悪香高き者達


「フハハ!何とは不敬よな、そこな小娘!だが良い!!いずれ世界を統べし未来の王の名!知らずして生を貪ることこそ不敬よ!その名、心して聞くが良い!」


これはヤバい人達だわ。

彼らの名乗りを聞き流しながらアリスは思った。彼らに関わっちゃ不味いと。だからアリスは隣でマリーが「またコイツらか…、」と項垂れたのには驚きしかなかった。マリーがこんな奇妙奇天烈珍妙な連中と顔見知りだったとは…、



それは、そいつらは、ロビンとの知恵較べを終え、小道の脇の開けた木陰でお弁当を広げゆっくりと昼食を楽しんでいたアリス達の前に現れた。現れた…、地面から突然に。急にグラグラと辺りが揺れたかと思うと地面が裂け、地中から巨大な岩塊が、ゴーレムが姿を現したのだ。ずんぐりとした鈍色に輝く重厚な鋼の巨体は安全第一と書かれた黄色の、どう考えてもその体を覆う装甲より確実に強度のなさそうなヘルメットを頭にのせ、他にやりようがなかったのかと聞きたくなるが、シャベル一本で地面を掘り抜いてきたのだ。少なくともその両肩で唸りを上げるドリルは掘削のためだろうに恐らくは使われなかったのだ。


だからアリスの口から「何あれ…」と疑問が漏れるのも自然なことだ。それに対して先の口上である。


「そう!我こそがこの世界の覇たる者!ヴァイゼ様だ!」


ビシィッ!


ポーズをきめたのだろう。


「ヴァイゼ〜、コックピット開けないとポーズ決めても見えないよ?」


何せアリス達にはそのゴーレムの中の様子は見えないのだ。分かるのは声だけ。


「うそ?!これガラスじゃないの、ソムニア?!」


「うん。ちょー薄型モニターと高精度センサー、じっそー。」


「それ、普通にすごいな。まぁいいや。それよりもだ…、」


咳払いを1つ。僅かな沈黙でためを作り…、バアンと爆音と共にゴーレムの顔面部分の装甲が弾け飛ぶ。そして硝煙の中のコックピットから人影がポーズを決める。


「フハハ!名乗りが遅れたな!まあ良い許せ!何故なr…


バアン!


フタがされた。弾け飛んだのと同じ速度で。ゴーレムの頭部に装甲が舞い戻り元の位置へ収まったのだ。


「じどーしゅーふく、常時じっそー。」


「くそ…。ソムニア…、コックピットを開けてくれる?」


「うぃ。それよりヴァイゼ、マイクつけっぱ。いこーる全部筒抜け。」


「え?マジかぁ…。」


その打ちひしがれたため息と共に自動修復がなされたコックピットが煙をあげて開かれる。


「あー。フレグランツ、参謀担当ヴァイゼ。」


テンションだだ下がり、先の威勢の良さは見る影も無くなった男がゆっくりコックピットから降りる。ダークスーツに身を包み背には妖精特有の、だがしかしその妖精が善性を失ったことを示すした羽根が覗く。


「私はソムニアだよー。あ、で、こっちはファミルス。よろしくねー。」


未だコックピットに残ったままの少女が呑気に膝に載せた小熊のような、謎の魔法生物の手を持ってアリス達に向けて振る。それに合わせてふわふわと揺れる黒髪の間からは巻角が覗く。黒羊の獣人だ。


「おい花の魔術師。おれは今、虫の居所が悪い。要求は分かってるだろ。さっさと投降しろ。」


その言葉に残念なものを見るようだった視線は今度はマリーに集まる。「え?アレやっぱり知り合いなの?」と。マリーは深くため息をついてヤレヤレと首を振る。


「アイツら私のストーカー。ちょっと待っててね、今パパッと片付けるから。」


そう言い切らないうちにマリーの姿はふわりと花びらに包まれ消えていた。転移の魔法。ヴァイゼの死角へと現れたマリーは杖を振り抜くが、突如出現した鋼の盾に阻まれ大きな金属音を響かせる。その盾の向こう、白い髪の間から覗くヴァイゼの緑の眼光からは先程までの間抜けな空気などいつの間にか消えていた。


「自動障壁。お前の転移魔法を感知してオートで盾を展開。これは確かに役に立つな。」


ヴァイゼは拳を構えると魔力を纏わせ、一旦距離をあけるため退いているマリーを静かに見据える。


「次はこちらから行かせて貰う!」


爆風が巻き起こる。足に風の魔法を纏わせ放出したヴァイゼは一瞬にしてマリーとの距離を詰める。そしてすぐさまその爆風を拳へと収束させマリーへと襲いかかる、


「喰らぺげっ?!」


ことはなかった。それよりも先にヴァイゼの顔面にが襲いかかった。ピンと、マリーが弾いた小石をヴァイゼの眼前へと転移させただけである。勿論そのだけだ。涙目でぼたぼたと垂れる鼻血をおさえながらよろよろとするヴァイゼにマリーは容赦なく花びらをナイフのように飛ばし攻撃を仕掛ける。それに対しヴァイゼは鼻をおさえながらも空いてる方の手に炎を纏わせ、マリーの攻撃を迎撃し弾き飛ばす。そしてマリーの花びらを全て撃ち落としたヴァイゼは天に手を突き上げ、纏っていた炎の形を変化させる。5つに分かたれた炎は細く鋭く…、炎槍。その手をマリーに向かって振り降ろすと炎の槍はマリーに次々と襲いかかり、マリーの周囲を凄まじい爆音と共に炎が包む。


「マリー!!」


アリスは不安気な声を上げる。徐々に晴れていく土煙の見守るとやがて1つの影の姿が見え始める。


「いやー、これ便利ね。自動障壁。」


そう言うマリーの前には鋼の盾が展開されていた。まるでヴァイゼのそれと同じような。何事もなかったかのようにマリーが不敵に笑う。


「…っ?!お前、何をしやがった!」


ヴァイゼは叫ぶと、サイドスローのように腕をスイングさせ今度は雷の魔弾を撃ち放つ。


「何って、まあさ…、」


ピンと。再び舞うは小石だ。転移の魔法。それに反応してオートで展開する障壁はマリーの意のままに雷の魔弾を阻む。


「あー、なるほど。欠陥品じゃないか、これ。ならスイッチオフと。」


敵の自由に使われてはたまらない。ヴァイゼは銀の腕輪を操作してそんなことを呟く。直後、ヴァイゼの顔面に回し蹴りがめり込む。マリーの容赦ない不意打ち。障壁を停止させたためにマリーの転移の魔法を阻むものは無くなっていた。憐れヴァイゼ、錐揉み回転して吹き飛び近くの木に大の字に打ち付けられる。


「ぐふぁ…、な、中々やるではないか花の魔術師…。だが戦いに敗れようとも目的を達成させてこそのフレグランツよ…!」


ふらふらとヴァイゼは立ち上がると未だ消えずにある不穏な光を瞳に宿し口の端を吊り上げる。


「キャーー!!何これぇっ?!」


突然のアリスの悲鳴。叫び声にマリーが振り向くと縛られたアリスが縄のようなものに引っ張られ、ゴーレムの手に吸い込まれるようにして捕えられる。ゴーレムの手にはご丁寧にクッションが用意されアリスを優しく受け止めるとそのクッションごとグルグル巻に縛り身動きの取れないミノムシ状態にしてしまう。


「しまったわ!!この!アリスを放しなさい!」


マリーはゴーレムに向けて両手を突き出して構えをとると、両手の先に花びらが激しく舞い踊る。百花繚乱の花嵐。マリーの最大の攻撃魔法がゴーレムの胴体に突き刺さる。


「ふふん、甘いね。安心安全のクラッシャブル機構とーさい。」


そんなことを言いながらソムニアはファミルスを連れてゴーレムからそそくさと脱出すると、マリーの魔法を喰らったゴーレムは爆音と共に予想以上に簡単にくずおれる。当然だ。、機体がわざと損壊するように設計することで、衝撃から搭乗者を守る仕組み。壊れてなんぼの技術、つまりは紙装甲ゴーレム。


「そしてこんな時の緊急脱出装置はこう使うの。緊急脱出アターーック!」


ソムニアがポチッと手持ちのリモコンのボタンを押す。緊急時にし、乗組員を避難させるその装置は、つまりはマリー達のいる


「な!あんたバカじゃないのっ?!」


マリーは慌てて杖を地面に突き刺し、木々の防壁を築く。直後、無人の運転席が砲弾のように襲いかかり爆発する。その爆発の凄まじさたるや彼らは空中で花火になるつもりだったのかと言いたくなるような、確実に火薬搭載の火力であった。最後にはゴーレム本体までそこにダイビングし誘爆を引き起こす。その悪ふざけのような攻撃が収まる頃にはフラグメンツの3人はアリスを連れ、とうに姿を消していた。

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