Ⅱ-Ⅶ 助っ人推参 ②
「援軍?」
柊木さんは怪訝そうな顔で尋ねてくる。
「あぁ」
俺は大きく首を縦に振って肯定した。
「後れを取り戻すには人手を増やせばいいんだよ」
「でも、藍那や部長は私たちの仕事を引き受けてくれてるのよ? そのうえ更にこっちの仕事まで回したんじゃ、流石に……」
「柊木さん、何か勘違いしているようだあね。俺だってこの状況であの二人に手伝ってもらおうなんて考えるほど恥知らずじゃない。他にあてがあるんだよ」
そう言ってニヤリと笑った。
この状況下の中で、無条件で仕事を受けてくれる人物を俺は知っている。
そしてこの状況はその人物にとっても好都合。つまりはWinーWinという訳だ。
善は急げと俺はさっそくメッセージアプリでその人物へメッセージを送った。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
「灰本和人、総務部の危機を聞きつけて推参させてもろうたで!」
数分後、会議室のドアを力強く開け、現れたのは俺達の同期灰本だった。
そう、俺が連絡したのはこいつ。だってこの状況、こいつにとっては美味い話だろ?
「りょーちんから話は聞かせてもらった。柊木さん、なんやお困りのようやな」
「えっと、灰本君……だっけ? 涼太と一緒によくご飯食べてるよね」
「せやねん。何と言っても俺とりょーちんは一心同体と言っても過言やないほどの仲やからな」
なー、とこちらへ爽やかに灰本は微笑む。
過言だから。気持ち悪いことを言うな。
「新人研修の時からの腐れ縁だ。たまたま同じグループで意気投合したってだけだよ」
柊木さんに勘違いされないようにフォローをしておく。
俺にそっち系の趣味はないからね。
「照れんでもええんやで?」
ニヤニヤと灰本はこちらを伺う。うぜえ。
「でも灰本君、こっちの方手伝っちゃって大丈夫なの? 自分の部署の仕事とかと掛け持ちだと大変じゃない?」
柊木さんは不安そうに灰本へ尋ねる。まぁ、妥当な疑問だよな。
「あぁ、そのことやったら心配ないで」
しかし灰本は胸をドンと叩くとニカッと笑った。
「俺の仕事、総務部に取られてもうたから今特に忙しないねんなー」
「へ?」
柊木さんの目が点になる。鳩が豆鉄砲を食ったような顔ってこんな感じなんだろうな。
「俺の部署は商品開発部で、その中でも商品企画課に在籍させてもろうとるんやけど、最近のうちの業績がすこぶる悪いからゆうて専務が独断でうちから仕事を吸い上げてもうてな。せやから、そちらさんには悪いねんけどすこぶる手すきの状態やねん」
なるほど、それが日向部長が言っていた話にリンクしていく訳か。
柊木さんもそうなんだと興味深く話を聞いている。
「正直無茶苦茶な話や思たわ。うちの部署皆専務に対してブーイングの嵐やで? ほんまあの人何考えてんねんゆうてな」
ほんで、と灰本は続ける。
「どうしようかー言うてたらりょーちんから連絡があったんや。早速課長に伝えたら是非に協力してこい言うてくれてな。部長も他の皆も総務部のこと応援しとったで。理不尽かもしれへんけど頑張りなって」
カカカと灰本は笑った。
商品開発部の皆さんが常識的な方々で良かった。
「ほなから俺の仕事のことは気にせんでもええ。むしろ今りょーちんらがやってるのが俺の本業やからな。役には立つと思うで」
「ありがとう、灰本君」
その言葉を受けた柊木さんが少し嬉しそうに微笑みながらお礼を言った。
「礼には及ばんて。俺も柊木さんと仲ようなれるなら本望やからな」
お、さらっとアピールしたな。
しかし柊木さんは気付いていないのか、「じゃあ早速今の状況説明するわね」と仕事モードに入ってしまった。うっすらと灰本の顔に影が差す。頑張れー、灰本ー。
その後、灰本を交えて現状の確認を行った。
灰本曰く、短期間でここまでを求められてるのは正直嫌がらせに近いそうだ。やっぱそうだよね、気付いてた。
でも灰本はその状況に逆に燃え上がったらしく、「本職のプライドを見せたろうないか!」と張り切っている。
それを見て柊木さんもすごく頼りになりそうだなと言った眼差しを灰本に向けていた。おや、これはもしやいい雰囲気というやつなのでは?
そこで俺は老婆心ながら少しお節介を焼かせてもらうことにした。
「すまんが、柊木さん、灰本。俺ちょっとサーバールームに戻ってくるわ」
「は? 何言ってんの?」
「どないしたん?」
二人から疑問が飛んでくる。柊木さん、俺に対してだけ口調がきついよね。
「んー、碧依がちょっと潰れかけてるみたいでな」
黒川さんは使い物にならなくなったと言っていた。今思い返せばなかなかに酷い言い草だよね。
「いくら敵側とは言えちょっと心配なんだよ。だから様子をちょっと見に行こうかなと。ほら、うちは灰本来てくれたから大丈夫そうだしさ」
「ダメよ」
しかし柊木さんはピシャリと短く俺の提案を拒絶した。
「今は時間が惜しいんだから。あんたもさっさと作業しなさい」
柊木さんはこちらを冷たく睨みつける。
何だかいつもより言葉に棘があるような気がしてならないんですけど、気のせいじゃないよねこれ。
「いや、でもさ……」
ただやはり碧依が心配だ。説得を試みようとすると、更に柊木さんの目が鋭くなった。
「ダメって言ってるでしょ。私の言うことが聞けないの?」
うん、その言い方はちょっとないかなー。そんなだから碧依が離れていったっていうの理解できてなかったの?
いやいや、怒るな、怒るなよ俺。腹の底から湧いてきた怒りを何とか、抑える。大人になれ佐和涼太。出かけた言葉を飲み込めよー。感情に任せて発言すると柊木さんとこじれるのは目に見えてるからな。
「ま、まあええんちゃう? なんやりょーちんも訳アリみたいやし。ほら、俺がりょーちんの分2倍頑張るから」
すると空気を呼んでくれた灰本が、慌てて俺の援護をしてくれる。援護するのが柊木さんじゃなくて俺な辺りは灰本の常識人さに感謝をしたい。
柊木さんはというと、灰本の言葉を受けて少し考えた後、ため息をつきながら口を開いた。
「……行ってきなさいよ。でも仕事はたんまりあるんだからさっさと戻ってくるのよ」
「ありがとな、柊木さん。あとついでに灰本」
「俺はついでなんかい!」
礼を言う俺に速攻でカカカと笑いながら灰本は突っ込んできた。
すまんね、お前に気を遣わせてしまって。その調子で柊木さんのことちょっとの間頼むな。
「んじゃ、ちょっと行ってくる」
「おう、いってらー」
俺は、一番の同期に後を任せ、会議室を後にした。
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