第262話 根城29
服を着て、武器を持つ。
ただそれだけ行為に違和感を感じない事に八城は不快なまでの違和感を感じていた。
何故ならクイーンが人の姿をしているから、人が自然に行う行為に違和感を覚えられないのだ。
季節の巡りと同様に、草木は環境に適用する為に色を変え葉を落とす。
だからこそ生物としてのクイーンも外敵環境と共に巡るだけ、そう学習しただけの姿と行動に人は容易く意味を求めてしまう。
「本当に姉貴……なのか?」
大きく目を見開き呟いた浮舟衣へクイーンは上機嫌な鼻歌を口ずさむだけだ。
眼前に敵を捉えてなお、瞳に宿す切なる願い。
菫と同じく人の姿をしたクイーンが、どうか元の姉であって欲しいと願う家族故の切望は、いとも簡単に敵意を奪う。
脆く危うい……と、誰が見てもそう思うだろう。
だが今、彼女を……いや、クイーンを『浮舟茨』ではないと否定出来るだけの根拠がない。
だから八城や桜が動くしかない。
この場において『浮舟茨』という彼女を知らない者だけが、今のクイーンを止める事が出来るだから。
「桜!後量産刃は何本残ってる!」
「ッ!……こっちはテルさんがかき集めた分だけで、使い物になる量産刃は二本だけです。他には桂花さんと、衣さんが持ってる一本づつの計四本です」
桜が手渡して来た一本は横須賀のマークが刻印されているところを見れば、テル自身が使っていた物で間違いない、有り難く使わせてもらうとしよう。
「でも隊長!あの、人……クイーンをどうするつもりなんですか?隊長と菫さんはどうやってクイーンの外皮を斬ったんですか!」
正直クイーンの外皮の頑強さの種明かしは簡単だ。
表は堅く、内は脆い。
構造の種自体は簡単にも関わらず、攻略の方法は非常に難しい。
「桜、あいつは内側からしか貫けない。アイツの外皮は、外側からの刺突や斬撃には強いが内側からの刺突には弱いんだ、言ってる事分かるな?」
八城はあの時、量産刃を折る覚悟で、クイーンの口の中へ量産刃を差し込んだ。
そして、外皮からほぼ同時に菫が差し込んだ量産刃によって、八城の量産刃と菫の量産刃はクイーンの楯鱗を刺し貫く事に成功した。
ただ、八城一人の力では楯鱗の内を刺し貫く事は不可能だ。
つまり内と外からの同時攻撃でのみクイーンの外皮である楯鱗は貫く事が出来る。
「一度穴が空けば、内側から切り裂く事は可能だ。だから俺とお前で一撃だけタイミングを合せる必要があるだから……」
そう言葉を繋げる途中、八城は有り得ない物を見た。
有り得ない、と言うより予想外と言ったほうがいいだろう。
折れた人間はそのほとんどが立ち直らない。
八城が今まで見て来た人間の中でも立ち直った者など皆無だ。
それが肉親を含んだ絶望であるなら殊更時間が掛かるのは仕方がない。
だからこそ、八城はその光景に目を疑った。
誰よりも状況を理解していないと思っていた人間が、誰よりも先に前に出た光景に、八城は目を奪われていた。
浮舟桂花がそこに居た。
居る筈もないと思っていた最前線にたった一人挑み掛かる彼女はこの中の誰より状況を理解していたから
「隊長!行って下さい!コッチは隊長の動きに合わせます!」
桜の叫び理由は、即座に理解する。
クイーンへ我武者らに攻撃を叩き込もうとする桂花だが力量差は明白だ。
桂花の量産刃による攻撃のことごとくをクイーンは八城と菫から奪った二刀の量産刃でたたき落とし、桂花は交互に振り下ろされる二刀をギリギリで躱して行く。
「了解だ、桜!ちゃんと着いて来いよ!」
一撃、八城が桂花を庇う様に前へ、途端クイーンは二刀の量産刃を八城へと閃かす。
「桜!そっちを頼む!」
「了解です!隊長!」
一刀は八城が、もう片方を桜がそれぞれ抑え、二人の隙間から桂花が無理矢理にでも一刀をクイーンの眼前へ差し込んだ。
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