妖精の問答
「どうだい、あんたら?勝負してみる気はあるかい」
小道の脇の道標に腰掛けて
「生憎道には迷ってないし別にいいわ」
一言で切って捨てた。たったそれだけで小生意気な妖精には目もくれずマリーは小川沿いの小道をそのまま進もうとする。
「いやいやいや待てよ!そう言うこっちゃねーんだよ。ってか迷え!な?ほら、よく考えろてみろよ!本来こんな所に岐れ路なんてねぇ筈だろ?!」
「まあ、ほんと!?それは大変ね!!でもこっちの道よ。」
細木の杖をクルクルと回し一言マリーが呪文を唱えるだけで花の魔法のかかった杖は行き先を指し示す。必死に引き止めようとしたロビンはあっさりと道を見破られたことに面食らい頭を抱える。そんな様子にレーシーが小さく「これではどちらが悪戯してるかわからないです…。」とくすくすしていた。マリーに良いように振り回されるロビンは途方に暮れて首を振る。
「なんだよあんた、『自然の加護』を持ってるのか。妖精の魔法も無視するとは恐れ入るぜ。いや、先客の仕業もありか…?」
「先客?」
ロビンの言葉をマリーはなんとは無しに聞き返した。特にその言葉がピンときた訳でも理由があった訳でもなく、ただ本当に気まぐれで無理に名前を付けるなら無意識な勘といった所だろうか。だがそれを聞き返されたロビンは酷く驚いた様子で聞き返す。
「いやいやいや、嘘だろあんたら!?まさか、先客ってーかまぁ、あんたらに憑いてまわってる妖精に気付いてないなんて言わねぇだろうなぁ?!!」
「詳しく。」
マリーは一瞬のうちにロビンを掴み上げると鼻と鼻がくっつきそうな程、顔を近付けて問い詰めていた。問い詰められたロビンは冷や汗をかきながら慌てて釈明する。
「落ち着け、落ち着けってんだよあんた!それにその質問にゃあ答えらんねぇ!
それを聞いてマリーもパッと手を放しロビンを解放してやる。
「それは悪かったわね。ところで!誓いで思い出したんだけど、あなた達が悪戯をする時、ちゃんと相手に見返りもないとダメっていう誓約もあったよね?さ、何を用意してるのかしら?」
未だケホケホと咽ていたロビンにマリーがズイッと顔を寄せる。ロビンは慌てて距離をとろうとするが背後を木に阻まれてすぐ追い詰められてしまう。
「おいおいおい、だから落ち着けって、な?な?おれは最初っから言ってるだろ?あんたら困ってねぇかって。探し人だって妖精にとっちゃ迷い道とそう変わんねぇさ。それが聞こえたからおれは出て来れたんだよ!」
「へー、ならあなた『シューレン・ニクマーヴェル』の居場所がわかるの?」
やっとマリーが話に食いつき始めたことでロビンは調子を取り戻して来たのか、マリーの前からスルりと逃げると先程まで座っていた道標の上へと戻る。
「ほぉ、あんたらあのシューレンを探してんのかい。そりゃ面白ぇ。オレとの知恵較べで勝てたんなら力になるぜ?どうだいお嬢さん?」
ロビンは帽子の埃を叩いて身嗜みを整えると、手近な所に生えていた小枝をポキリと折って口に咥える。澄まし顔でロビンは落ち着き払うが、先程までのあたふたとその取り繕ったような余裕が可笑しくてアリスの脇に隠れていたレーシーにまたクスクスと笑われてしまっていた。。アリスもレーシーに笑われてロビンの耳が真っ赤に染まっていたのに気付いたがそっと気付かないフリをしてあげることにした。そしてロビンはまるで恥ずかしさを誤魔化すように仰々しく両手を広げ空を仰ぎながら少し大きめの声で口を開く。
「ルールは簡単。オレとの勝負に勝てば力になってやる。たったそれだけさ!勝負の内容はオレがあんたらに質問をしてそれに正しく答えられたんならオレはシューレンの居場所をあんたらに教える。な?シンプルだろ?」
ロビンが説明を終えるとマリーが
「ふーん、なるほどねぇ…」
と呟く。アリスはその時にマリーの口元が少し緩んでいたのに気付く。だけどその微笑は悟られまいするかのようにスっと消えてマリーはいつもの表情でロビンに先を促す。
「ルールはわかったわ!それで?その質問ってのは何なのかしら」
「おう、準備はいいのかい?なら行くぜ?」
そこでロビンが一呼吸おくとアリスにはゴクリと固唾を飲む音が聞こえてくるようだった。そこでその緊張感を楽しむかのようにロビンがニヤリと口を歪める。
「誰でもない誰かを探し出すにはどうしたらいい?」
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