1章:コソコソ妖精と旅人(続き)
朝日に色めく小道
東の山々の向こうから昇る朝日をアリス達はスクイーズの街へ流れるテール川沿いの細い小道から眺めていた。とても早起きでまだ重たい瞼を擦りながら歩けば、忙しない小鳥達の小唄に砂利道を跳ねる小石が勝手な伴奏を添えていた。川のせせらぎの上では柔らかな風に揺蕩う綿毛と共に
「なぁ、アリス。お前、シルさんからこの旅の詳細とか聞いた?」
ギルが眠たそうな目でアリスの方を見やりながら聞くが、アリスは「ううん」と首を振る。今朝早くシルに言われた通りアリス達は日が昇る前に早起きすると手早く身支度を整え、待ち合わせ場所の東の門へと向かった。そこでは眠そうなギルとカルーにいつもの優しげな微笑を浮かべたシルが待っていた。他の旅団のメンバーはいなく、たった一人の見送りだったシルは、だが余り説明はなくただ…
「東方大山脈の麓の森に行きなさいってだけ…。やっぱりギル達も聞いてないの?」
アリスの言葉にギルも軽く首を振る。
「ま。いつものことか。それに『権能』絡みの時は深く聞くなとか言うし、気にするだけ無駄か…」
ボヤいたようなギルの言葉にアリスは首を傾げる。
「ねぇ。その『権能』ってのは何なの?昔からシルさんの『夢見』が〜、とかって聞くけど、私よく知らなくって。」
アリスの質問にギルは「あー、」と曖昧な声を出し、チラリとカルーの方を見て助け舟を求める。
「なんやギルも分かってへんのかいな…。ま!私もよー知らんけどな、なんや『世界が使う魔法』みたいなもんや言うとったで?」
「『世界が使う魔法』??」
カルーの聞き慣れない言葉をアリスは反芻する。
「せやせや。魔法ちゅーのは、ざっくり言ってまえば現実に自分の思った事を反映する力やろ?ほんでな例えば、もし世界中の人が隕石が降ってくる思うたんなら、世界中の人の魔力を元に本当に隕石が降ってくるんやって。んで同じようにな、もし世界中の人があの人ならこんなことも出来る筈や思うたら、本当にそれを出来るようになってまうらしいねんて。それを『権能』って呼ぶんよ。」
カルーの一息にしてくれた説明をアリスはなんとか飲み込もうとする。
「えっと、つまりシルさんは沢山の人にその『夢見』を持っているって思われているから不思議な力があるってこと?」
「いいや、それじゃ半分正解ってとこだな。『権能』ってのは一度獲得してしまえば世界にはこんな魔法もあるんじゃないかみたいなあやふやな思いも自分の力にできるらしい。例えば、シルさんの『夢見』は平行世界とやらを覗く力みたいだけど、見えないものを見る力や他人の考えを覗いたりみたいな本来ない筈の能力でも誰かが関連付けて想像してくれさえすれば行使出来るんだってよ」
そんな風な補足を付け加えたギルにカルーが「なんやいい所取りするんかいな」と頬をつつく。それを煩わしそうに払い除けたギルに今度はマリーが質問を投げかける。
「それで?あなたはこの旅の目的に『権能』が絡んでるって考えてるんだよね?何か理由でもあって?」
少しだけ、まるで問い詰めるかのような雰囲気を醸し出したマリーからギルは視線を逸らし、「そんな大したことじゃねぇよ」と呟く。
「この前の
それを聞いたレーシーが警戒するかのように辺りをキョロキョロしながらアリスの服の裾を掴む。レーシーだけじゃなく、アリス、ギル、カルーの顔にも少しだけ不安の色が浮かぶが、そんな暗い雰囲気を払拭するかのようにマリーが「はぁ、」とただため息をついた。
「それなら大丈夫でしょ。だってそんなあからさまに尾けてるのがバレるような奴に、シルさんが何も言わなかったんだから、取るに足らないってことなんでしょ。ま、正体不明なのは相変わらずだし、多少気を払っといても損はないでしょうけど、過度に警戒し過ぎるものでもないと思うわ。」
そう言うマリーはいつもの、鼻歌交じりの調子だ。
「ほら、そりよりちょっと先を急ご?今日のうちに
気楽な様子で先を促す。アリスはコクリと頷くとちょっとだけ歩みを早めて、少し先を行くマリーに追いつくと、この後の予定を尋ねてみた。マリーの見立てでは今日のうちに継ぎ目を越えて森を抜けた先、ザウル草原の手前辺りで野営をするだろうということだった。そして翌日の午前中に目的の森へと到着しそこから『シューレン・ニクマーヴェル』を探すことになる。そこまで説明した所でマリーはまた一つため息をつく。
「それで、手がかりも無しにシューレン・ニクマーヴェルを探せってのが問題なのよね…、」
「おやおやおや?お嬢さん何か困り事?」
マリーがボヤいているとどこからともなく愉快そうな笑い声が聞こえてくる。
「困った迷った弱ったなぁ!道に迷えば心が惑う。ここはどこかな迷い道ぃ!さぁさぁ案内人は必要かい、お嬢さん?」
まるで人を小馬鹿にしたように笑う妖精は茂みからサッと風が吹くかのようにアリス達の間を通り過ぎると、気付けば岐れ路の道しるべの上に腰掛けていた。くたびれたトンガリ帽子にボロ布を丁寧に仕立てような服、靴は履かずヤギの足が覗いていた。その妖精が恭しく帽子をとってお辞儀をすれば頭には小さなヤギの角みたいものが見える。
「オレはプークのロビン。あぁ、プークより悪戯妖精とでも言った方が通りが良いかい?まぁどうだっていいさ。それより何か迷ったと見える。そんな時は妖精に知恵較べで勝てばいいのさ!」
ロビンと名乗ったその妖精は小さな体を揺らし大仰な身振りでそんな事を言う。
「どうだい、あんたら?勝負してみる気はあるかい」
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