旅人の回答


「誰でもない人を探す…?」


「あぁ、そうさ!」


アリスの問いにロビンが大仰に手を振り上げる。


「例えば。もちろん、そんな奴さぁ!」


まるで水で満たした空のグラスでワインを飲めというような、点であべこべで無茶苦茶な問いだった。理不尽な難題にギルは顔を顰めるがロビンは気にした風でもなく道標の上で器用に寝そべって帽子を指の先でクルクル回して遊ぶ。


「なんだよそりゃ。そんなの誰でもねぇじゃねぇか。お前ふざけてんのか?!」


「いやはやおやはや、それはまあそれはそうだろうさ!オレは至って真面目に妖精らしくしてるだけだぜ?あんた妖精のtail尻尾tale作り話になっちまったって知らねぇのかい?」


嬉しそうに口笛を吹くロビンにギルは「奴の思う壺だったか」とうんざりした顔をする。意味の無い抗議など諦めてギルは静かに問題を考えることにした。それからもアリス達は頭を痛めて考え込むが中々良い案は出てこなかった。


「うーん、アリスだったら人を探す時どうするです…?」


頭から煙を上げそうになりながら考え込んでいたレーシーがアリスに助けを求める。だが勿論アリスも分からず適当で曖昧な答えを返すしかなかった。


「えーと、私なら、、、あ!そうだ!ほら人に聞いてみるとかどうかしら?!知ってる人を探し出せば見つかるんじゃないかしら?」


アリスの思い付きはギルが苦々しそうに否定した、ロビンにわざわざ確認するのはうんざりだと言うのが滲み出るように。


「それじゃ無理だ…。結局その知ってる奴を探し出せねぇ。」


ただ否定はしたもののギルにも良いアイデアなど無く首を振る。そして次に声を上げたのはカルーだった。


「あっ!せや、そないな奴、ってのはどうや??ほら、シューレン・ニクマーヴェルならそないな奴がおるかもしれへんってやろ?」


「お!その可能性さえあるならシルさんが夢見で見つけれるんじゃねぇか?!」


それらしい答えにギルは振り向くが、その先ではロビンが腹を抱えて笑っていた。不正解か。思わずギルは舌打ちをしてしまう。


「いやー、中々愉快だぜあんたら?ま、そんな方法がまかり通るんなら世界中のクイズなんて法螺話の男チャック・ノリスにでも任せちまえばいいさ!妖精の問題を真面目に考えてちゃ解けやしねぇよ」


「ふふ。でも、なんでしょう?」


マリーだった。その突然の指摘にロビンは一瞬凍りく。少なくともそう見えた。


「ね?そうでしょ?だって私達の目的はだものね?」


マリーの言わんとすることが分からずアリスは首を傾げ


「え?どういうことマリー?」


と尋ねる。マリーは少しだけ勿体ぶったような、そしてロビンに意地悪でもするかのようにニヤニヤして言う。


「ん?やっぱり気付いてない?のよ。そうよね?」


マリーの言葉にロビンが悔しげに歯噛みする。まるでその沈黙こそ是と言わんばかりの様子にギルが声を荒らげる。


「どういうことだ!そもそも勝ち目のない勝負だったってことかっ?!」


今にも殴り掛かりそうな…、と言う程でもないが、興奮気味なギルをマリーが窘める。


「まーまー、そんな筈ないでしょ。だって妖精こいつには女王ティターニアの誓いがあるもの。

ただ問題だったのはこいつが『オレとの勝負に勝てば力になる。勝負の内容はオレがあんたらに質問をして、それに正しく答えられたんならオレはシューレンの居場所をあんたらに教える。』って言っただけってことよ。

ま!問題が解けたらシューレンの居場所を教えるってだけで一言もだなんて言ってないものね?」


「えっと、つまりが勝負だったわけです…?」


「そ。それにそもそもあんたんじゃない?」


全てお見通しとばかりに得意気なマリーにロビンはようやく観念する。


「チッ。なんだよそこまで分かってんのかい。そうだよ、そう!オレは問題の答えを用意してねぇし、シューレンの居場所なんてもんも知らねぇ。そこまで見破られたんならオレの負けだ。」


「え?でも勝ったら居場所を教えてくれるって…、」


未だアリス以下4人は首を傾げるばかりだ。ロビンはため息一つつくと種明かしをしていく。


「いいや。そんなことは言ってねぇ。って言ったんだ。いいか?シューレンみてぇな奴は。妖精の問いと同じさ。からな。だから。少なくともそう思わなきゃなんねぇ。そこでオレの出番。道案内の妖精との勝負に勝てたんなら、だろう?ま、ってことさ!」


「っていうのがコイツの考えで…、」


得意気に終えた筈のロビンの説明をマリーがさも当たり前のように引き継ぎ、それにロビンがぎょっとする。そしてアリスにもマリーの口元に意地悪な笑みが広がっていくのが分かった。


「でもそれじゃあじゃない?ほら、だからもっとなら手伝うしかないわよね?」


「な!あんた何言ってやがる?!オレはシューレンの手掛かりなんて…、」


のよ。情報だけじゃなくて、便じゃない?それにほら、それはとってもないかしら?」


屈託のない小悪魔が笑う。どうやら屁理屈に言葉尻をこねくり回したようなこの言葉遊びはとっくにマリーのペースだったようだ。


「チッ、そういうことかよ。裏を掻かれただけじゃなくて墓穴まで掘っちまってたとはなぁ…。しょうがねぇ、今の手持ちじゃあこのランタンくらいしか思い付かねぇわ。」


ロビンがそう言って妖精のポーチから取り出したのは古びたランタンだった。そのガラスの筒の中ではふわふわと─ただ炎ではなく─柔らかな光の玉が浮いていた。


「これは妖精の光を灯すランタンだ。普通の火よりも目に見えない魔法とかをよく照らし出す。大事に使え。恐らくだろうさ。」


ランタンをマリーに手渡したロビンは「せいぜい上手につかうんだな」と言い残すと道標の上から飛び降りると地面に着くかという頃、バツンと音を立てて、そのまま消えてしまった。

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