それ、代行させてください
夕凪霧子
第一話
蝉の鳴き声がうるさい8月。
「姉ちゃん、もう一ヶ月もニートしてるね」
朝、出勤前の弟に指摘され、私は思わず朝ごはんを食べる手を止め顔を覆った。
「お姉ちゃん、
「それを言うなら僕も姉ちゃんがニートになるとは思わなかったよ。んじゃ、弟は仕事にいってきまーす」
「いってらっしゃい……」
笑顔の弟を見送り、今日も仕事探しの一日が始まる。大きいため息をついてから私も意を決して外へ出ることを決めた。
「求人募集してまーす、そこのお姉さんどうですか?」
家から出て5分ちょっと、なぜか人通りが少ない道でチラシを配っているお兄さんがいた。
「えっ、私?……“代行屋”?」
「はい!少しでもいいので見学していきませんか?」
そのお兄さんの笑顔があまりに眩しくてかっこよかったから……じゃなくて、仕事に結び付けられるならと思い、了承した。二つ返事で。
「仕事、探してたんですか?」
「実は前の仕事辞めちゃって、就職先探してたんですよ」
「あー、そうなんですね。お姉さんならこの仕事向いてると思いますよ!」
そんな話をしながら、ある白い小さな建物の中に入るとそこにはたくさんの資料が至る所に積まれていた。それはまるであまり整備されてない図書館のようだった。呆気にとられていると、彼は
「
と大声で叫んだ。
「あの、“代行屋”って一体……」
一番の疑問を訊くと、「ったく、相原さんは……」などとぼやいていた彼は笑って言った。
「あ、今から説明しますね」
「代行屋っていうのは、簡単に言うと“人の身体を乗っ取って代わりに仕事とか宿題とか……、やりたくないようなことをする仕事”ですね」
彼があまりにもさらっと言うものだから、つい軽く流しそうになった。しかしいやいや、と思い訊いた。
「乗っ取るって?」
「それは企業秘密です。貴女が入社してくれるなら教えますが……、給料も、依頼によって様々ですがめちゃくちゃ高いですよ」
さすがに怪しいと思った。けど、それよりも仕組みを知りたかった。それに、もうニート生活は嫌だった。仕事で鬱になって辞めたのに、仕事してない人生でももう鬱になりかけていた。そんなの本末転倒だ。
「入社、させてください。お願いします」
気づいたら、そう返事をしていた。
「その返事をくれると思ってました」
彼は、今までとは少し変わった笑顔で、「ようこそ、桜木茜さん」と言った。私が彼に名前を言った覚えは、正直なかった。けど面倒そうだから訊くのはやめた。
「これから、よろしくお願いします」
私は、面倒くさがりで、適当で、流されやすくて、変なところで真面目だ。残念ながらここでは真面目要素は出てこなかったらしかった。
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