体育祭:後片付け
楽しい祭りもいつしか終わりがくる。日もくれてきて、体育祭は閉会式を迎えた。
学年一位の成績を残した私達のクラスは表彰され、大きなトロフィーを貰うことになった。
代表として受け取ったのは私だ。最初は遠慮したのだが、一番体育祭を楽しみにしていた私が受け取るほうがいいというのがクラスの総意だった。
そうして受け取った大きなトロフィーを一旦クラスに運ぶと、私はすでに始まっていた後片付けに参加することにした。
「あ、レイ様? レイ様は休んでていいんですよ?」
私が片付けを手伝おうとすると、クラスの女子が私にそう言ってきた。
だが私は笑って首を振る。
「いや、私が手伝いたいんだ。こういうのは片付けも楽しいからね」
「なるほど! さすがレイ様です!」
なんだか妙に感心されてしまったが、まあいいだろう。
私は身近にある道具をテキパキとひとまとめにしていく。
ちぎれたテープや、三角コーン。ライン引きなどを運んでいく。
……なんだか妙に前世にあったものが多いが、まああまりガチガチとしたファンタジーの世界ではないし、そういうものだろう。
ある程度簡単なものを運んでまとめ終えると、今度はそれを倉庫へと運んでいく。
小さいものから少しずつ運んでいき、だんだんと大きなものへとしていく。
そうして、ある程度運んでいき、私は今度は大きなポールに手を伸ばす。
「おおっと……」
これがわりと重たくて、私は少しバランスを崩しそうになる。
「おい、あぶねぇぞ」
と、そのとき、私の背中を支えてくれる手があった。
それは、ノエルの手だった。
「ああ、ありがとうノエル」
「ったく、なんでも一人でやろうとするなよな。ほれ、手伝ってやるから端持て」
「ああ、うん」
私は素直にノエルの言葉に従い、ポールの端を持つ。
そしてノエルが反対側のポールの端を持ち、二人で運ぶ。
そうして私とノエルは、ポールを持って倉庫へと入った。
「えっと……この辺でいいかな?」
「いいんじゃねぇの。てかどこでもいいだろ別に」
「いや、そういうわけにはいかないよ……と、ここがいいな」
私はノエルに指示し、一緒にポールを倉庫の奥に置く。
「よし、こんなものかな」
「ああ、だいたいは運んだか?」
「そうだね。ありがとうノエル。助かったよ」
「別に。ただの気まぐれだ。気にすんな」
「それでも、だよ」
私はそう言ってノエルに笑いかける。ノエルはそんな私を軽く流し見する程度だった。
「よし、それじゃあそろそろ戻ろうか」
と、私はそんなノエルに苦笑いしつつ、倉庫を出ようとした。
そのときだった。
――ビリビリビリっ!
「……え?」
服が何か尖ったものに引っかかっていたのか、動き出した瞬間勢いよく引きちぎれ、下着に覆われた胸の部分が露わになったのだ。
「……こ、これは……」
「ん? って、おおおおおおっ!?」
ノエルがそんな私を見て珍しく大声を上げる。
一方私はどうしていいか分からず、とりあえず苦笑を浮かべた。
「は、ははは……」
「笑ってる場合かバカ! 今すぐ隠せ!」
「う、うん……!」
私は咄嗟に胸を両手で隠す。ノエルは顔を真っ赤にし、私を見ないようにと私とは反対側の方を向いていた。
「これは……どうしようか……」
「どうしようもねぇよ! と、とにかく――」
と、そのときだった。
「ねー、それでねー」
「うんうん」
「っ!?」
倉庫の外から、倉庫の近くに向かって歩いてくる女子生徒の声が聞こえたのだ。私は咄嗟に、まずい、と思った。
「ノ、ノエルっ! こっち!」
「え? おおっ!?」
私は瞬時にノエルを抱き寄せ、倉庫の奥の物陰に隠れる。
「えーそれってマジー?」
「ははは、マジマジー」
「…………」
「…………」
私とノエルはじっと息を潜めて女子生徒達が通り過ぎるのを待つ。
どうにか私達の事は気づかれずに済んだのか、女子生徒達は何事もなくおしゃべりをして倉庫の前を去っていった。
「……いいかな」
「あ、ああ……」
そうして、私はノエルを抱き寄せていた腕を離す。
「良かった……」
「いや良かったじゃねぇよ!? お前突然何すんだ!?」
「何するんだって、しょうがないじゃないか。だってあの状況を見られてごらん? ノエル、君にあらぬ疑いがかかる可能性は高かったよ」
「そ、それは……」
「噂というものは面倒なものだ。私が否定しても、どうしても広まってしまうだろう。それを回避するには、しかたなくああする必要があったんだ」
「な、なるほど……でもよ……」
ノエルは顔を真っ赤にし、私から目をそらしながら言う。
「その……抱き寄せられたときに、胸が……」
「え? あ、ああ……!?」
私は言われて気づく。そうか、抱き寄せたときに私の胸がノエルの体に……
うぅ、改めて考えると少し恥ずかしくなってきた……!
私は再び腕で胸を隠す。
「そ、そのだね! 私は別にそういった意図で君を抱き寄せたのではなく、あくまでそう、お互いのためにだ……!」
「わ、わかってるっつーの……いいから、これでも着てちょっと前隠せ!」
そう言ってノエルが渡してきたのは彼の上着だった。結果的にノエルはシャツ姿になる。
「……いいのかい?」
「しょうがないだろ、それしか打開策がねーんだから……」
「そ、それもそうだね……」
私は言われたまま、破れた服を脱ぎ、彼の服を着る。
その最中、ノエルはずっと私の着替えを見ないようにそっぽを向いていた。
「……着替えたよ」
「お、おう……」
ノエルに合図をすると、彼はこちらを向く。だが、やはり彼の顔はまだ赤らんでいた。
「と、とりあえず出ようか」
「そ、そうだな」
私達は不自然に上ずった声で話しながら倉庫を出る。そして、私達はなるべく早足で自分の部屋へと戻り、新しい服に交換した。
その途中、彼の服からする彼の男らしい匂いが私の鼻孔をくすぐっていたのであった……
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