私は思いついた。
「ああ、じゃあ私もみんながビーチバレーをするのを眺めてようかな。それで、後からノエルと参加する。それでいいんじゃないのかい?」
「おいお前何を勝手に――」
「――うん、それいいね! じゃあそれで決定!」
私の言葉に反論しようとしたノエルの言葉を、アレクシアが強引に遮った。
そして彼女は、こっそりと琥珀色の瞳を赤い髪の間から私に向かって片方瞬かせる。
どうやら、自然と私の意を汲んでくれたらしい。さすが主人公だ。
「よし、じゃあそうしようか。ダグラス、一緒に砂浜に線を引くのを手伝ってくれ」
「おい……!」
アレックスもそれに追随して言う。ノエルの言葉は無視してだ。
彼もどうやらなんとなく雰囲気を察してくれたらしい。こういうとき、彼女らは頼りになる。
そうしてビーチバレーの準備は進み、四人は早速始める。
私とノエルは、少し離れた位置に挿してあった日傘の下に並んで座り、その方向に視線を向けた。
「はははっ! それっ!」
「うおっ!? くっ、女子チームなかなかやるっ……!」
「…………」
「…………」
男子チーム対女子チームに分かれて戦う四人を、私達は無言で眺める。
その沈黙は若干の気まずさを持っていた。
「……ねぇノエル」
だからこそ、私から話しかけた。
「……なんだ」
「私のこと避けてるよね?」
不機嫌そうに応えるノエルに言う。
「…………」
「この前の体育祭のことをまだ引きずってるのかい? まったく、かわいい一面もあったものだね」
「……なんだと?」
「おっ、やっとこっちを見たね」
「……それは」
ノエルが言葉に詰まる。私はそれを好機と見て、ずいと彼に顔を近づける。
「いいかい。私はそういううじうじとしたのは好きじゃない。普段の君は、最初にあったときの君は、私を窮地から救ってくれたときの君はもっと格好良かったはずだ。だから、もっと凛々しくいてくれたまえ。そうじゃないと……がっかりだ」
「…………」
私は真剣に彼を見つめ言う。
それにわずかに沈黙したノエルだったが――
「……そうだな。ここ最近、確かに俺らしくなかった」
彼はふっと笑って言った。
「あんまり女のああいう姿見たことなかったから、ちょっと面食らっちまってたのは確かだ。だが、いつまでもこうしてるなんてそれこそ女々しい。悪かったよ、レイ」
「ノエル……」
「それに、お前の肌を見たのはもうこれでみんなだ。だから、俺一人恥ずかしがる必要もないってわけだ」
「ふふ、そうだね」
私達は笑い合う。そして、一緒に立ち上がって傘の外に出た。
「よし、じゃあ一汗かきに行くか」
「そうだね。おーい! 私達も混ぜてくれ!」
そうして私達はビーチバレーに参加した。同じチームとして。
結果、私達は両チームに勝ち、いつの間にか始まっていた総当たり戦で一番の成績を収めたのだった。
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