第163話 偶像と非凡3

天王寺の身体は重く沈み込み、気付けば地面の方が近かった。

喉に手を当てれば、そこにはきちんと胴と首が繋がっている。

繋がっているのに、今の天王寺催花の言葉は繋がっていなかった。

出さずとも分かってしまった。

喉の調子が悪い訳ではない。

怖くて声が出ない訳でもない。

当然だが、嬉しくて声が詰まっている訳でもない。

「おい、催花てめえ……」

天王寺に起こっている今の事実を誤魔化す為に笑ってみせた。

上手に笑えているかは分からない。

笑っているつもりで、本当に笑えているのか?どんな表情を浮べているか天王寺自身も分かっていない。

そもそも、時雨はアイドルだ。誤魔化す為に笑って見せたところで、そんな偽物を彼女は直ぐさま看破する……いや、看破されているのだろう。

時雨は天王寺催花を無理矢理に立たせ、礼拝堂の柱の隅に連れて行く。

「てめえ、何時からだ?」

気付かれて当然かもしれない。

喉を抑え違和感を露わにしていれば、天王寺の事情を知る者であるなら気付いてもおかしくない。

「ああ、そうだった……てめえは喋れねえんだったな……」

無言のまま目を逸らす天王寺催花の様子に、掴んでいた手を離す。

壇上に立って居る八城の言葉は最後の一言を吐き出し、それと同時に時雨は険しい表情を浮べるのだった。

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