幕間
『世界を呑んだ夜』
シューレン・ニクマーヴェルの冒険
ー 世界を呑んだ夜のお話 ー
それは遠い昔のこと。世界の真ん中の神殿にはテレスティアとシューレンという2人の兄妹が住んでいました。兄のテレスティアは神殿とその街を守る勇敢な近衛兵の隊長で、妹のシューレンは神様に祈りを捧げる巫でした。2人は街のみんなに慕われ、また彼らも街の人々を愛し、幸せに暮らしておりました。そんなある日、彼らの元に遠い遠い国からの使者がやって来て言いました。
「時期に夜が来ます。長い長い夜です。人も街も、動物や森に大地、月や星すらも全てその夜に呑まれ、真っ暗な中その夜を越えねばなりません。」
夜の国の人達はそう告げるとどこかへ消えてしまいました。
夜の国の人達がいなくなるとテレスティアとシューレンは神殿の祭壇へ登り、一昼夜もの間祈りを神様に捧げ続けました。そして夜の明ける頃2人の前には白い衣を纏った男が現れて言いました。
「今から空が白むことはありません。本当の夜明けは既に夜に呑まれてしまいました。そしてこの街にも星のない夜が訪れます。」
男はそう言うとテレスティアとシューレンの祈りを捧げるために胸の前で固く握られたそれぞれの両手に優しく触れます。
「シューレン、あなたは街の民へ、星を灯してあげなさい。可能性の光です。どんな暗闇の中でもその輝きを灯す力をあなたに。
そしてテレスティア、あなたは街の民を、星へ導きなさい。可能性への歩みです。どんな小さな希望であっても皆の導となって掴むための意思をあなたに。」
男がそう言って消えてしまうと、やがて街は夜に呑まれてしまいました。夜はまず星や月、家々に灯る明かりに松明の火まで、全ての光を呑み込んでしまいました。次に夜は呑み込んだ街や森、山や川といった全てを包み込んでその形を闇に溶かし混んでしまいました。恐ろしい夜が訪れてしまったのです。人々や動物達はテレスティアとシューレンの元へと身を寄せ合うようにして集まりました。その集まった不安げな全ての生き物達にシューレンは言いました。
「目を凝らしてあの夜の先を見なさい。」
そして生き物達は夜空の向こうにたった1つ、小さな小さな星を見つけました。
「さぁ、あの星の下まで皆で行こうではないか。」
テレスティアの掛け声で生き物達は僅かな、でも確かな希望を持って歩き始めました。
それから彼らはどれだけの時を歩いたでしょうか。時間すらも夜に呑まれてしまった今ではそれすらも分からないのでした。ただそれでも彼らは歩みを止めず、シューレンの指し示す微かな星を目指しテレスティアの後についていくのでした。
そしてある時彼らの前に輝かんばかりの黄金を持った『夜』が姿を現しました。
「ここにあるのはレヌスの黄金だ。この輝きを持ってすれば夜の王となり、世界を意のままに操れよう。」
と言って、『夜』はテレスティアに囁きかけます。ですがテレスティアはその囁きに首を振って答えます。
「私達が求めているのは人々の営みの輝きです。富の輝きではなく、その黄金はあるべき場所に返すものなのです。」
テレスティアはそう告げると、『夜』にその黄金を持ってついてくるように命じました。そしてやがて見えてきた川の川底へ、テレスティアは『夜』に黄金を投げ入れさせました。すると『夜』は投げ入れた黄金と共に川の底へ消えていってしまいました。
実はこの黄金こそが夜であり、夜はこの黄金にかけられた呪いなのでした。
こうして夜の呪いが消えた世界の端で徐々に空が明るくなるとやがて日が登り、夜明けがきたのでした。
人々や動物達は夜の明けた新しい大地で新たな生活を始め、幸せに暮らしたのでした。
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