第二話
「改めまして、代行屋へようこそ、桜木茜さん。僕は教育係兼この仕事のサブリーダーを務めてる
そう言いながら彼は、先程私が頑張って書いた書類をまとめている。私は、ようやく気になっていたことを訊けた。
「よろしくお願いします、庵野先輩。で、あの、乗っ取るって……?」
「そんなに気になります?……まぁ、そうですよね。それなら実際やってみた方が早いかもしれないですね」
そう言うと先輩は、奥の方に行き、少し経ってから水を持ってきた。
「怪しいとか言わずに、とりあえずこの水飲んでください」
「飲んだら何が起こるんですか?」
「とりあえず飲んでくださいって」
言いながらぐいぐい押し付けてくる庵野先輩に、私はもう抵抗をやめた。
「んっ……、ただの水じゃないですか……って、え!?」
水を飲んで前を見ると、私の目の前には、倒れた私がいた。おまけに先輩の姿は見当たらず、脳内に声が聞こえた。
『こうやって乗っ取るんですよ』
「うわぁ頭の奥から声が聞こえる気持ち悪い!」
『失礼ですね。茜さんはこの姿で依頼主に頼まれた仕事をするんです。今は説明するために脳内で話してますが、基本皆さんしたくないことを代行してもらうってことでご依頼されたので口出しはないと考えてもらっていいです。みんな休みたいんでしょうね。じゃあ戻りたいので、そこの薬飲んでください。さっきのは錠剤溶かした水なんです』
テーブルの上には一粒の錠剤があった。私はそれをすぐに口に入れ飲み込んだ。するとその瞬間、辺り一面が暗くなり、目が覚めると自身の身体に戻っていた。
「気分はどうですか?」
「……まるでなにかの物語みたいですね」
「まぁ、こういうことです。結構うち人気なんですよ?退職したいとか宿題してとか、あと……あの、自殺したい、とか」
そう、先輩は神妙な顔で言った。
「え……止めたりは」
顔を
「これは決まりで、依頼を断ったり止めることはできないんです。なんでかは、僕にも分からなくて」
そんな先輩の顔は、なんでか捨てられた子犬のように寂しそうで、泣きだしそうだった。それから少しの沈黙のあと、先輩は一気に立ち上がるといつもの笑顔で言った。
「さ、次は他の代行屋さんを紹介しますね」
「こちら、主に作業担当の
そう、紹介された人は、まるでこの世の闇を全て吸収したような、とにかく暗い男性だった。長い前髪に目が隠れて、表情がわかりづらい。
「どうも……」
「あっはい……じゃなくて、桜木茜です、よろしくお願いします!」
私の声を聞いているのかいないのか、瑠都さんはすぐにそっぽを向いてしまった。
「瑠都は少し人見知りなんですよ。さて次は、
「こんにちは界さん!この人新人さん?私枢木莉奈!莉奈って呼んでね」
「さ、桜木茜です!よろしくお願いします」
莉奈さんは無駄にテンションが高く、コミュニケーション系が得意というのが本当によくわかった。
「……はい。最後に、この代行屋さんのリーダー、
そう紹介されて見た先には、布団にくるまって今にも寝そうな成人男性の姿があった。
「あー、この子が桜木さん?よろしくね、おれ相原です」
「桜木茜です!この度は御社に……」
「あぁ、そういうのいいからいいから。お菓子食べる?きのたけの山里だけど」
きちんと挨拶をと思った私は相原さんに軽くあしらわれた。えぇ……と思っていると、それを見た先輩は少しため息をついてから小さく言った。
「相原さんは、基本こんな感じなんですよ。実質、僕が全部仕切ってます……」
先輩は、呆れたように笑っていた。
苦労してるんだろうな、この人。
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