第261話 浮舟桂花
熱く熱く響き渡るクイーンから発せられる鼻歌が声にならない桂花の叫びと重なり合いながら、腹に据えた氷結をゆったり溶かし、何時か桂花自身に定めたその先に在った熱の捉え方を思い出したように桂花の瞳が冴え渡る。
「あぁ……あぁ、まだそこに居たんですね、姉さん」
秋の空に響く叫び声にも似たクイーンの金切り声様な鼻歌
それは、記憶の中で姉がよく口遊んでいた鼻歌だ。
優しい記憶の中にしか居ない姉が、決まって機嫌がいい時にだけ、同じ曲の同じフレーズを口ずさむ。
視線の先の『東雲八城』がクイーンと呼ぶ生物が……
姉の顔で……
姉の声で……
隊服を着て量産刃を携えて、生きていた頃の『浮舟茨』そのままで
『浮舟桂花』の知っている『浮舟茨』の歌を口ずさむ。
「……ダメじゃないですか……姉さん……こんなところで、家族以外の人に迷惑かけちゃ……」
見据えた先、深く黒くこびり付いただけの燃え尽きていた筈の熱が瞳の奥にもう一度熱を灯す。
思い出を汚すなといつの日かの自分が叫ぶ。
あの場所に立つ姉に似た何かは姉じゃない。
だから、幸せだった頃の記憶を、これ以上姉の姿を使って汚す事だけは許さない。
桂花が再三に渡って自身へ問いかけた問いの答が今ようやく見つかった。
馬鹿にするな!と心が叫ぶ
私を馬鹿にするのはいい、だが姉を馬鹿にする事だけは許さない。
私を守った。
兄妹を守り抜いた。
父と母の尊厳を守り抜いた。
私の自慢の姉を馬鹿にするな!
戦う武器はある。
走るための足も動く。
心は今、痛みの中で目を覚ました。
なら、私は……
そうだ、だって私はまだ――
戦えるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます