豚猫
じ~じ
第1話 茶虎
家の外には「ちび」がいる
不妊手術をしていない、感染症の予防接種もしていない老猫である
今では社会から、非難を浴びるのだが、今も庭猫「ちび」がいる
米蔵のある土蔵や土間の鼠から、生活を守る猫は、農家の家族だった
「ちび」の故郷は名古屋だ
ある日お姉ちゃんが名古屋の大学生活の最中に電車に隠して連れてきた「サビ猫」である。
今では何度も死にそうになったり、流産を繰り替えしながら日向ぼっこをしている。
「ちび」がまだ来たばかりのころ、3匹の子猫を出産した
1匹の雌猫と3匹の雄猫である
雌猫は三か月も経たない間に縄張りとしている雄猫に食い殺されてしまっていた。
三匹の雄猫も二匹は独り立ちして、家を離れていったのだが
一匹の茶虎は生まれて一年半になっても、母より大きくなっても未だ
「ちび」のおっぱいをねだっては吸い付いているのである。
そのころには既に「ちび」には新しい命が誕生しているにもかかわらず
茶虎は妹、弟に混じって、「ちび」のおっぱいをねだっていた。
ある日
見かねた私は、三十分ほど離れた、田んぼに仕事に行く軽トラックに
茶虎を乗せ、リンゴ畑、桃の畑が開ける川中島の田んぼの畔に生まれて一年半の「茶虎」オスを放した。
その後何年、茶虎を田んぼに捨てに行った事も忘れていた。
八・九年年経った日のことである
川中島の田んぼで、稲を刈って「はぜ掛け」を始めた時だった
畦道を「みゃ~、みゃ~」と絶えず鳴きながら、私の足元に
見たこともない程筋肉が付いた豚猫が、纏わりついてきたのだ。
稲刈りの一週間毎日昼休みには挨拶に来るのである
昼休みの間、「みゃ~、みゃ~」を欠かさない
野良猫の茶虎は抱き上げたら一才児と変わらない程
筋肉質のデブ猫で
のらの雄猫とは思えない人懐っこさだ
茶虎の口の右側の髭元に黒いアザ模様が有った。
二週間空いた稲こきが始まっても、豚猫の挨拶は続いた
八・九年前に捨てた、茶虎だと気づいたのは
農作業が終わる秋の終わり、携帯の写真をスクロールした時だった
古い写真の中に右側の髭元に黒いアザのある茶虎が
偶然現れたからだ。
豚猫は稲こきが終わった日から
挨拶には一度も来ない。
筋肉質の抱き心地は今でも腕に感じている。
老猫の豚猫は川中島で生きていたのだった。
豚猫 じ~じ @mune_gg
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